UCSは結局、何が先駆的だったのか――
シスコのサーバが米国シェア2位を獲得した理由
2012/04/18
「サーバ機はもはやコモディティ(日用品のようなもの)。製品間に大きな違いはない」。既存サーバメーカーにはなかった発想で、そういうイメージを打ち砕いたのが、シスコシステムズによって2009年に発表されたサーバ、「Unified Computing System(UCS)」だ。そのコンセプトが正しかったことは、この製品の市場シェアが物語っている。ここでは、UCSがどう画期的だったのかを、改めて振り返りたい。
2009年、ネットワーク機器大手のシスコシステムズがサーバ機「Unified Computing System(UCS)」を発表したとき、だれもが驚いた。ルータやスイッチの会社がなぜサーバ機に手を出すのかと。そしてシスコが発表したサーバ機は、他のサーバ機とはまったく発想の異なる製品だった。そのため、同製品のよさがどうもよく分からないという人はいまでも多いのではないだろうか。しかし時代は急速に変わり、UCSの価値を認識して導入した顧客が、日本でも3桁に達している。また、UCSのアーキテクチャを、他の主要サーバメーカーが真似し始め、「ユニファイド コンピューティング」という発想が正しかったことが、証明されようとしている。シスコシステムズ日本法人のキーマンへのインタビューを通して、シスコのサーバ機とはどういうものなのかを改めて探ってみたい。
シスコのUCSは、これまでとはまったく異なる発想に基づいている。これをひとことでいえば「仮想化に理想的なサーバ」だ。サーバ仮想化が進むほど、迅速・効率的なITインフラ実現の邪魔になってくるのが、サーバ・ネットワーク・ストレージという物理的な存在と運用だ。UCSでは、1台1台の外見こそ一般的なブレードサーバやラックマウントサーバと同様だが、多数のサーバ機を、あたかも1台のサーバ機であるかのように管理できるようになっている。さらにUCSでは、サーバからストレージ、IPネットワークへの接続も統合している。各サーバブレードあるいはラックマウントサーバへの物理的な配線は導入時の数本のみ。この物理的な配線を論理的に分割し、ストレージI/Oやサービスのトラフィックなど、目的に応じて割り当てるようになっている。言い換えれば、「仮想マシンをIP/ストレージのネットワークに直結し、その経路にある物理的な存在は可能なかぎり抽象化してしまう」というのが基本的なコンセプトだ。
以下、シスコシステムズ日本法人 執行役員 ユニファイドコンピューティング事業統括 俵雄一氏、そしてユニファイドコンピューティング事業 UCSプロダクトマネージャ中村智氏へのインタビューをお届けする。
シンプルでなければメリットがない
――まず、シスコというネットワークの会社が、なぜサーバを出すことになったのかを改めて聞かせてください。
俵:UCSの開発は2006年頃に始まりました。当時、お客さまはデータセンターについて2つの課題を抱えていました。1つは、データ量や演算処理ニーズがどんどん増えて、ただでさえコストセンターであるデータセンターが、さらに高コストになってしまっている。サーバ仮想化などで改善はしているものの、それでも追いつかないという悲鳴に似たお客様の声があったといいます。サーバ仮想化により、1台の物理サーバで複数の仮想サーバを稼働させれば効率向上につながります。しかし、逆に運用が複雑する部分も多く、TCOが逆に上がってしまうと。もう1つは、ビジネスの速さにITが追いついていけないという課題です。つまり、コストを抑えつつビジネスへの即応性は高めたいという、いわば相反する課題があり、シスコとしても解決策を考えてほしいということでした。
シスコは、ネットワーク分野では経験と知見があり、製品群も幅広く揃えています。しかし、お客様の最大の課題はデータセンターにある。これに対するソリューションを、シスコとしても考えなければならないだろうと。それがクラウド戦略につながりました。ネットワークに強いシスコが、ネットワーク側から見てサーバを仮想化したらどうなるか。従来とはまったく異なる考え方、アーキテクチャ、デザインでこの2つの課題を解決していこうとした点がUCSの特徴です。
――従来のサーバと、具体的にどう違うのでしょうか。
中村:従来は、サーバというハードウェア同士やネットワークスイッチ、ストレージというハードウェアを、それぞれでケーブルによって配線してネットワーク機能を提供していました。それによって、サーバで稼働しているアプリケーションをサービスとして利用しようとしてきました。この考え方のままサーバ仮想化の技術が発達していったので、ネットワークの物理接続の依存性が高くケーブルがものすごく増えてしまい、さらに思ったようにサーバが減らないといったことが起きていました。
UCSではサーバもネットワークも論理的に"1つ"のシステムに統合されていて、物理的には大きな箱と太いパイプがつながれている状態です。この箱とパイプの中身は自在に切り分けて分配します。ネットワーク接続は論理的にあらかじめ設定しておき、仮想サーバに対して「メニュー」として提供します。個別に配線をしなくても、すでにつながっている太い管の中から必要な分を論理的に割り当ててやるので、作業的にも格段に楽になります。作業が楽ということは、スピーディに導入できるというのと同義です。
俵:「シンプルさ。それは究極のソフィスティケーション(洗練性)だ」というダ・ヴィンチの言葉があるのですが、それがUCSだと思います。UCSのサーバやNexusのネットワークも含めて、徹底的にシンプルにというのが設計思想です。シンプルな構成と簡素化された運用により、事業継続も簡単にできるし、俊敏性という付加価値も提供できる。これによってお客さまのTCOを下げる。こうしたUCSの考え方はこれからの業界スタンダードになるだろうというくらい、今までとは異なる新しい発想だという自信を持っています。
運用負荷を下げ、柔軟かつ迅速なITへ
――運用の面ではどのようなことができるようになっていますか。
中村:サーバ仮想化ではリソース管理が大きな問題です。UCSでは、サーバ、ネットワーク、ストレージを大きな1つのかたまり(リソースプール)として管理します。単純な構成ですし、1つの管理ツールで行えます。また、サーバが行っている仮想化のネットワーク処理をハードウェア側に肩代わりさせることができるのも特徴です。仮想化に必要なネットワーク機器や経路を最小限にし、サーバのCPUはアプリケーションの処理に専念できるので、サービスを高速化できます。
サーバ仮想化の運用現場では、サーバ管理とネットワーク管理の境界も問題になります。ネットワーク管理者がサーバのことを理解し管理する、あるいはサーバ管理者がネットワークのことを理解し管理運用するのは、時間もかかるし業務が増えるのでやりきれない部分があります。それに、特定なタイミングで想定外の場所に仮想マシンが移動してしまって、従来型の閉じた・固定的な環境で構築していたネットワークの考え方のままでは、パフォーマンスや拡張性が担保できないということも起きます。そこでUCSは、物理的な運用管理はシステムでカバーするようにしています。
――サーバ担当者がこういう目的の仮想マシンが欲しいと言えば、それに適したネットワーク環境はすでに設定してあるのでそれを適用して使うということですね。サーバ担当者はネットワークがどうなっているかを考えなくていいし、ネットワーク管理者は従来どおりの管理をしていればいいと。
中村:サーバ変化やネットワーク環境を付与するために配線などの作業は不要ですし、すでにつながっている太い管の中から割り当てるので、帯域や冗長性の確保といった面倒なことをサーバ管理者が考える必要もありません。
担当者が楽になるということは要望にすぐに応えられるということですから、全体としてITのプロセスが加速します。さらに、アプリケーション担当者からの要望に応えることに忙殺されていたネットワークやインフラ担当者に余裕ができれば、ビジネスの要望にさらに応えるような新しいシステムを開発するといった、生産的な仕事に時間を振り向けることができるようにもなります。
ネットワークが分かるからエンド・ツー・エンドの管理が可能
――ところで、シスコはUCSを発表後、ほどなくしてヴイエムウェア、EMCとのVCE連合を発表したため、UCS はVCEと密接に連携した製品なのではないかというイメージを持っている人が多いと思います。シスコのUCS 事業にとって、VCEはどのような位置づけでしょうか。
俵:シスコはストレージを自社で持つつもりはありません。ストレージにはコアな技術と信頼性が求められるので、餅は餅屋と考えています。そういうエコパートナーと組んだソリューションの1つがVCEです。UCSを出し始めたころは、画期的なサーバだと言ってもそれだけでは理解していただきにくいため、具体的なソリューションとしてVCEを紹介しましたが、今では他の組み合わせもいろいろと可能になっています。ストレージではネットアップなどの企業、仮想化ソフトウェアではシトリックスシステムズやマイクロソフトとの連携も強化してきました。
――シスコのサーバを選ぶと、企業にとってはどのようなメリットがありますか。
俵:具体的にイメージしていただきやすいのは、コスト削減です。ビジネスがどんどん成長してサーバが増えていくような企業の場合、増えれば増えるほどケーブリングやネットワークの再構築が不要というメリットが生きてきます。配線作業の人的コストだけでなく、ネットワーク再設定のためにビジネスを止める必要があるとしたら、その間の事業機会のロスもありますから。
製造業など、もうシステムは十分で拡張の可能性はあまりないという企業でも、シンプル化のメリットがあります。仮想化で集約することにより、システムを8分の1、10分の1という規模にできれば、機器のメンテナンスや運用のコストが圧縮できます。
――今後、シスコが目指しているのはコンピューティングとネットワーキングが高度に連携した社会だと思いますが、例えば自社データセンターとIaaSを連携するハイブリッドクラウドが現実化するなどしていくと、ますますエンド・ツー・エンドの管理が必要になりますね。
俵:エンド・ツー・エンドでサービスレベルを管理するには、ネットワーク経路も把握しなければなりません。シスコのクラウド戦略の柱には、統合ソリューションとしてのユニファイドコンピューティング、ユニファイドファブリック、ユニファイドマネジメントがあります。サーバのUCS、ネットワークスイッチのNexusの他、ネットワーク構成を変えずにデータセンター間を安全に繋ぐツールも出しています。これらのものを使うことでエンド・ツー・エンドのサービスを提供できます。
お客様がクラウドに求めるのは、今までと違うスピード感でビジネスの要求に応えることや、それによって新しい顧客を獲得することです。そのために必要なセキュリティレベルやサービスレベルについて気にすることなく、本来の業務に集中していただけるようなクラウドを実現するためには、サーバが従来とは異なる仮想化でもベアメタルでも同様に実現できる、統合されたアーキテクチャでなければなりません。UCSは、コンピューティングをよりクラウド化するために必要な基盤だと考えています。
UCSは、発売後2年あまりで、x86ブレードサーバでトップブランドに成長した。2011年第4四半期には、米国では第2位、世界で第3位のシェアを獲得している(※IDC調べ)。日本でもこの製品の価値を認め、導入した顧客が3桁に上っている。そしていま、UCSのアーキテクチャを、他の主要サーバメーカーが真似し始めている。その「ユニファイド コンピューティング」という発想が正しかったことが、ここでも証明されようとしている。
シスコのクラウド 戦略〜The World of Many Clouds〜
「多様なクラウドのある世界」
シスコのクラウドビジョンは、クラウド アプリケーション、ユニファイドデータセンター、インテリジェント ネットワークで構成されています。
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提供:シスコシステムズ合同会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部
掲載内容有効期限:2012年05月24日
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