サーバを仮想化することで
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ITシステムの管理負荷の増大や、リソースが効率的に配置されていないために投資対効果がよくないといった、企業の抱える問題を解決する技術として「仮想化」が注目されている。仮想化が問題解決のキーテクノロジーであることは、もはや疑う余地がない。ただし、仮想化といえば「サーバの仮想化」と思い込んでいないだろうか。そのバックエンドにあるストレージを見落としてしまうと……。
サーバ仮想化で ライフサイクルコストを削減 |
まず、仮想化というトレンドが起こった背景についてまとめておこう。
技術が高度化し、管理対象となるアプリケーションやデータが急激に増加したことで、IT管理者は慢性的に不足している。このため、ハードウェアコストは年々低下しているにもかかわらず、運用やメンテナンスといったサービスコストは増加の傾向にある。
さらに、新規システムの追加やデータの量および質の変化、ビジネス環境の変化といった状況は、ITリソースの設計を困難にしている。取り扱うアプリケーションやデータの量が急激に増加するため、例えば3年後に必要なリソースを予測するのが難しくなっているのだ。そのため、安全を考えてオーバースペックなリソースを配置せざるを得なくなり、その結果として膨大な余剰リソースが発生することになる。
つまり、各企業は管理負荷を減らして投資対効果(ROI)を高めるという課題に直面しており、そのための技術としてクローズアップされているのが仮想化だ。
デル アドバンスドシステムグループ ストレージソリューション 本部長 秋山将人氏 |
仮想化といえば、まず思い浮かぶのがサーバの仮想化だろう。サーバの仮想化によって得られるメリットは、大きく分けて以下の3点であるとデル アドバンスドシステムグループ ストレージソリューション 本部長の秋山将人氏は説明する。
- サーバリソースの利用効率の向上
- 柔軟性の確保
- 可用性の確保
まず、1台の物理サーバ上に複数のOSを載せることで、サーバの台数を減らすことができる。これにより、ハードウェアのコストに加えて、設置の場所、電源、空調などの設備投資も削減できる。さらに、物理サーバと論理サーバを分割することにより、新たな論理サーバを展開したり、論理サーバを別の物理サーバに移動するといったことが容易になる。つまり、新規展開や構成変更が簡単にできる柔軟性が実現されるのだ。
そして、耐用年数によるハードウェアの入れ替えの際も、論理サーバは別の物理サーバ上で稼働させたまま、古くなった物理サーバを入れ替えることができるため、ダウンタイムを最小化することができるのである。
サーバ仮想化環境が求める
ストレージとは |
サーバを仮想化することでさまざまなメリットが得られるが、それはサーバの運用面についてのみである。企業としてROI向上などの効果が出るためには、ITインフラ全体の最適化が必要だ。
「サーバだけを仮想化しても、ITインフラ全体で見ると従来型ストレージの部分がボトルネックになってしまう」と秋山氏は説明する。そのため、仮想化環境では、ストレージに対して以下のようなことが求められる。
1.スケールアウト型の展開
仮想化が大きなトレンドとなっていることは間違いないが、全社システムを一度にすべて仮想化するというケースはまれだ。大抵は、できるところから始め、順次拡大という計画を立てているし、また仮想化はそのようなスモールスタートから拡張していくのに適した技術でもある。ただし、従来型のストレージは「3年後を見据えて」といったように、将来このくらいは使いそうだという容量をあらかじめ用意しておくのが一般的だった。
リソースを効率的に利用するというのがサーバ、ひいてはITインフラを仮想化する目的のはずだ。にもかかわらずストレージだけは、先を見据えた結果オーバースペックのものを導入するというのは理屈に合わない。つまり、仮想化環境では、ストレージもスモールスタートから順次拡張できるスケールアウト型で、パフォーマンスと容量の展開ができるべきなのである。
2.柔軟性の確保
サーバが仮想化されていない状況では、1つの物理サーバ上で稼働しているアプリケーションは1つである。つまり、ストレージはその1つのアプリケーションが出す入出力信号(I/O)だけを受ければいい。量的には変動しても、同一アプリケーションのものなのである程度の予測が可能だ。そこで、その予測に基づいて初期設定を行う。
しかし、仮想化されたサーバでは、1つの物理サーバ上に複数のアプリケーションが稼働しているうえに、そのアプリケーションは物理サーバ間を移動することがある。複数のアプリケーションを束ねた状態で変化するI/Oに、柔軟に対応する必要があるのである。これは、人手による制御は困難であるために、自動的に調整されるようなものでなければならない。
3.可用性の確保
サーバ同様、ストレージも耐用年数による入れ替えという宿命からは逃れられない。昨今のストレージ容量は膨大であるうえ、ストレージのリプレイスは「バックアップ→ストレージの入れ替え→リストア→稼働チェック」というさまざまな作業が必要な一大プロジェクトである。サーバを仮想化することによって、サーバのダウンタイムを最小化しても、ストレージのリプレイスによるダウンタイムが発生したのでは、可用性向上というメリットが死んでしまう。つまり、サーバを仮想化するならば、ストレージも仮想化しなければ意味がないのである。
ストレージの仮想化を実現する
iSCSIに特化したPS5000シリーズ |
デルが2008年1月にiSCSIストレージ機器ベンダであるイコールロジックを買収した背景は、まさにこの仮想ストレージの必要性にあった。そして、仮想化ITインフラ向けのストレージとしてイコールロジックブランドで提供するのが、iSCSI仮想化ストレージ「Dell EqualLogic PS5000」シリーズである。
仮想化されたストレージとは、複数のストレージがサーバからはあたかも1つのストレージのように見え、どの物理サーバからでもどのストレージポートに対してでもアクセスできるということだ。処理が発生したときに最も処理負荷の低いストレージポートを利用すれば、効率的な利用と高パフォーマンスを実現できる。このために必要なのが、「ストレージポートの仮想化」であると秋山氏は語る。
しかし、従来のストレージ間通信プロトコルであるファイバ・チャネル(Fibre Channel)は、ポートの持つユニークなアドレスを元に、このサーバに対してこのポートというように1対1で対応させる静的コネクションだ。このため、I/O処理をストレージ側の物理ポートに動的に振り分けることができない。そのため、サーバ仮想化環境ではある物理ポートに複数のサーバI/Oをまとめるという固定的な設計をすることになるため、リスクを考慮し、ストレージ側はオーバースペックにならざるを得ないのである。
一方、動的なコネクションに適しているプロトコルがiSCSIだ。iSCSIは、SCSIコマンドをTCP/IP上でカプセル化してIPネットワークで通信するもので、TCP/IPの特徴であるダイナミックなアドレス体系をとっている。具体的には、サーバ側のiSCSIイニシエータがストレージ側のiSCSIターゲットとの間でTCPコネクションを張り、認証とネゴシエーションを行うことによりiSCSIセッションが確立する。
図1 iSCSIによる動的な接続の仕組み |
このとき、ストレージのポートが複数あっても1つのグループとしてまとめ、そのグループに1つの仮想IPアドレスが設定される。イニシエータが接続を求める相手は、この仮想IPアドレスである。セッション確立のための認証を行う段階で、ストレージがI/Oを処理負荷の低いポートへリダイレクトし、その後はサーバがその物理ポートに対してI/Oを発生することにより直接通信する(図1)。このような仕組みのため、サーバがアクセスするポートが固定化されず、ダイナミックに切り替えることが可能なのだ。
また、ストレージの仮想化のために、さまざまなベンダがiSCSI対応のストレージを開発しているが、元からあったファイバ・チャネルのストレージをiSCSIに対応させたというものも多い。この場合は、iSCSIイニシエータに物理ポートのIPアドレスを登録することとなり、このようなダイナミックなアドレスには対応していないケースがほとんどである。しかし、PS5000シリーズは、最初からiSCSIに特化して開発されたものであり、このiSCSIの機能をフルに利用して仮想化を実現しているのが大きな特徴だ。
図2 変化する性能要求に対して、データを最適なRAID構成上に自動配置 高いランダムI/Oが発生する仮想サーバはRAID10を、I/Oがさほど発生しない仮想サーバはRAID5を利用するよう、自立的に最適化が行われる |
そのほか、PS5000シリーズは、容量とパフォーマンスを同時に拡張できるスケールアウト型アーキテクチャを採用しており、スモールスタートして、システムや事業の拡大に合わせて拡充していくことができる。また、変化する性能要求に対してI/OパターンにマッチしたRAID構成上にデータを配置するような自律的自動最適化が可能で、運用負荷を低減している(図2)。さらに、ストレージ関連で必要な機能はすべて標準装備し、価格設定を単純化していること、iSCSIは一般になじみのあるTCP/IPの技術なのでセットアップも簡単だという点も、大きなメリットだろう。
デルの掲げる「シンプリファイIT」では、システム構成のシンプルさだけでなく、購入時の検討の手間やセットアップの手間といったものも削減することを目指している。PS5000シリーズは、まさにこのシンプリファイITを具現化するストレージなのである。
【ミニコラム:iSCSIについての誤解を解く】 米国ではすでにiSCSIによるSANが一般的になっているが、日本ではまだiSCSIについて誤解している人も多い。かつてファイバ・チャネルに比べて安価にストレージ・ネットワークが構築できるという面ばかりを強調しすぎたため、安かろう悪かろうというイメージを持ってしまった人もいるのではないだろうか。「iSCSIは通信速度が遅くて大容量には使えない」という誤解だ。 iSCSIは確かにコンシューマレベルで使える技術であり、ファイバ・チャネルよりもかなり安い。しかし、ストレージへのアクセスのパフォーマンスは、プロトコルに依存するものではない。登場当初に遅かった理由の1つは、ハイエンド向けのストレージが存在しなかったからだ。また、ファイバ・チャネルではサーバがI/O処理をする必要がないが、iSCSIはしていないという違いがある。このためかつては、サーバのCPUパワー不足のためファイバ・チャネルの方がパフォーマンスが良かったのは事実だ。しかし、今のサーバは仮想化して複数OSを動かすほどのCPUパワーを持っている。サーバ側のCPUでI/O処理をしても、何の問題もない。 帯域幅については、今でもファイバ・チャネルが4GbpsでiSCSIは1Gbpsという違いがある。ただし、通常の企業で使うようなデータベーストラフィックでは、実は4Gbpsも必要ない。さらに、仮想化の技術により、例えば1GbpsのiSCSIストレージを3台束ねれば、実質3Gbpsになる。 つまり、今はエンタープライズでもiSCSIで当然という時代なのだ。 |
webセミナー |
自律的最適化に対応するiSCSI 仮想化環境における最適なストレージとは? サーバやストレージを仮想化するに当たって、効率良く、かつコストを抑えるためにはどうすればよいのか。柔軟性と拡張性を備えた仮想化ストレージによる仮想インフラについて説明する。 |
提供:デル株式会社
企画:アイティメディア 営業本部
制作:@IT 編集部
掲載内容有効期限:2008年9月30日
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デル Dell EqualLogic PS 5000 シリーズ ITのシンプル化とは 仮想化ソリューション |
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