IDCジャパン アナリスト 森山正秋氏×富士通 ストレージシステム事業部長 有川保仁氏
震災で変わる情報管理ニーズ
ストレージはどう応えるか
2011/7/21
2011年3月の東日本大震災は、日本の多くの企業に新たなIT課題をつきつけた。これまでのコスト削減圧力とデータ量増大への対処の課題に加え、事業継続対策の見直しと節電対応が急務となっている。こうした状況のなかで、ストレージには何が求められているのか。そして最新ストレージは、厳しい要求にどう応えられるのか。IDCジャパンのリサーチ第1ユニットグループディレクター 森山正秋氏と、富士通 ストレージシステム事業本部 ストレージシステム事業部長 有川保仁氏に、@IT担当編集長の三木泉が聞いた。(以下、敬称略)。
先日の東日本大震災を契機に、ユーザー企業のITに対する考え方やITニーズには、どのような変化が見られるようになったでしょうか?
森山 やはり事業継続や災害対策への注目が高まっています。これらは、一時期盛り上がりを見せましたが、リーマンショック後にかなりトーンダウンしていました。東日本大震災で、これを見直す動きが活発化してきました。これまでセカンダリサイトは50、60キロ離れていれば大丈夫だと思っていたところ、計画停電でそれでは足りないということになるなど、いままで災害対策をしてきた企業でも、その中身を見直そうという動きが出ています。いままでできていなかった企業は、やはり自分たちもやらなければならないと考えるように変わってきました。
東日本大震災の影響によって高まった意識:上位10項目 出典:IDC Japanプレスリリース「IT投資動向に関する国内CIO調査結果を発表」(2011年7月) |
いままでITの事業継続や災害対策は大企業がやるものだというイメージがあったものが、中堅・中小企業でも考え始めたということが言えますか。
森山 そうですね。東京の場合、多くの企業が計画停電による混乱を経験し、自分たちの体力に合った事業継続を考える企業が増えていると思います。また、いままでと違う点としては、クラウドサービスを利用するなど、小さな企業でも災害対策をやれる選択肢が増えてきたと思います。
有川 従来の災害対策システムでは、近距離に災対拠点を構築する傾向がありました。ところが計画停電で、電力会社の異なる地域に置かなければならないとして、関西に拠点を移す検討を始めたお客様がいらっしゃいます。
これまでと違う、災対システムの可能性
震災が契機となり、これまでやりたくてもできなかったことがやりやすくなったということはありませんか?
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森山 災害対策は、いままで予算がつかず、情シスが苦労していた場合でも、トップダウンの指令で動きやすくなりました。また、ITインフラの統合やサーバ仮想化の導入は、しがらみのためにこれまでできなかった企業もあります。しかし、節電の手段の1つとしてこれをやりやすくなったということは確実にあると思います。
ITの災害対策をトップダウンで要請する指令はあっても、それに伴うお金が十分出るかは別問題という側面もありますね。
森山 IT支出は抑制されていますが、優先度が違ってきています。災害対策やデータ保護を優先し、アプリケーションについては先送りするなどのやりくりが見られるようになると思います。
有川 そうですね。ただ、大規模なシステムを遠隔地にそのまま(待機システムとして)構築するのは、それでも体力がないとできません。当社は製品ベンダとして、災対システムをつくりやすくする責任があると思っています。これまで一般的には、同じクラスの製品を対向で使う必要がありました。これではハイエンド製品を使っている重要システムを保護するために、災対拠点にもハイエンド製品を導入しなければなりません。しかも平常時はバックアップをとるだけですので、大きな無駄が生じます。新ETERNUS DX シリーズでは、ハイエンド製品とエントリ製品、ハイエンド製品とミッドレンジ製品がつながります。このため、重要システムであっても、災対拠点には例えばエントリ製品を設置し、本当に保護しなければならない領域だけを複製することで、投資対効果を大幅に向上できます。逆に、複数拠点に散在しているデータを、災対拠点に置いた大型ストレージに集約することもできます。
ますます注目される、バックアップの課題
では、大震災を機に、ますます重要性が増してきたストレージ関連のニーズとは何でしょうか。
森山 バックアップのシステムをどう構築していくかは、依然として重要な課題であり続けています。簡単には解決できないのですが、だからこそ変わらない課題であると考えます。この課題をどう解決していくかを考えることは、ストレージベンダにとっても重要だと思います。プライマリ(一次)ストレージに加え、バックアップのストレージが重要なテーマになっているということです。ディスクへの移行、テープの併用、重複除外などの技術をどう総合的に生かしていくかは、この課題を解決するために非常に大事なポイントになってくると思います。
有川 バックアップは、大容量のメディアがあればそれでいいというわけではなく、短時間でバックアップがとれなければなりませんし、短時間に、簡単にリストアできなければなりません。当社では、ディスクアレイによる高速バックアップ、リストアを実現する機能はもちろん、ディスクとテープを組み合わせたバーチャルテープ「ETERNUS CS」を提供しております。また、データの重複排除を可能にするデデュープアプライアンス「ETERNUS CS800」では、重複排除と圧縮により低コストで高速なバックアップ運用を実現できます。しかし、バックアップは永遠の課題だと考えています。
節電は、今後のIT機器における必然だ
節電についても、今後長きにわたり、多くの企業が意識し続ける問題になると思います。このことがITインフラ支出に与える影響をどう見ますか?
森山 省電力は今年だけの問題でなく、今後の前提として考えていかなければならない状況になってしまいました。長期的な省電力のためには、ストレージの統合や、国内では普及が遅れていたシン・プロビジョニング(*)や複数ストレージのプール化など、ストレージの仮想化をツールとして使っていく必要が生じます。こうした投資のトレンドが、長期的には国内でもかなり明確になっていくでしょう。新技術は、ストレージの容量コストを下げることに加え、エネルギー利用効率を上げるという意味で、その利用価値が高まってきています。
*シン・プロビジョニング:ストレージ容量を仮想化し、未使用容量の効率的な有効活用を可能にする機能。
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有川 省電力は、われわれ製品ベンダが取り組むべき必須項目です。以前から、CO2削減も自らの義務だと考え、製品やソリューション開発を行ってきました。新ETERNUS DX シリーズには、シン・プロビジョニングによる仮想化機能を、エントリ製品から搭載しています。ただ、基幹系アプリケーションの稼働という観点からは、ストレージ仮想化は不確定要素を含んだ技術ともいえます。そこでもう1つのアプローチとして、3.5インチよりも電力消費の少ない2.5インチのハードディスクドライブをいち早く搭載し、またSSDを採用しています。このような新技術で、お客様の運用における省電力を進めています。
相反するニーズを満たす方法とは?
最後にお聞きします。先ほどのお話にもありましたように、データ量は今後もますます増大し続け、一方で特に震災後は、省エネが大きなテーマになってきているということでした。これらを同時に解決するための策としては、何があるでしょうか?
森山 まずは、いままでの投資の仕方から、頭を切り替えていただくことが必要だと思います。以前は、数年後に必要となる容量を見越して一度に導入していました。いまはそうした導入をしなくとも、シン・プロビジョニングによるストレージの仮想化など、段階的な拡張を支援する技術がいくつも出てきています。そういう技術を積極的に使っていただくことが有効だと思います。この数年で関連機能が急速に充実してきたので、これに投資することを考えることが、非常に重要になってきたと考えます。
震災によって、ほとんどの企業はITに関連する事業継続計画を見直さざるを得なくなった。その具体的なアクションとして欠かせないのは、自社データの「棚卸し」を行い、全社的な観点からデータ管理を見直すことだ。全社的観点で考えることにより、ユーザーメリットの大きいストレージの最新技術を導入しやすくなる。「最新技術を入れる=コストがかかる」と思われるだろう。しかし、例えばシン・プロビジョニングを活用すると、ディスク容量の無駄を積極的に減らすことができる。投資すべきところに投資することで、全体としては逆にコスト効率を高めることも可能だし、データの安全性を確保することにもつながる。
富士通は新ETERNUS DX シリーズで、エントリ/ミッドレンジ製品における拡張性を向上し、データ量増大の課題に対応している。また、エントリ・ストレージでも、シン・プロビジョニングをはじめとする機能を搭載し、利用効率を高めている。こうした新世代のストレージがどう活用されていくか、今後が注目される。
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掲載内容有効期限:2011年9月30日