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〜ビッグデータ対談 第1回 ものづくりと社会インフラ編〜
東京大学教授 喜連川優氏に聞く

「情報爆発」時代における
ビッグデータ利活用の今と未来


「ビッグデータ」はバズワード的な扱いを脱し、さまざまな場面で実際に活用され始めている。そんなビッグデータが注目される前から情報爆発を予見し、技術の研究を重ねて来たのが東京大学 生産技術研究所 教授の喜連川優氏である。今回の特別対談では、ITジャーナリストの新野淳一氏が聞き手となり、日本経済の屋代骨であるものづくりへの貢献にも触れつつ、日本社会というインフラに対するビッグデータの可能性について語り合う。

「情報爆発プロジェクト」とビッグデータを取り巻く環境

新野氏 喜連川先生は「ビッグデータ」という言葉が広まる以前から、現在の情報爆発のインパクトを予見し、それに向けた技術研究を行う「情報爆発プロジェクト」を主宰してこられました。研究では具体的にどのような目標を定められたのでしょうか。

喜連川優氏
東京大学 生産技術研究所 教授

喜連川氏 2005年に文部科学省の科学研究費補助金特定領域研究としてスタートした「情報爆発」プロジェクトでは、前世紀末から今世紀にかけて生じた情報爆発とも呼ぶことの出来る情報量が爆発的に増大しつつある現象に着目し、そこから派生すると想定されるさまざまな課題を明らかにすると同時に、それに対し情報学研究者の総力を結集し、先進的なIT基盤技術の創出を目指しました。

 具体的には大きく4つの研究項目、1つは大量の情報から真に必要な情報を効率良く取り出す「次世代検索技術」、次に、爆発する情報の受け皿となる「システム基盤技術」。3つ目は「人に優しい情報環境の構築技術」、さらに4つ目として、これら「先進的なITサービスを人間社会に受け入れやすくするための社会制度設計の研究」をそれぞれ推進してきました。

新野氏 2010年3月に一度区切りを迎えたプロジェクトは非常に高い評価を獲得しました。そしてそれぞれの研究成果は現在も新たなプロジェクトに継承されています。その中で先生は一貫して“情報爆発はチャンスである”という言い方をされていますが、それはどのような意味なのでしょうか。

新野淳一氏
Publickey主宰 ITジャーナリスト

喜連川氏 当時、情報が増えることについてはオーバーロード、いわゆる過負荷によって人々が情報に溺れてしまうというネガティブな側面がクローズアップされていました。

 しかし別の見方をすれば、これほどまでに膨大な情報を手にするのは、人類にとって初めての経験であると言えます。それをうまく活用すれば、新しい発見やソリューションを見出せるチャンスなのではないか――そうポジティブに捉え直したのです。

 例えば、モノにセンサーを付けるたび、情報量は加速度的に増えていきますが、それをキャッチして利活用すれば新しい価値が生まれてくる。実際、最近は日本でも“情報爆発”を「ビッグデータ」と表現するようになり、それは大量データを積極活用しようというポジティブさを言い表す言葉になっています。

変化はすでに起こり始めている

新野氏 まさに先生の予見が現実のものとなったわけですね。では今後、ビッグデータの利活用は、企業や社会生活にどのような変化を起こしていくとお考えですか。

喜連川氏 すでに変化は起きていると思います。最近よく聞かれるようになった「データ・ドリブン・スタートアップ」という言葉があります。「データをうまく活用することで、今までにないサービスやビジネスを起こす」という意味ですが、もはやそれは始まっているのです。

 例えば、プローブカー・システム。自動車に各種センサーを取り付けて、アクセルやブレーキ、ワイパーなどの動作情報を、GPSの位置情報とともに無線で収集するシステムで、一部メーカーによって実用化が進んでいます。現在は、収集した情報を渋滞予測や迂回路の案内に利用しているケースがメインですが、この情報を利用すると、道路の特定の場所で多くの運転者がブレーキをかける頻度が非常に高いポイントがあることが読み取れます。このような状況が捕捉できますと、「近くに子どもたちが通う幼稚園や学校があるため」なのか、「道路設計そのものに原因があるため」なのかなど、さらなる詳細な分析のきっかけを与えてくれます。

 宅配便の事業者なら、この情報から急ブレーキの多い道路を推測し、そこを避けて配達するよう全運転手に指示することが可能となる。これで会社は事故のリスクを大幅に軽減できます。道路を管理する自治体なら、同じ情報を使って、道路の見通しを良くするためのインフラ改善に利用できることになります。

 もう1つの活用例は建設機械への適用です。大規模な工事に使われる建設機械は、鉱山から資源を掘り起こすなど、非常にハードな状況下で利用されているため、故障率も高い。しかし突然動かなくなってしまうと、工事はストップし、納期遅れを招いてしまう。そこであるメーカーは、建設機械の1台1台にGPSとセンサーを取り付け、位置や運転状況、故障情報などを逐一把握する環境を作りました。これでトラブルの予兆を事前にキャッチし、部品交換やメンテナンスの早期実施を実現して、稼働率を大幅に高めています。

 そう考えると、ビッグデータの利活用からはクラウドと同じ“サービス指向”の傾向が読み取れてきます。クラウドはサーバやストレージといったハードウェアに投資するのではなく、そこで処理されたサービスだけを買うものです。建設機械にしても、顧客は高価な機械そのものがほしいわけではなく、「資源を掘るためのサービス」を買いたいわけです。今後はそうしたサービス指向のビジネスモデルが、徐々に主流になっていくと思います。この点で、ものづくり産業においても、その商品提供の在り方にビッグデータが非常に大きな影響を及ぼしていく可能性があると思います。

情報爆発を起こさせよう

新野氏 逆に、ビッグデータを利活用できないと、提供するものがサービスであれモノであれ、改善や開発で他社に遅れを取り、負けてしまう可能性があるということですね。

喜連川氏 そうですね。だからこそ、あえてポジティブに「情報爆発を起こし、それをものづくりに生かそう」という期待感が出てくるのです。以前、アルビン・トフラー(米国の未来学者)が『第三の波』において提示した“プロシューマー”という概念、あれは「企業ではなく、消費者自身が既存製品の改良案や新商品のアイデアを提案するようになる」という予言でした。それが今では現実のものとなっています。

 とはいえ、世の中の全てのモノに対する意見やアイデアを、消費者自身に語ってもらおうといっても限界がある。そこで、人の代わりに「モノ自身」に語らせればいいという発想が生まれた。それが膨大な数のセンサーから発信されるビッグデータであり、それをこれからの価値創造に生かして行こうという流れになっているわけです。

新野氏 日本のものづくり産業が世界に確固たる存在感を示し、新たな価値を創出していくためには、ビッグデータを積極的に利活用していかねばならない――では、そうした環境を実現するために、今後どのようなことが求められてくるのでしょうか。

喜連川氏 まず技術面について言えば、ビッグデータ=Hadoopというイメージが強いようですが、Hadoopは大規模データに対するETL(Extract/Transform/Load)的な存在なんですね。従って、多くのベンダが「Hadoopからロードしたデータを、RDBエンジンに入れて、SQLで解析する」という構図を提案しているように、目的や用途に応じて複数の技術を使い分けていくことが必要です。

 新しい要素も必要です。例えば、従来型のRDBではビッグデータをさばき切れない点で、新しいアーキテクチャを持つRDBが必要になります。これについては、われわれも内閣府による最先端研究開発支援プログラムの支援の下で、日立製作所とともに超高速データベースエンジンの共同研究開発を行ってきました。この他にも、個人を特定せずにデータマイニングを行う技術、データを圧縮したまま処理する技術など、いろいろな要素技術を開発していかなければビッグデータを円滑に利活用することは難しくなります。その意味で、今後はITベンダにとって非常にエキサイティングな時代になっていく(カコミ記事参照)のではないでしょうか。

情熱を持って挑戦できる場を

新野氏 ところで、一般企業にとっては、データをきちんと分析・活用できる人材育成も重要な課題ですね。

喜連川氏 ITとビジネスの双方に精通した人材を育てるのが理想ですが、それをこれから始めるという考え方は現実的ではないかもしれません。双方の知識を持った人材を育てるための決して短くない期間を、現実のビジネスは待ってくれないからです。従って、統計理論や数理工学の基礎的素養を持つ方々に、ITスキルや分析リテラシを磨いていただく、あるいは、さまざまな業務分野と技術に精通したITベンダと協業することが現実解となるのではないでしょうか。

 それよりもむしろ、ビッグデータの利活用を進める上で早急に解決すべき課題は「データのオーナーシップ」です。データの保有権を持つ主体は「センサーを設置した人」なのか、「設置された場所やモノの所有者」なのか、いまだガイドラインがはっきりしません。得られたデータが個人に強く関連する場合には、特段な配慮も必要です。そうした法整備をきちんと進めていくことが、ビッグデータの利活用を加速させる前提となります。

新野氏 そうしたルール作りも含めて、日本の研究者やIT技術者にはますますのチャレンジが期待されますね。

喜連川氏 われわれ大学や研究機関の人間は、自分の研究にいかにエキサイトできるか、人がやっていないことにどれだけ情熱を持って挑戦できるかという“エンジョイメント”を大きな原動力としています。昨今、成長著しい日本のSNS企業のトップの皆さんと会話する機会がありましたが、彼らもそうした想いは一緒でした。

 つまり、ビッグデータの分野に限らず、日本にもイノベーションに向けて挑戦している人間は山のようにいるのです。ソフトウェア開発にしても、ちまたで言われているように「日本には元気がない」わけでは決してない。グローバル社会における今後の企業力、国力の強化は、そうした研究者や技術者のエンジョイメントを、いかに長い目で見て育て、応援できる環境を作り上げていくかに懸かっている。私はそう思います。

新野氏 日本のビッグデータ利活用に向けた取り組みは、まさにこれからが本番ということですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。

ビッグデータ利活用に向けた日立の取り組み「Field to Future Technology」

東京大学との共同研究開発の成果も反映。
日立のデータ利活用基盤技術「Field to Future Technology」


 大量・多種の情報から、ビジネスに有益な知見を引き出すビッグデータ利活用には、業務知識に裏打ちされた「分析スキル」と、分析を支える「プラットフォーム」の2つが求められる。特に後者は、近年、複数のベンダからさまざまな製品が提供されているが、問題は、製品を導入すれば、即、有効な知見を得られる環境が整うわけではないということだ。

 例えば、社内に散在するデータをどのように集めるのか? 複数の種類のデータをどうすれば一元管理できるのか? 大量データをどうすればリアルタイムに分析できるのか? どうすれば業務に有効な知見が得られるのか?――いざ実行の段になると、「データ活用の方法が分からない」という高いハードルに行く手を阻まれ、結局、ビッグデータ活用に乗り出せないケースが多いのである。

 日立ではそうした課題を見据え、ビッグデータ利活用に関する専門家「データ・アナリティクス・マイスター」が中心となり、日立が持つ豊富なデータ分析ノウハウや人財、「Field to Future Technology」をはじめとするITプラットフォーム技術・製品などを活用して、顧客・パートナー企業との協創により、ビッグデータからの新たなビジネス価値を創生する「イノベイティブ・アナリティクス」を実践、提供する。

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 Field to Future Technologyとは、ビッグデータの利活用に関わる技術を、(1)データの所在を確認・収集し、業務とデータの関連を可視化する「データ可視化」、(2)データの格納場所、構造などの違いを隠蔽し、統一的なデータ管理を実現する「データ仮想化」、(3)データの並列分割を記憶デバイスの並列性に整合して高速処理する「データ並列化」、(4)データを分析・抽出して、知見に昇華する「データ抽象化」の4つに整理。それぞれに対応した製品を用意し、企業が自社の課題に応じてビッグデータ分析基盤を効率的に構築できるよう配慮したものだ。

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 今回の記事で紹介された、超高速データベースエンジンは、日立では「Hitachi Advanced Data Binder プラットフォーム」として「Field to Future Technology」の「超高速データアクセス技術」である「データ並列化」を担う。

 この製品は、まったく新しいアーキテクチャを採用し、日立の既存データベース製品に対し、約100倍のデータ検索性能を発揮。従来の「順序型」データベースエンジンの場合、同期入出力によってデータの問い合わせと処理結果が順番に繰り返されるが、本製品の場合、大量の非同期入出力を発行するとともに、要求順序とは無関係に速く処理できる所からデータを処理する「非順序型」のアーキテクチャを採る。これにより、ストレージやマルチコアプロセッサの利用効率を向上させながら超高速処理を実現する仕組みだ。

 ビッグデータ利活用のためには、既存のデータ分析基盤を根本から見直す必要がある。その点、データ活用の課題を整理したField to Future Technologyなら、可視化/仮想化/並列化/抽象化のうち、どれを強化すれば良いのか、データ分析基盤構築に向けた自社独自のロードマップが具体的に見えてくるのではないだろうか。



 関連リンク
〜ビッグデータ時代を切り拓く〜
日立のデータ利活用技術「Field to Future Technology」



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提供:株式会社日立製作所
アイティメディア営業企画
制作:@IT情報マネジメント編集部
掲載内容有効期限:2012年8月2日