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トレンドの中心にいる6人の識者が
“ビッグデータ”の今後を徹底討論!

ビッグデータは、
どうすれば利活用できるのか?


ビッグデータという言葉が社会のキーワードとなって久しい。では実際のところ、企業のビッグデータ利活用は今どのような状況にあるのか? またビッグデータを利活用するためには具体的に何が求められるのか?――この言葉を“バズワード”と見る向きも少なくない中、Publickey主宰 新野淳一氏の司会で、ビッグデータトレンドの中心にいる6人の識者と“ビッグデータ利活用の真実”について徹底討論した。

新野淳一氏
Publickey主宰
ITジャーナリスト
●企業IT分野に豊富な取材経験を持つ。@IT情報マネジメントの日立ビッグデータ対談でモデレータを担当
鈴木良介氏
野村総合研究所 ICT ・メディア産業コンサルティング部 主任コンサルタント
●国内外のビッグデータ活用の動向に詳しい。著書に「ビッグデータビジネスの時代」など
恵木正史氏
日立製作所 スマート・ビジネス・イノベーション・ラボ データ・アナリティクス・マイスター
●「データサイエンティスト」として豊富な経験を持つ
     
谷口有近氏
元カブドットコム證券
社長付IT戦略担当
●システム企画・開発・運用のプロフェッショナル。システム、ビジネスの両面に精通
谷川耕一氏
タルク・アイティー
代表取締役社長
●ソフトハウス経営者、ITジャーナリスト。企業IT、情報インフラ分野に豊富な取材経験
林雅之氏
社団法人クラウド利用促進機構 アドバイザー
●クラウドのインフラ、マーケティング分野に深い知見を持つ
松本直人氏
さくらインターネット研究所 上級研究員
●次世代空間情報、仮想化技術などを専門とする。システム、ビジネスに高度な見識を持つ
< 参加者の声 >
谷口有近氏 : Arichika Taniguchi & Associates (谷口有近事務所)
谷川耕一氏 : ビッグデータ活用にもいろいろある:むささびの視線

“ビッグデータ利活用”は果たして本当に進んでいるのだろうか?

新野 ビッグデータという言葉がIT業界だけではなく、一般社会におけるキーワードとなってからしばらくたちました。しかし、いまだ曖昧模糊としたイメージがあるせいか、一部ではバズワードと見る風潮もあります。実際、ビッグデータ活用はどのような状況にあるのでしょうか?

鈴木 私はビッグデータ市場をウォッチし、ビッグデータ利活用の啓発活動を行っていますが、企業の関心は急速に高まっていると思います。2012年夏頃までビッグデータの一般的な知識や利活用事例などを紹介していましたが、最近は一歩進み、「ビッグデータを自社でどう活用すればいいのか」「社内のデータを生かすことはできないのか」といった相談が増えつつあります。

恵木 日立製作所(以下、日立)でもビッグデータ利活用を支援する「データ・アナリティクス・マイスターサービス」を2012年6月6日に発表しましたが反響は大きいです。2012年末までに数多くの問い合わせをいただきました。相談内容も具体的なものが増え、ビッグデータ活用を本格的に検討している企業が増えつつあることを実感しています。

鈴木 企業の業種・業態、規模などに、何か目立った傾向はありますか?

恵木 非常に幅広いですね。社会インフラ系から流通、小売り、製造、教育など、ほぼ全業種・業態の企業から問い合わせがあります。規模としては大手が中心です。特に経営層がビッグデータ利活用に前向きな企業ほど、サービス導入への動きも速い傾向にあります。

鈴木 ビッグデータ利活用の課題としてはどのようなものがあるのでしょうか?

恵木 多くの場合、「コストに見合うだけの効果が得られるのか」という不安があるようです。価値を創出する上で、「データをどれほど蓄積すべきか分からない」という声も目立ちますね。業種によっては法的な義務もあって膨大なデータを蓄積しています。これを価値あるものに変えたいというニーズはあるのですが、具体的な方策を立案するのは容易ではありません。多くの企業がビッグデータ利活用に向けた一歩を踏み出しながらも、なかなか前に進めず試行錯誤している状況といえるのではないでしょうか。

ビッグデータ利活用、2つのアプローチ

新野 なるほど。ただ、私が日ごろの取材活動で感じるのは、そうした中でも実際に取り組んでいる企業の場合、POSデータ分析のように「何を発見するのか目的が明確なパターン」と、膨大に蓄積したデータの中から「何らかの新しい知見を見出すパターン」の2つに大別できるように思うのですが、皆さんはいかがですか。

谷口 私もビッグデータ利活用には2つのアプローチがあると考えています。1つは既存業務の改善のためにビッグデータを利活用するアプローチ。もう1つは、新規ビジネスの創出を狙うアプローチです。前者は新野さんが指摘されたPOSデータ分析のように、これまでも取り組んできたデータ分析の延長線上にあるものです。多くの企業にとって、こちらの方が現実的なのではないでしょうか。

谷川 システム面から言っても、一部のサンプルデータを基にしたレポート作成なら、従来のDBで対応可能ですしね。ただ「膨大なデータを分析対象に、新たな知見を導き出そう」となると4〜5年前のDBでは難しい。そのため通信・金融では最新のDWHアプライアンスを導入するケースも増えているようです。

松本 そうした分析ではスピードも鍵になりますね。弊社もデータ分析手法を研究しており企業からの相談も受けていますが、特にソーシャルゲームを手掛ける企業では「いかに早く分析するか」が焦点となる例が目立ちます。こうした業界は市場変化のスピードが早いため、分析を1日で終えなければマーケティングデータの価値がなくなってしまう。よって、さほど高精度でなくとも素早く次の手を打ちたい。つまりビッグデータ分析の価値をアジリティに置いているわけですね。とはいえ、ほとんどの企業はそこまで求めない例が多いのではないでしょうか。

 ソーシャルゲーム業界では、企業自らデータ利活用の戦略を立てて組織的にデータ活用を行っている例が多い点も重要ですね。ただ、そうした明確な目的を基にビッグデータ活用を進めている企業はまだごく一部のように思います。

恵木 同感ですね。私の実感としてもビッグデータ分析の取り組みには企業によってかなり差があると思います。そして、データ分析の目的設定や具体的なアプローチの検討に苦労されている企業が多く見受けれられます。

新野 分析の目的やアプローチを明確にしなければ、単に統計解析ツールを使っただけではビッグデータの利活用にはつながりませんよね。そこから何を導き出したいのか、目的が分かっていなければ期待する結果は出せないわけですから。

鈴木 高価で高機能な分析ツールやシステムを、高性能スポーツカーに例えられている方がいました。一般企業に持っていっても乗りこなせる人はまずいない、という意味が込められています。それよりも現場仕事に即役立つ軽トラックを運転手付きで持ってきてほしいというニーズの方が強い。つまりシステムに関しても、高度な統計解析ツールより、“現実的なニーズ”に適した分析ソリューションが求められているといえます。

谷川 現実的なニーズといえば、あるガス会社が現場主導でビッグデータ利活用を成功させたケースを知っています。この会社は保守業務を効率化するために現場スタッフの発想を取り入れ、顧客の属性データと保守履歴を分析して、顧客からアラートが出た時点でどの機器を持っていけばよいのか、瞬時に分かる仕組みを構築したそうです。まず現場の明確な業務改善ニーズがあって、それを達成する手段としてビッグデータを活用した――その象徴的な事例といえると思います。

恵木 いい事例ですね。実は私も現場のスタッフが現場のニーズをくみ上げながらゴール設定をした方が、ビッグデータの利活用は成功しやすいのではないかと思っています。例えば、弊社が手掛けたホームセンターの事例が挙げられます。来店者と店員の行動を、組織内コミュニケーションの可視化を図る弊社の独自技術「ビジネス顕微鏡®」によってデータ化し、それとPOSデータを掛け合わせて分析したところ、売り上げ向上の手掛かりを発見できました。これを基に現場で施策を行った結果、実際に業績が向上したのです。

谷川 そうした現場主導型の事例は多いのでしょうか?

恵木 そうですね。海外の事例ですが英国鉄道の保守サービスの事例もあります。これは車両に設置したセンサーを活用して保守部品の交換時期を分析するなど、コストと最適なサービス提供を高レベルでバランスさせる「予防保守」を実現したケースです。 これも保守という現場作業の改善事例に当たります。

 やはり分析のアプローチとしては、谷口さんが指摘された2つのアプローチのうち「既存ビジネスの改善」を狙うアプローチの方が、今のところは多いように思います。

データ分析におけるゴール設定の大切さと難しさ

新野 ただビッグデータ利活用で最も難しいのは、分析作業を社内に定着させて、事業の一環としてドライブしていくことですよね。日立のデータ・アナリティクス・マイスター(以下、マイスター)は、具体的にはどのような体制で支援しているのでしょうか?

恵木 分析支援は4つのフェーズに分けています。データ活用のビジョンを示す「ビジョン構築」、生まれる価値を明確化する「活用シナリオ策定」、価値創出実現のめどをつける「実用化検証」、ビジネス価値を生み出す「システム導入」です。

図1 日立の「データ・マイスター・アリティクスサービス」の場合、4つのフェーズに分けて分析を支援するという

谷川 しかし、ビッグデータの利活用を支援する4つのフェーズの役割を、全てマイスター1人で担うのは難しいのでは?

恵木 ご指摘の通りです。そこで案件ごとにチームを組んで対応しています。顧客業務を理解して分析の企画を提案する「業務系」のマイスター、企画立案に当たってどの分析が有用かを見極める「広範型の分析系」のマイスター、業務知識に基づいて分析をカスタマイズする「深掘型の分析系」のマイスター、そして分析手法を最適なITに落し込む「IT系」のマイスターです。この4人のチームで顧客企業側の担当者とともに活動しています。

図2 4つのフェーズ、それぞれの役割を各マイスターが分担して担当

谷口 なるほど。確かにその仕組みでカバーできるビッグデータ利活用のニーズは少なくないでしょうね。しかし「顧客と一緒に」と言っても、顧客企業内においてIT部門、業務部門、経営層の間で、分析に関する情報や意識をすり合わせることは難しいのが現実。顧客企業側の体制はどうすればよいのですか?

恵木 マイスターが各職級・部門間の意識のすり合わせを支援する形になります。まず顧客企業のIT部門から問い合わせが来る例が多いのですが、1つの方法は、その方を窓口に各職級・各部門に働き掛ける形です。

 具体的には、業務系マイスターが、IT部門がどんなデータを持っているかを理解の上、IT部門と一緒になって業務部門でどのような活用が考えられるかといった仮説を幾つか立てます。ここには分析系マイスターも参加し、日立のデータ分析事例や研究所の先端技術、最新の論文の調査結果などをインプットします。そして業務部門に仮説の妥当性や分析のニーズについてヒアリングし、そのフィードバックを受けて仮説の精度を高め、仮説の生み出す価値を明確にした上で、経営層に提案する、といった流れです。

鈴木 つまり「ビッグデータ利活用には業務分解がある」ということですよね。プロセスの最後にいるのは分析の企画や結果にジャッジを下す経営者。一番手前にいるのは必要なデータを必要なときに必要な状態で出せるシステムを構築・運用するSE。この中間を担うのが、いわゆる「データサイエンティスト」と呼ばれる人たちで、この役割も2つに分類できます。1つは統計解析のスキルを持ち、データ分析を行う「ハンドラー」。もう1つは各部門・職級間の意思疎通を図る「データインタープリター」です。

谷口 私はビッグデータ利活用の鍵になるのは、そのデータインタープリターだと思いますね。経営層が積極的な会社ほどプロジェクトの進展スピードが速いといった話がありましたが、実際、経営者に「自分の頭の中にはない知見をデータから得たい」といったモチベーションがないとビッグデータ利活用は進展しにくいものです。例えばハンドラーがデータをまとめて経営者に見せても「知ってるよ」で終わってしまう可能性も高い。しかし分析結果を経営視点で解釈し、説明できる人材がいれば経営層をモチベートできます。本来、そうした人材が社内にいれば理想的ですが……。

 日本にはデータサイエンティストが圧倒的に不足しているという指摘がありますよね。ただ私は、一般企業におけるデータサイエンティストの人材育成が全く進んでおらず、ベンダー側と企業側で人材ギャップが広がっていることも問題だと思います。

恵木 そうですね。ただ、ここで注意したいのは「ビッグデータ利活用の2つのアプローチ」のうち、「新ビジネス創出を狙う」アプローチの場合、現場と経営層をつなぐデータインタープリターは確かに必要ですが、「現場の業務改善」の場合、現場主導となるため、必ずしも必要ではないということです。

谷口 ビッグデータというと「何らかの全く新しい価値を創出する」と考えがちなものですが、それは言葉だけが先行したもので、そのアプローチの浸透はまだこれからという所なのかもしれませんね。

“地に足のついた分析”から、未知の知見への道筋が見えてくる

新野 ただ、ビッグデータ利活用支援サービスがある、データインタープリターは必ずしも必要ないとはいえ、データ利活用の主体はあくまでユーザー企業です。この点で、ユーザー企業側に求められるビッグデータ分析、成功の要件もあるかと思います。象徴的な失敗例、成功例などあれば教えていただけますか。

恵木 成功の鍵は、やはり目的設定に尽きます。私の経験でも目的が明確でなかったために失敗した事例があります。「あるB2Cサービスにおいて、サービスの利用履歴データを分析して不正を自動検知したい」という依頼だったのですが、「何をもって分析成功とするのか」「この分析にはどれほどの価値があるのか」を明確にしないまま、データ分析に着手してしまいました。

 ゴールが見えないままいろいろなデータ分析手法を試しましたが、顧客もどう評価して良いか分からず、時間ばかりが経過し、結局プロジェクトが打ち切りになってしまいました。目的の明確化がデータ利活用の大前提となることをあらためて痛感しました。

松本 ゴール設定は重要ですよね。システム構築において要求分析ができていないと完結できないのと同じです。

谷口 ただ近年は事業がクロスオーバーして何が成功なのか見えにくくなっている分、ゴールを設定しにくいのも事実ですよ。その意味でも、最初は現場視点によるミニマムなゴールを決めて、アジャイル開発のように小さな成功を繰り返し、最終的に大きなゴールを目指すアプローチが有効なのではないでしょうか。

谷川 特に製造業では分析の知見を持った人材、あるいはその素質を持った優秀な人材が現場に多いと感じます。まずはそうした現場の知見を持つスタッフがデータ分析に積極的に取り組んだ方が、ビッグデータの利活用はうまくいくのかもしれませんね。

谷口 先ほど松本さんがアジリティという価値を挙げられましたが、データ分析は「将来」を予測するより「今」を素早く認識、改善するというアプローチの方が現実的かつ効果的かと思います。

新野 つまり「全く新しい価値の創出」も、明確な目的意識のある“地に足のついた分析”を行い、成功を積み重ねることで初めて見えてくる、といったところでしょうか。

恵木 その通りだと思います。それに分析とは本来、非常にエキサイティングな行為でもあるのです。私はこれまで多くの分析に携わってきましたが、ビジネスデータに思わぬ知見が隠れていることを多々目の当たりにしてきました。科学の世界では実験・観測データからノーベル賞につながる事実が発見されることがありますが、ビジネスデータには、決して大げさではなく、それらに匹敵するような重要な発見がまだごろごろ転がっていると思います。発見の1つ1つがマイスターとしての喜びですし、顧客企業の方もその発見に驚くと同時に喜んで下さいます。分析というと“敷居が高い”といったイメージもありますが、私としては今後も顧客企業とともに価値を発見し、より多くの方と喜びをシェアしていきたいと思いますね。


< 参加者の声 >
谷口有近氏 : Arichika Taniguchi & Associates (谷口有近事務所)
谷川耕一氏 : ビッグデータ活用にもいろいろある:むささびの視線

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「データ・アナリティクス・マイスターサービス」情報ページ




提供:株式会社日立製作所
アイティメディア営業企画
制作:@IT情報マネジメント編集部
掲載内容有効期限:2013年3月27日