ハイベロシティが賭ける“ソーシャル・アプリ”
ゲームからアプリへ、Facebook騒動の次に来るチャンスとは!?
2012/3/21
ソーシャルといえば、ソーシャル・ゲームや、企業によるFacebookページ開設などが話題だが、それに加えて“ソーシャル・アプリ”市場が花開きつつあるのかもしれない。いち早くこの市場に取り組み始め、「Hivelo Social Apps」シリーズで「国内では確固たる地位を得た」と豪語するソーシャル・アプリ開発のハイベロシティに話を聞いた。
ソーシャル・アプリ市場は“ブルーオーシャン”
「2004年8月に創業した弊社は、FlashゲームやWeb制作を受注する会社だったのですが、2010年から2011年にかけて、GREE、DeNA、mixiに対してゲームを出してみました。これが……、見事にコケまして(苦笑)、結構な損失を出したんですね。それで弊社ではソーシャル・ゲームはもうダメだろうということになったんですが、最近は事情が変わってきています」
こう語るのは、ハイベロシティの取締役でCTOを務める和泉裕臣氏だ。
「日本ではソーシャル・ゲームを出す会社は多いのですが、ゲーム以外のソーシャル・アプリはまだほとんどありません。アメリカにはInvolverというソーシャル・アプリで成功しているベンチャー企業があります。企業などが開設する“Facebookページ”の左側に、ナビの部分に紛れてアプリを入れられる場所があるのですが、ここを狙う戦略でInvolverは成功しています。われわれが考えたのは、日本でInvolverと同様のことをやれば、まだブルーオーシャン市場ではないかということです」(和泉氏)
ハイベロシティは、2011年4月からソーシャル・アプリの企画・開発を開始。「Hivelo Social Apps」として、6月1日までに5本をリリースし、本格始動したという。それから約半年が経過した2012年3月までにリリースしたアプリは17種類、26本となり、3月1日時点での累積インストール数は約7万6000に上るという。また、アプリをインストールしたFacebookページは3万1000ページもあるという。
誰に、どういうアプリで価値を提供していくのか?
ハイベロシティが提供するのは、Facebookページの使い勝手を改善したり、ちょっとした外部サービス連携をするタイプのものが少なくない。例えば、「FBlog」は、Facebook標準の「ノート」をブログ形式で見せるためのプラグイン的なアプリだ。
「ノートとブログは似ていますが、ノートは書いたそばからウォールで流れて行ってしまうんですね。これではFacebookページを見に来た人に見てもらえません。FBlogをインストールすると、一度ノートに書いたエントリが、カレンダー形式で月別にアーカイブした状態で表示されます。シンプルなアプリですが、ページを訪れた人にどう見えるのか、その違いが重要だと考えています」(和泉氏)
FBlog同様に「FAQ」アプリもシンプルだ。Q(質問)に対してA(回答)が折りたたまれた状態で見える。FBlogもFAQも、いずれもシンプルなアプリだが、今のFacebookページで求められているのは、「何をどう見せるか」というコンテンツ性だと和泉氏は言う。
「これまでアプリの品質といえば、エンジニア的な意味での品質のことでした。パフォーマンスだったり、UIの良さです。でも、それ以上に今後重要になるのはコンテンツ性です。機能よりも、何をどう見せるのか、そういった意味での品質をどう担保していくのかということが大切です」(和泉氏)
“コンテンツ性”というと抽象的だが、ハイベロシティが「Hivelo Social Apps」(HSA)のシリーズ名の下にリリースしているアプリの実例と、そのターゲットユーザー層を見れば、その狙いはよりハッキリと見えてくるだろう。
ハイベロシティでは、個人の利用者への広がりも当然期待しているというが、本当のターゲットはズバリ、SMB市場、つまりスモールビジネスのオーナーたちなのだ。
アプリ名 | 概要 |
---|---|
ShowRoom | 商品カタログのような情報をFacebookページ内に埋め込めるアプリ。管理画面で画像やテキストが追加できる |
YouTube | YouTube IDを指定するだけで特定チャンネルから、最新動画20件をFacebookページに表示し、「いいね!」が有効になる |
RSS | ブログやホームページのRSSを指定するだけでFacebookページに最新情報をインポートできる |
Form | Facebook内にアンケートや問い合わせページを作成できるアプリ。テキスト入力フォームをはじめ、セレクトボックス・ラジオボタン・チェックボックスといった入力項目をサポート |
Member | 社員ディレクトリを作成することができるアプリ。社員ごとにTwitter、Facebookのリンク先を設定できる |
Map | Yahoo! Map(YOLP)を表示して、地図上に吹き出しを使って店舗情報が表示できる |
LAMPアプリからFacebookアプリへ
上記のアプリが提供する機能は、従来であれば「レンタルサーバ+LAMPスタック」にブログやCMSなどのエンジンを載せて提供してきたようなものだ。ハイベロシティが提供するアプリ群は、SMB向けWebページ制作の業務を、Facebook上で再現するものと言えるだろう。動画を撮影してきれいにページ上に並べることも、店舗情報の地図をネット上に置くことも、今やYouTube、YOLP、Facebookページの組み合わせで手軽にできてしまう時代なのだ。PHPで掲示板を設置しなくても、顧客とのダイレクトなコミュニケーションが可能なのだ。
「日本でもソーシャルという言葉がITと関係のない人たちにまで波及しつつあります。例えば、個人で商店やレストランを営むような人々で、これまで紙の帳簿があればパソコンすら要らないと言っていたような層です」(和泉氏)
ホームページを持たない零細企業や店舗が、Facebookページを持つ時代が到来しつつある。なぜパソコンやホームページに見向きもしなかった層が、Facebookページに関心を示すのか。それは、ソーシャルによって広告や販売の在り方が変わりつつあるからだ、という。
「従来のマスメディア的な広告の考え方は、不特定多数に面で攻めていくというものです。一方、Facebookでは、年齢、性別、地域など、より詳細なターゲティングができますから、従来のRSSやメルマガに比べてはるかにコンバージョンレートが高くなります。例えば従来1000人にメールして1人とか10人だったコンバージョンが、Facebookでは10人にメッセージを投げて10人がコンバージョンする世界なんです」(和泉氏)
最大公約数に訴える必要がないようなローカル情報や、ニッチ商品の情報などを広める目的では、Facebookページは有効だという。例えば、ハイベロシティのある社員は、プロボノ活動の一環として、革職人を独自にサポートしている。この活動により、READYFOR?というクラウドファンディングサービスとFacebookを連携し、予想金額以上の売上を実現した。このように、「どういう人が、どういう想いで作っているのかが分かると、企業名やブランド名を知らなくても買いたいという人は出てきます」と言い、今後はさらにソーシャルとビジネスは密接に関わるようになると和泉氏は予想する。
現在ハイベロシティでは、スモールビジネスのオーナーのニーズが高そうな機能を中心にFacebookアプリとして無償で提供しているが、今後はアプリ自体の課金、ソーシャルコマース系アプリのリリース、サポートやセミナーといった周辺ビジネスによるマネタイズの可能性を見据えているという。現在も、3月中のリリース予定で「HubSynch」と呼ぶ決済系サービスをSaaSとして準備中という。
タイムライン騒動で、再び一斉にスタートラインに
ブログエンジンのMovable TypeやWordPress、あるいは決済ならPayPalやEC-CUBEに相当する機能が、いずれFacebookアプリによって徐々に代替されていくのだとしたら、メジャーなジャンルでソーシャル・アプリの覇者になる条件とは何だろうか?
「半年前に走り出したことで、われわれは国内のソーシャル・アプリ市場で確固たる地位を築けたと思います。先ほど申し上げましたように、ソーシャル・アプリで重要なのは、コンテンツ性です。機能面で差別化して儲けようというのは難しいんですね。だけど、日本ではまだまだソーシャル・アプリと言えば、ソーシャル・ゲームなので、日本の技術者はソーシャル・ゲームのプラットフォームへ流れていった面があります」(和泉氏)
技術者たちはまだ、ソーシャル・アプリ市場に参入していないというわけだ。一方、マーケターやコンサルティング系でFacebookをビジネスにしている人々の多くは、高単価のレポート作成など大企業向けにコンサルティングを行っている。ソーシャル・アプリ市場は、いまだブルーオーシャンというわけだ。
Facebook関連市場は、まだ日本では立ち上がり始めたばかりだが、米国のWebベンチャーらしいFacebookの変化のスピードに戸惑うことも少なくないという。
ハイベロシティの一番人気アプリは「Welcome HTML」だった。これは“いいね!”の押下の有無でのページ出し分け機能も実装するもの。企業は、いいねを押したユーザーだけに見えるFacebookページを用意することで、多くのいいねを集めることができた。ところがFacebookの突然の仕様変更により、Facebookページの“タイムライン化”が決まり、「いいねを押すことで見えるFacebookページ」というアイデア自体が意味をなさなくなってしまった。
3月31日に全面変更というこの突然の仕様変更に、多くのFacebookビジネス関係者が面食らい、戸惑っている。ハイベロシティもそうした1社だ。しかし、逆に新たにチャンスが開けているとも言う。
今回の仕様変更で、Facebookページにアイコンとして常時表示されるアプリ数は最大2個となる。この2個のスペースを巡って、今後はソーシャル・アプリの競争が始まることが予想されるという。Facebookには、古いコンテンツへアクセスする導線がほとんど存在せず、タイムラインがすべてという面がある。逆に、多くの個人・企業ユーザーがインストールして登録するメジャーなアプリを提供できて、“常時表示される2個のスペース”を1つでも獲得できれば、大きなシェアを握れる可能性があるというわけだ。
ハイベロシティを支えるIDCフロンティアのクラウド セルフタイプ
ハイベロシティではソーシャル・アプリ市場への参入を始めた昨年から、徐々にインフラの移行と拡充を進めているという。選択したのは、IDCフロンティアのクラウドサービス セルフタイプだ。
「選択のポイントは、何よりもSLAとコストパフォーマンスでした。仮想マシンの稼働率、ネットワークの接続率ともにSLAで99.99%を保証しているというのは、同種のサービスの中でも際立っています。私はこれは世界一だと思っています。また、1CPU2GBというインスタンスで比較すると、以前に使っていたクラウドと2倍近くの価格差があったんですね。これからスケールしていこうというときに、この価格差はつらかったですね」(和泉氏)
現在まだハイベロシティは無償アプリを次々と投入して利用層を広めている局面だが、すでにIDCフロンティアのクラウドサービス上で20インスタンスほどサーバを起動しているという。
「ファイアウォールや必要十分な監視機能、ロードバランサが無料で、制限がないのもポイントです。こうした機能は有料オプションだったり、ロードバランサには帯域制限があったりしがちですが、IDCフロンティアのクラウド セルフタイプでは、無料です。ロードバランサはL4なので、セッション管理を自前でやる必要があったりしますが、われわれはmemcachedを使う標準的なアプローチでやっています」(和泉氏)
RightScale対応でグローバル展開も視野
IDCフロンティアは、クラウドの統合運用管理ツールを提供する米RightScaleとの協業を発表しているが、RightScaleが使えることもポイントだという。
「RightScale対応は非常に重要です。今後は海外展開を視野に入れているので、どうやって、サーバ環境を構築するかというのは悩ましい問題です。いちいち現地でホスティング事業者を探したりしたくないんですね」(和泉氏)
Facebookアプリは、プラットフォームこそFacebookだが、実際にアプリが動くのは各社のサーバ。海外展開するとなると、アプリのデプロイ・運用を自動化できれば有利だ。RightScale対応クラウドであれば、異なるクラウドでも統一して管理・運用ができる。
ハイベロシティは、まだソーシャル・アプリ市場の可能性に賭けて走りだしたばかり。本当にこの先にブルーオーシャンが広がっているのか、そこで確固たる地位を維持できるのかは未知数だ。そうしたことからも、専用サーバではなく、初期コストやリードタイムがゼロに近いクラウドの活用は必須だったという。決済系でのビジネスまでも視野に入れた同社のチャレンジを支えるのに、信頼性と拡張性を備えたIDCフロンティアのクラウドサービスが生かされていると言えそうだ。
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提供:株式会社IDCフロンティア
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部
掲載内容有効期限:2012年4月10日