〜ソーシャル・ゲーム開発で急成長を続けるgloopsの秘密〜
1日3億ページビューをWindowsプラットフォームで処理
2011/10/19
ソーシャル・ネットワークを使って、気の合う仲間同士でチームを結成し、ほかのチームとさまざまな分野で競い合いながら最強チームを目指す。そんなソーシャル・ゲーム・メーカーの1つ、株式会社gloopsがいま急成長している。アクセス数は1年前と比較して20倍以上、直近の1カ月でも、50億ページビュー/月から76億ページビュー/月と、いまなおアクセスは急増中だ。急成長に伴う人員増加や事業拡大に対応するため、2011年8月末に新オフィス(写真)に移転。これを機に社名をそれまでの「GMS」から「gloops」に変更した。gloopsの"g"には「global」、"loops"には「コミュニケーションをループさせる」という意味があり、「グローバルにコミュニケーションの輪を広げるサービスを提供する」という意味が込められている。
ゲーム・サーバへのアクセスは、多い日には1日に3億ページビュー、最もアクセスが集中する時間帯には、1秒間に1万ページビュー近いアクセスがあるという。ソーシャル・ゲーム開発に興味のある方はもちろん、ITエンジニアの中には、純粋にサーバの高負荷対策に関心を持つ人も少なくないだろう。しかもこのgloops、ほとんどのソーシャル・ゲーム・メーカーがLAMP系システム(Linux/Apache/MySQL+スクリプト言語)を利用する中で、Windows Server 2008 R2を利用してゲーム・サーバを運営しているという。ソーシャル・ゲーム・メーカーは数あれど、Windowsでゲーム・インフラを構成しているのは珍しい存在だ。
なぜWindowsだったのか、Windowsベースの高負荷システム運用の実際などについて、gloops社の取締役CTO(最高技術責任者)である池田秀行 氏と、開発本部 副本部長の長谷川祐介 氏のお二人にお話を伺った。
ソーシャル・ゲームはコミュニケーション・サービス
ソーシャル・ゲームとは、友達同士のつながりであるソーシャル・ネットワークを利用し、友達同士でチームを作るなどして、互いに協力し合って対抗するチームと競い合うというもの。特にgloopsは、バトル系と呼ばれる対戦型ソーシャル・ゲームのプラットフォームを開発し、その上で多数のゲーム・コンテンツを提供している。「ソーシャル・ゲームは、ゲームの形式をとったコミュニケーション・サービスです。ですからゲームの勝ち負けばかりでなく、プレイヤー同士がゲームを題材にどうコミュニケーションを活性化できるかが重要です」(池田氏)。ビジネスのモデルは「フリーミアム(freemium)・モデル」。基本的なサービスは無料で提供しながら、ゲームを有利に進められる、より高度な機能や、標準にはない機能などを有料で提供するというものだ。
広告代理店を営みながらソーシャル・サービスを開発
gloopsの前身であるGMSが設立されたのは2006年。当初は広告代理店業を営む会社だった。その傍らで、nendo(ネンド)というSNS(Social Networking Service)を独自に開発してサービスを開始した。ユーザー・インターフェイスに非常にこだわったサービスだったが、あまりに柔軟性が高すぎて、世の中のニーズとはマッチしなかった。しかしこのnendo開発で得た知識と経験をもとに、「渋谷クエスト」というソーシャル・ゲームを開発した。「簡単にいえば『渋谷版ドラクエ』のようなRPG(ロールプレイング)系のゲームです」(池田氏)。
当初はいわゆる「勝手サイト」として独自にサービスを提供しており、アクセスは必ずしも多くなかった。しかし2010年2月に携帯ゲーム・プラットフォームのmobage(モバゲー)に渋谷クエストの一部改良版を公開したところ、世界が一変する。「アクセスはどんどん増えて、公開から1週間後には1000万PV/日、2週間後には累計1億PVに達しました。mobageプラットフォームの威力を思い知らされました」(池田氏)。これがわずか1年半前、当時の社員数は10名ほどの小さな会社だった。
現在では共通システムを土台に12本のゲームを提供し、前述した1日3億ページビューまでにサービスは成長、社員数は10月現在で180人、年内には200人になる予定だという。わずか1年半での急成長である。
業界としては珍しい「Windows」という選択
mobageは、会員管理や課金のシステムなどを提供するだけで、実際のゲーム機能を提供するWebアプリケーション・サーバは、ゲーム・ベンダ側がそれぞれ独自に提供している。「ゲームというサービスの性格上、快適なレスポンスはファン層拡大に不可欠の要素です。どれだけストーリーやキャラクターが魅力的でも、レスポンスが悪ければ楽しめません」(長谷川氏)。現在でこそ落ち着いたものの、当初は急増するアクセス数と、それをこなすためのシステムのチューンアップという、厳しいいたちごっこが続いたという。「当初のアクセス数の急増は、私たちの予想をはるかに超えたものでした。どうすればトラフィックに耐えるシステムになるのか、ある程度安定した現在のベース・インフラを構成するまでは、毎日のようにシステムのチューニングで眠れない日が続いたものです」(池田氏)。
ソーシャル・ゲームのサービス・プラットフォームとしては、LAMPを選択するベンダがほとんどだ。オープンソース環境なら安価で手軽に始められること、PHPなどLAMPベースのスクリプト言語に慣れたWebアプリケーション開発者が多いことなどが理由だと思われる。この結果として、開発者コミュニティなどで共有されるシステム構築やアプリケーション開発のノウハウはLAMPベースのものが圧倒的で、「ソーシャル・ゲーム・プラットフォームならLAMP」というのが定説になった。
しかしgloopsが選択したのはWindowsプラットフォームだった。なぜWindowsだったのか。「最初はそれほど深く考えて決めたというわけではなく、開発環境のVisual Studioや、開発言語であるC#の開発生産性が高いと思ったから選択したんです。業界の集まりに出かけて『Windowsを使っている』というと驚かれます(笑)」(池田氏)。gloopsが使用している主要なサーバのOSはWindows Server 2008 R2で、ゲーム・コンテンツを提供するWebアプリケーション用サーバ(IISを利用)、データベース用サーバ(SQL Server 2008 R2を利用)など、多数のWindowsサーバを連携させながら、1万ページビュー/秒というトラフィックをさばいている。
結果的には「Windowsにして助かった」
現在の規模を想定してWindowsプラットフォームを選択したわけではなかったが、結果的にいえば、Windowsにして助けられた点が多々あったという。「Windows OSというと、性能や安定性に疑問を持っている開発者が多いのが不思議です。過去がどうだったのかは知りませんが、少なくとも現行のWindows Server 2008 R2は、性能にも安定性にも何の問題も感じたことはありません。最初から現在のような使い方を見通して選んだわけではないので、あくまで結果論ですが、むしろWindowsプラットフォームを選択したことに助けられる場面が数多くありました」(池田氏)。
お二人がまず挙げたのは、Windows Serverの標準WebサーバであるIIS(Internet Information Services)だ。「巷でのIISの評判はあまり芳しくないのですが、実際に使ってみると、不具合も少なく、非常に安定的です。Apacheを利用している他社の話を聞くと、だいぶ苦労してWebサーバのチューニングを施しているようですが、うちではそれほどチューニングに労力は使っていません。Webサーバとして、IISは高速な部類に入ると思っています」(長谷川氏)。最新バージョンのIISは、不安定なアプリケーションを隔離することのできるアプリケーションプールの機能や、プロセスの動作状況に応じて自動的に対処手段を設定しておけるヘルスチェックの機能も標準搭載しており、Webサーバ全体として安定動作に向けた設計が容易だからだ。またIISは、カーネルモードでも出力キャッシュ機能を保持しているため、より少ない処理時間で多くのリクエストを高速に処理できる。これにより単位時間あたりの要求数向上につながる。
さらに性能の高さに加え、単一のベンダがすべてのソフトウェアを提供することにも利点があるという。「LAMPでは、LinuxにTomcat、Javaなどを組み合わせてシステムを構築することになるのですが、それぞれソフトウェアの提供元が異なるため、リソース管理などにけっこう手間がかかります。この点Windows+IISは、単一ベンダ(マイクロソフト)が統合的に開発しているので、最低限の手間でリソース管理が可能です」(池田氏)。
データベース・サーバとして利用しているSQL Server 2008 R2はどうだろうか。「とにかくインストールしたままで、手間いらずで、運用コストがかからないのがいいですね。ハードウェアの性能向上に対して、SQL Server自体の性能もリニアに向上して、高いパフォーマンスを発揮できるのもありがたいです。また、まだあまり生かせていませんが、SQL ServerはBI(Business Intelligence)の機能が強力なので、これを利用してプレイヤーの行動分析などをして、ゲームの改善や新しいゲームの開発に役立てたいと思っています」(池田氏)。「データベース・システムとしての機能や性能も優れていますが、管理ツールであるSQL Server Management Studio(SSMS)の使い勝手がよいこと、プロファイラ機能が充実していることなど、周辺のツールが非常に豊富で、結果として管理コストを低減できる点がよいですね。SSMSの実行プランのグラフィカル表示や、不足インデックスのアドバイスなども非常に役立ちます。また解析系のツールも非常に強力で、パフォーマンス・チューニングなどが容易にできるのも助かっています」(長谷川氏)。
開発生産性の高さからWindowsプラットフォームを選択したということだが、実際のところはどうだったのか。「Visual StudioのIDE(統合開発環境)によるコーディングやデバッグ支援は本当に強力です。アプリケーション・インターフェイスの.NET Frameworkも高機能で洗練されていますし、開発言語のC#も効率よくコーディングができます。単純な比較はできませんが、開発生産性は当初の思惑どおりの効果が得られていると思います」(長谷川氏)。
現在gloopsでは、1ゲームコンテンツあたり、平均して30〜40台のサーバで運用しており、10タイトルを越える現状では、仮想および物理を合わせて総数500台前後のサーバーを運用している。ただ、Windows Serverを利用していなかったとしたら、サーバの台数はもっと増えていただろうとのこと。「1コンテンツあたり 30〜40台のサーバーで運用しています。実際、他社のシステム構成を聞くと、うちの半分のトラフィックでも1コンテンツあたり100台以上のサーバで構成されているのが普通のようです。Windowsを採用したおかげで、結果的には、1コンテンツあたり他社の4分の1から5分の1程度のサーバ台数で運用できています。これもWindowsプラットフォームを選択した大きなメリットですね」(池田氏)。
一方のWindowsの欠点はと聞くと、コミュニティなどでの情報不足が挙げられた。「Windowsの欠点は開発者コミュニティに情報が少ないことでしょうか。なにしろ他社にはユーザーがあまりいませんから(笑)。マイクロソフトの技術情報は充実しているほうだと思いますが、やはり、現場で生かせる実践的な情報は十分とはいえません」(池田氏)。
世界を視野に入れ、サービスを拡大していく
急成長するgloopsはこれからどこに向かっていくのか。この質問に池田氏は「世界を目指す」と語ってくれた。「まずは米国向けに、スマートフォンベースでプレイできるソーシャル・ゲームを公開しようと思っています。国内向けのサービス拡充、新ゲーム開発はもちろん今後も進めていきますが、日本で発展したソーシャル・ゲームの基盤やノウハウを利用して、世界に通用するサービスを開発するのが目標です」(池田氏)。
gloopsに転職する前、池田氏は大手SIベンダで大規模業務システムの開発を、長谷川氏はWeb系開発会社でシステム開発をしていたとか。ソーシャル・ゲーム開発に移った理由とは何なのか。「大規模なシステム開発では、プログラマはあくまで陰の存在でしかありません。開発プロジェクトは大規模で、1プログラマが主体的に何かを提案するということもできません。自分の仕事がいったいどう役に立っているのか、あまり見えてきません。これに対しgloopsでのゲーム開発では、エンジニアが花形になれるんです。いいものを作れば、すぐに反響も得られますから、やりがいもありますね」(長谷川氏)。
gloopsのゲーム開発チームは、1チーム7〜8人で、現場でプログラミングを行うプログラマはこの中の3名程度だそうだ。「少数精鋭の開発チームですから、プログラマ個人のスキルが最終サービスの出来栄えにも大きく影響してきます。それだけ責任が重いということでもありますが、開発経験を積むごとに、プログラマとして成長できる職場だと思います」(池田氏)。
現在gloopsでは、各種エンジニアの中途採用に力を入れている。読者がエンジニアで、現在の仕事に疑問を感じているなら、急成長する分野でエンジニアとしての新しい可能性を試してみてはどうだろうか。大手SIで顔の見えない仕事をするか、それとも大企業ではないが個人のスキルが問われる仕事をするか。これから先の人生を、一度立ち止まってじっくり考えてみてもよいだろう。「gloopsは若い社員が多く、オフィスもこのとおり自由で楽しい空間です。自由な発想で、クリエイティビティの高いサービスを開発するにはこうした環境が必要だと考えているからです。ただあまりにも普通の会社とは違うので、「世の中これが当たり前」だと思ってしまったら大変だな、と少しだけ心配しています(笑)」(池田氏)。
ソーシャル・ゲームとgloops、これからますます目の離せない存在になりそうだ。
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日時:2011年11月16日(水) 18:30 開始
会場:日本マイクロソフト品川本社 セミナールーム
関連リンク
- Windows Server 2008 R2
- Microsoft SQL Server 2008 R2
- Internet Information Services 7.0
- (株)gloops社の採用情報のページ
提供:日本マイクロソフト株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部
掲載内容有効期限:2011年11月18日