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基本と対応ポイントを解説

IFRS適用に向けた経営、業務、ITの課題とは

ビジネス界で注目を集める「IFRS」は企業の経営、業務プロセス、ITシステムに大きな影響を与える。効果的な適用を目指すには、長期的な取り組みと、信頼できるIT基盤が欠かせない。IFRSの基本と対応のポイントを紹介しよう。

2010/3/18

[PR/IFRSフォーラム]

IFRSとは何か

 「IFRS」という言葉を聞く機会が2009年以降、急に増えてきた。IFRSとはご存じのように国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards)の略で、日本では国際会計基準ともいわれる。

IFRSの特徴

  • 原則主義:詳細な規定がある日本の会計基準と異なり、IFRSは会計処理の原則だけが記され、企業は自らで処理を判断する

  • 資産負債アプローチ:損益計算書よりも、貸借対照表を重視する。貸借対照表の資産と負債の増減が損益計算書の損益となる

  • 公正価値測定:資産、負債の測定を基本的に時価会計で測定する

 このIFRSが注目されている理由は2つある。1つは上場企業がIFRSを適用しなければならないスケジュールがほぼ決まっていて、企業は適用のための道筋を早期に決める必要があることだ。

 もう1つはIFRSの影響範囲だ。IFRS適用で影響を受けるのは、企業の会計処理だけではない。それに伴って業務プロセスやITシステムも大きな影響を受ける。企業にとって適切にIFRSに対応し、しかもIFRS適用のメリットを経営に生かすことが求められている。

世界110カ国以上が採用、日本も適用へ

 IFRSは2005年にEU(欧州連合)が域内の上場企業に強制適用し、その後、世界各国に急速に広がった。独自の会計基準を持つ米国も2015年以降にIFRSを適用する見通しだ。IFRSは新興国なども積極的に採用していて、すでに世界で110カ国以上がIFRSを適用可能にしている。

 日本も2009年以降に急ピッチでIFRS適用に向けて進んできた。2009年6月には金融庁が日本の上場企業の連結決算をIFRSベースにする中間報告を公表した。中間報告のロードマップによると、2010年3月期からIFRSの任意適用を認め、実際にIFRSを強制適用するかどうかは2012年に決定する。そして強制適用する場合は2015年、または2016年というスケジュールだ。

 世界で110カ国以上が導入するIFRSには採用メリットがある。1つは財務情報の比較可能性があるということ。共通の基準に基づき会計処理がされるために、国をまたがって企業の状態を比較できる。これは投資家にとって大きな利便性を提供する。

 企業でもIFRSを適用することで、世界の投資家に対して経営の透明度を上げることができ、国際的な規模での資金調達が容易になる。さらに世界各国に広がるグループ企業や工場などを同じ基準で評価できるようになり、経営管理の質が向上する。IFRSはグローバル企業の今後のスタンダードになるだろう。

IFRSに向けてすべきことは何か

NTTデータのグローバルITサービスカンパニー 法人コンサルティング&マーケティング本部 IFRSビジネス推進室長の岡野哲也氏

 それでは、日本企業はどのようにIFRS対応を進めているのか。企業のIFRS対応を支援しているNTTデータのグローバルITサービスカンパニー 法人コンサルティング&マーケティング本部 IFRSビジネス推進室長の岡野哲也氏は「進み具合はさまざまだが、多くの日本企業はこれからIFRS適用の準備を本格開始することになる」と話す。岡野氏は「特にITにおけるIFRS準備には各企業のシステム進捗度に応じた対応が重要」と指摘。「IFRS対応に向けたITシステムだけでなく、IFRS後を見すえた付加価値のあるITシステムを考えるべき」とも強調する。

 仮に2016年3月期(2015年度)から強制適用と想定すると、並行開示などの期間も考えて2013年度にはIFRSの連結財務諸表を作成するくらいまでには体制を整える必要がある(下図参照)。

 その準備・計画のためのフェイズはどのような内容だろうか。NTTデータは以下の4つのフェイズで考えている。

 フェイズ1. 準備・計画
 フェイズ2. コンバージェンスと強制適用への並行対応
 フェイズ3. 強制適用に向けた評価・検証
 フェイズ4. 運用定義

 第1フェイズである「準備・計画」は「IFRSが自社にどのような影響があり、どのようなあるべき姿を目指すか」を明らかにするアクティビティで、その調査、分析結果を基にプロジェクト全体の概要計画を決定する。そして岡野氏は「残された期間を考えると、遅くとも2010年度中にはIFRS対応の準備・計画に着手することが必要」と指摘する。

 2016年3月期をIFRS適用のターゲットとすると、フェイズ2は2010年度から2012年度。コンバージェンスへの対応を進めながら、同時にIFRS対応を進める必要がある。具体的にはIFRSの会計基準の解釈や、IFRS適用を見越した業務やITシステムの将来構想を行う。また、必要となる人材や組織体制についてもプランニングや教育の準備を進める必要がある。

 フェイズ3は2013年度に行う。ここではフェイズ2で策定したプランを実行し、具体的な作業を進める。特にこの時期はIFRS適用に向けた並行開示を意識し、IFRSと日本基準でのプレ運用も行うことを考えたい。IFRSは全社や全グループを巻き込んだ対応が必要になるために「練習期間が必要」(岡野氏)だ。

 2014年度からは実際にIFRSを適用する。運用実態をモニタリングし、継続的な改善活動を行っていくことが重要。IFRSによる会計処理や業務プロセスをルーティン化できるようにする。特に2014年は日本基準とIFRSの並行開示期間なので注意が必要だ。

 2015年の強制適用はずいぶんと先のようにも思えるが、説明したようなフェイズの作業を進めていくことを考慮すると、残された時間はあまりないのだ。「影響度調査とその結果に基づく対応プラン策定に早期に着手しないと、影響が大きかった際に対応が間に合わなくなる可能性がある」(岡野氏)

IFRS対応ロードマップの基本的な考え方(3月決算の場合)


経営、業務、ITの基本的な考え方

 冒頭に記したようにIFRS適用で影響を受ける範囲は非常に広い。例えば、IFRSの会計基準の中で注目される収益認識。日本企業が多く採用してきた出荷時点での収益認識がIFRSでは認められず、顧客に届いた時点で売り上げを認識する着荷基準に変更する必要がある。収益認識を変更する場合、単に会計処理への影響だけでなく、それに伴って製品の着荷を確認するための物流システムや販売のシステムなどを変更する必要がある。売り上げの認識が後ずれするために、社内の管理会計の数値も変更される。経営者が確認する経営指標にも影響を与えるだろう。

 岡野氏はこれらのことから「会計処理が変わることで、業務フローが変わる。そして業務フローが変わるということはITシステムも大きく変わる。どのように対応するかを考えておかないといけない」と指摘する。

 ただ、IFRSが求める会計処理の変更に合わせてやみくもにITシステムを変更するのは避けたい。システムの一貫性が保てなくなり、非効率な運用となり、結局はコストに跳ね返ってくる。また、ITシステムに手を入れずに手作業でIFRSに対応することも不可能ではないが部門への負荷が増大し、継続が難しいだろう。岡野氏は「各社における業務の進展度に基づき、適切なIT対応を目標設定し、そのうえでITの見直しを設定していくことが重要だ」と話す。フェイズ1の時点でユーザー数や業務量の観点から重要な影響を与える個所を明確化し、システム対応が必要な機能範囲を抽出していくことがポイントとなる。

IFRS後の将来を見すえて考えるITシステム

 IFRS対応におけるITシステムの改修は通常の改修と比較して難易度が高くなりそうだ。IFRS対応で会計システムを改修すると、それに関係し、現業の稼働しているシステムやフロントシステムなど多数のシステムが影響を受けるからだ(下図参照)。例えば、販売管理や固定資産管理、そしてグループ企業の会計システムが影響を受けるだろう。このような全社のシステムを考慮した、「トータルスコープが必要だ」(岡野氏)。


 岡野氏はこのように多数のITシステムが影響を受ける可能性が高い場合は、「まずはAs-Isの棚卸しをして、そのITシステムの成熟度によってTo-Be像を考えていく必要がある」と話す。日本企業のITシステムは2000年問題への対応などで更新や導入が進んできた。それからサイクルが一巡し、2015年のいまは、理想的なITシステム像を再度策定し、IFRS対応と同期をさせていく時期ともいえる。また、その際は本社や主要子会社だけでなく、グループ企業全体のITガバナンスをどうするのかという視点も重要となる。

 問題となるのはIFRS適用準備のタイミングと、ITシステムのサーバリプレースやアプリケーションのアップグレードなどのライフサイクルが合わないことだ。おそらくIFRS適用に時期を合わせてサーバを新規導入したり、アプリケーションをアップグレードできる企業は少なく、多くの企業はITシステムのライフサイクルをにらみながら、段階的な対応が迫られるだろう。

 2009年までに新システムを導入したり、アプリケーションのバージョンアップを行った企業であれば、現行システムを生かしながら、新機能の追加や業務運用でIFRSを適用させていくことになるだろう。また、次期システムの構想があり、プロジェクトの開始が決まっている場合は、その中にIFRS対応要件と内部課題に基づく要件を十分考慮し、業務・システムの再構築方針を検討。新規システムの構想がない場合は、現行システムをベースにIFRS対応を考えながら、中長期的なITシステムの将来像を策定していく。各社が置かれているそれぞれのライフサイクルの状況、ITシステムの成熟度などによってIFRSへのアプローチは変わってくるだろう。

 また、ITシステムの開発・運用は当然、IFRSプロジェクト対応後にも続くため、その後のゴールも明確に設定する必要があるだろう。企業としての目標をIFRS対応(レベル1)の段階に設定して満足するのではなく、1歩先の経営効果を考えた目標(レベル2、レベル3)に設定することで、ITシステムによる企業の経営効果創出の道筋を明確にすることができる、というのが岡野氏の考えだ。

業務・ITの成熟度に応じたレベル設定

 レベル1. IFRS制度対応:確実かつ効率的なIFRS制度対応
 レベル2. 業務標準化:支社、支店、グループ会社(国内、海外)の業務標準化
 レベル3. グループ全体での業務・システム統一と経営情報の見える化


 IFRS対応、そしてその後の経営高度化を目指す場合、会計、業務、ITシステムの業務標準化がまず重要な取り組みとなる。IFRSで会計ルールだけを標準化しても、業務やシステムがバラバラのままではやはり決算プロセスの非効率などを避けることが難しい。全社、もしくは主要拠点ごとに会計、業務、ITを標準化することで経営効率の向上が期待できる。

 さらにIFRSが求めるマネジメントアプローチに基づき、経営管理情報の刷新も視野に入れるべきだ。IFRSでは内部の経営管理で利用する事業セグメントごとに財務情報の開示が求められる。グループ各社の経営管理をIFRSベースの経営指標で行うことで、外部への開示だけでなく、企業内部の管理も統一的なルールで行うことができ、経営情報の迅速、確実な把握が可能になり、より効果的な経営の可視化を実現できる。

柔軟な基盤の重要性が高まる

 企業のITシステムの状況はバラバラで、上記のようにライフサイクルは異なっているのが普通だ。また、IFRSが強制適用されるかどうかは2012年に決まるし、ITシステムの技術動向は予測が難しい。いま使っているアプリケーションが将来も使い続けることができるかどうかも、不透明だ。企業にとっては不確定要素が多いといえるだろう。このような状況下で企業が考えるべきは「柔軟に連携できるIT基盤作りだ」(岡野氏)。

 IFRSの議論になるとERPなど個別アプリケーションの機能の話になりがち。もちろん、機能は重要だが、企業が採るべき将来のIT活用をテーマとしてすえると、より重要なのはその基盤だ。ほかのシステムやアプリケーションと柔軟に連携できるIT基盤があれば、突然の会計基準の変更などにも迅速に対応できるし、新技術の追随も容易になる。「外部環境の変化によって自社のIT戦略が制約を受けることを避けられる」(岡野氏)のだ。

 NTTデータグループではこのような標準的なIT基盤としてNTT データ ビズインテグラルビジネスプラットフォーム「Biz∫」を推奨している。「Biz∫はIT基盤の変更柔軟性をもたらす仕組みであり、現行システムや他社のシステムを連携させることができる。そのうえでそれぞれのシステムやソリューションを束ねて、業務プロセスの可視化を実現する」(岡野氏)。システム基盤の見直しにより、社内システムの柔軟性を確保し、IFRSの内容が確定した時点で日々の改善の延長線として、段階的にIFRS対応を実装していく無理のない対応がBiz∫で実現可能となるのだ。NTTデータグループではBiz∫を基盤として利用し、欧州でも実績があるコンサルティングサービスを組み合わせて企業のIFRS対応を支援するとしている。