真っ向勝負を挑む田中邦裕社長に聞いた
【動画】レッドオーシャンを泳ぎ切る、さくらのクラウド戦略とは
2011/10/24
当社は1人でレッドオーシャンを泳ぎ切る――。こう言い放つのは、11月中旬にクラウドサービスを開始する、さくらインターネットの田中邦裕社長だ。“Amazon EC2の半額以下”という事実上の価格競争宣言の狙いと戦略について話を聞いた。
誰もが逃げ出すIaaS市場で真っ向勝負する
国内・国外事業者のクラウド市場への参入が相次いでいる。競争激化が予想され、いわゆる“レッドオーシャン”状態となるのは時間の問題に思われる。レッドオーシャンとは、すでに多くの事業者が参入して価格下落が進んだ結果、参入メリットが小さくなった市場のことだ。
国内でも後発の部類に入るさくらインターネットに勝算はあるのだろうか?
クラウドサービスの競争は激化している。このため多くの事業者はサービスの差別化や高付加価値化を課題とし、単なる価格競争に巻き込まれるのを避けようとしている。田中社長は、こうした状況を「レッドオーシャンから皆さん(ほかの事業者)が逃げている」と指摘する。そして「皆さんが逃げたIaaSのレッドオーシャンを、当社は1人で泳ぎきる」(田中社長)と、コストパフォーマンスで真っ向勝負するつもりだと語る。関西人らしく、「1人でレッドオーシャンということになると、それは実はブルーオーシャンなんじゃないか(笑)」と、冗談交じりに笑みを浮かべる。
コストパフォーマンスで勝ち抜いて利益を出せるというヨミには、どういう裏付けがあるのだろうか。以下、今回のインタビューは動画という形式でも公開する。全体で25分ほどと、やや長いので、以下に4分割した動画と、それぞれの動画の質問と回答のサマリを掲載する。実際に田中社長自身の言葉でお聞きいただければと思う。
後発で勝機はあるのか?
まず、後発であるのに勝機はあるのか? という質問だ。さくらインターネットの強みは、どこにあるのだろうか。質問項目は以下の通りだ。
- 後発となるクラウドサービスですが、さくらの強みは?
- 大規模にサービスを展開する海外勢に、どう対抗する?
- 海外、特にアジア圏に対してクラウドサービスを販売する計画は?
田中社長がまず強みとして挙げるのは、既存のユーザーベースが大きいことだ。専用サーバで1万を超える契約、昨年開始したVPSサービスでも2万ユーザーを獲得している。こうした既存ユーザーの乗り換え需要を見込める。それだけの規模があれば、ハードウェア購入の仕入れ原価でも、先行するAmazonなど海外勢と大きな差はついていないはずで不利はないだろうという。自社でデータセンターを構築して、あらかじめ高速なネットワークを用意できる点は、十分な需要が見込める同社だからこそできること、というわけだ。
もう1つの強みは、コストパフォーマンスの高さに対して同社はこれまでユーザーの信頼を勝ち得てきていることだという。「他社より3割や5割安くても、きっちりと使えるだろうというブランドイメージ」(田中社長)があるという。
逆に、ネックとなりそうなのは開発力だ。これについては手広く多様なサービスを開発する代わりに、サーバやストレージといった基本機能にターゲットを絞ることで十分に魅力的なサービスが提供できると考えているという。また、サーバ購入の原価や電気代など、インフラ部分で日本は高コストかといえば、決してそんなことはなく、「国内に関していえば、物量で負けることもないはずだ」(田中社長)という。むしろ、競合他社が“店子”としてデータセンターを利用しているのに対して、さくらインターネットのほうがむしろ自社でデータセンターを運用している分、有利ではないかという。そして、安価で使い勝手の良い仮想サーバとしてのクラウドサービスが提供できれば、アジア圏にサーバを売る道も開けるだろうという。
トイレットペーパーは2倍は売れないが、サーバなら売れる
原価の点で不利はないとしても、価格競争になると厳しい戦いになるのではないか? 次の動画では、以下の点について質問をした。
- 付加価値で差別化を図るサービスが多い中で、価格競争を軸に据えるのは厳しい戦いになるのでは?
- 日本のインフラは原価が高くつく? 電気代は?
- クラウド提供で専用サーバが売れなくなるのでは?
- サーバは安ければ、それだけ多く売れる?
田中社長は「皆さんが逃げたIaaSのレッドオーシャンを、当社は1人で泳ぎきる」と、コストパフォーマンスで真っ向勝負するつもりだと語る。興味深いのは、価格競争で仮想サーバ1台当たりの販売価格が落ちたとしても、事業収益を伸ばすことができると見ている点だ。なぜなら、価格が半分になれば、2倍以上売れるのがサーバである、という経験則があるからだという。
「価格が8分の1でも10倍の数が売れれば、売り上げのトップラインは確保できます。トイレットペーパーのような日用品は価格が半分になったからといって2倍は売れません。今まで拭けなかった部分まで拭くなんてあり得ないですからね(笑) だから、コモディティ化した日用品は高付加価値を狙っていく。肌触りの良いティッシュだとか、より落ちやすくなった洗剤とかですね。でも、サーバの場合は、台数を増やすことで、今までできなかったことができるようになりますから、安くするとその分、多く売れるんですね。例えば、Webサイトの画像のピクセル数を今までより大きくできるかもしれませんし、友だち申請が100人しかできなかったSNSが1000人までできるようになる。あるいは、サイトトップに2つしか画像が出せなかったものが5つも6つも置けるかもしれない。サーバの台数を増やすことで、今までできなかったことが、どんどんできるようになる、と考えています。さらに機能強化の効果によってサイトのアクセスが3倍、4倍になるかもしれません。それが将来のビジョンとして見えています」(田中社長)
さくらのVPSの最安メニューは月額980円。専用サーバは7800円からだ。価格は8分の1で、実際に10倍以上のペースで売れているという。そしてVPSでも512MBの最安サービスばかりが売れるわけではなく、上位プランも売れているので、収益は増えているという。
VPSやクラウドなどの安価な仮想サーバが自社サービスの専用サーバメニューから顧客を奪い、売上減少につながるというのは杞憂でしかなかった、ということだ。
専用サーバ市場も再びブルーオーシャン化!?
専用サーバのようにroot権限が利用でき、ストレージのスナップショットやOSインスタンスの立ち上げや終了が容易というクラウドサービス。利便性やコストのメリットから、もはや市場はクラウドへ移行が不可逆的に進むようにも思われる。
ところが、田中社長によれば、専用サーバには根強いニーズがあるだろうという。
「サーバを仮想化する以上、絶対にオーバヘッドがあります。だから、物理サーバのほうがコストパフォーマンスは有利なんですね。特にI/O性能はそうです。クラウドは手軽ですが、100台単位でサーバを使うお客さんが仮想サーバとかクラウドのRDBMSサービスを使うかといえば、使わないと思うんですね。自前でDBチューンもするでしょうし、パッチも当てるでしょうし、そのほうが結局は安いですからね」(田中社長)
「他社さんだと、すでに専用サーバ事業を畳み始めているということも聞いていますが、物理サーバの需要はまだまだある。こちらもブルーオーシャンじゃないかということで、専用サーバの強化についても虎視眈々と狙っているところです」(同)
クラウドサービスの開発を担当した、さくらインターネット研究所所長の鷲北賢氏も、こう述べる。
「一定の性能に対して料金をお支払いいただいているのだとしたら、同価格では仮想化しただけでスペックダウンになります。もちろんクラウドでは拡張性など機能や使い勝手は上がりますが、技術担当としては、それを言い訳にせずに性能をできる限り引き出したいと考えています。例えば、弊社ではPCI-Expressに装着する高速なSSD、Fusion-ioの「ioDrive」を購入してテストしているのですが、仮想化した環境だとかなり遅くなるんですね。これをFusion-ioの方に相談したら、“結構(速度が)出てますね”というお話だったんです。これでも良いほうだと。ですが、われわれとしてはやはり性能にこだわって、より高速なアプローチもご提供したいのです。仮想化のオーバヘッドを減らす努力は続けつつ、専用サーバが適したケースでは専用サーバを提供するということです」(鷲北氏)
PCIe接続のSSDも提供を検討中
今後の機能開発の方向性やクラウドの利用動向の見通しについて、以下のように質問を投げてみた。
- Hadoopなどの分散処理が一般化すれば、より多くのサーバが利用されるようになる?
- Amazon S3のようなストレージサービスの予定は?
- PCIe接続のSSD、「Fusion-io」を使ったサービス提供の予定は?
田中社長が強調するのは、スケールアウトのメリットが注目されがちがなクラウド時代においても、スケールアップが重要でありつづけるということで、高速なSSDを提供するのも、そうした意味で、基本サービスの中で行なっていく考えだということだ。
ずばり、さくらのクラウドの料金は?
最後に、ずばり、料金について聞いてみた。
料金は発表前ということもあり、明言はしていないが、発言のニュアンスから、11月中旬の正式サービス開始時には納得できる低価格で登場すると期待できそうだ。
競争激化が予想されるIaaSというクラウド市場で、ほかの事業者がポータル機能の強化やPaaSといった付加価値サービスへ軸足を移そうとしている今、さくらインターネットは、正面から価格競争のレッドオーシャンを1人で泳ぎきると宣言する。その背景には、これまでに培ってきた顧客ベースとブランドへの信頼、そしてインフラへの投資という強みがあるという。そして一方、クラウドの流行で競争力がなくなったかに思われた専用サーバの潜在需要を捉えたメニュー拡充を用意するなど、さくらインターネットのクラウド戦略は全方位的と言えそうだ。
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提供:さくらインターネット株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部
掲載内容有効期限:2011年12月1日