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@IT > ビジネス視点でSOAの有効性示す「成熟度モデル」とESBの適用 |
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ESB(エンタープライズ・サービス・バス)を業界で初めて実装した「Sonic ESB」でSOA市場をけん引するソニック ソフトウェア。同社は2006年2月23日、都内で「SOAマネージメント・フォーラム」を開催した。同フォーラムで目玉となったのが「SOA成熟度モデル」の発表だ。これはSOAの適用度合いを段階的な道筋で高めていくと、ビジネスにどのようなインパクトをもたらすのかを示す初めてのガイドラインである。同モデルを中心にフォーラム当日の内容を紹介する。
「IT投資最適化とSOA適用のポイント」をテーマに基調講演に立ったアイ・ティ・アールの代表取締役 内山悟志氏は、同社が例年実施している「IT投資動向調査」から読み取れる製品・サービス別の投資意欲と市場規模の相関図を示し、次のように分析した。 「アプリケーション連携が投資意欲で高いポジションを占めているにもかかわらず、実現手段であるEAIツールの市場規模は依然低い。製品が高額なこととアプリケーション基盤をガラリと変えなければならないというハードルの高さが普及を妨げてきた。逆にESB(エンタープライズ・サービス・バス)注1への注目が高まっているのは、初期投資を抑えながらアプリケーション群を段階的にSOA環境へ移行できる柔軟性があるからだろう」
内山氏によれば、年々上昇している売上高に占めるIT定常費用の抑制、日本版企業改革法で求められるIT内部統制の観点からも、アプリケーション基盤をSOAへシフトする動きは強まるという。「日本の場合、トップダウンによる企業システムの全体最適化は難しい。個別最適の要素を残しつつ段階的に全体最適を指向する“ミドルアウト”、つまりESBによるSOA構築アプローチが合っている」という。
内山氏の基調講演でSOA適用のキーワードとしてESBと「段階的」が登場したわけだが、続いて講演を行った米ソニック ソフトウェアの製品担当副社長(同社の親会社である米プログレス ソフトウェアのCTO兼務)、Gordon Van Huizen氏から本フォーラムの目玉「SOA成熟度モデル」が本邦初公開された。ソフト開発でおなじみの「CMM/CMMIフレームワーク」注2にならい、企業におけるSOA適用の度合いを5段階で示すものだ。 「開発者はSOA技術をどんどん習得しているが、社内にSOAを導入するには、まだ障壁があると感じている。そこで、SOAのプロジェクトタイプと必要技術をマッピングしてSOA適用の道のりを示すべきというフォレスター・リサーチ社のRandy Heffner氏の提言やCMM/CMMIフレームワークからヒントを得て成熟度モデルを考案した」(Huizen氏)。
同モデルは、CMM/CMMIのように開発プロセスの成熟化を狙ったものではない。SOA適用レベルを段階的に上げていくことで、どのようにビジネスメリットを高めるかに主眼が置かれている。経営層に「SOAとは何をもたらすものか」を理解してもらう際に便利なガイドラインとなるだろう。各レベルにおいて、ゴールと対応するキープラクティス(重要実施項目)を定義。開発のスコープ、必要となるテクノロジ、技術面での成功要素などもヒモ付けている。各レベルの概要は図1に示すとおりだ。
CMM/CMMIにおいてレベル5は、開発プロセスが継続的に最適化される状態を意味するが、SOA成熟度モデルではビジネスそのものが最適化され、継続的に改善していく状態という。Huizen氏が講演で説明した各レベルの概要と対応するシステムモデルを紹介しよう。 「初期サービス」のレベル1は、試験活用の段階。例えば、業務システムの一部機能にサービスインターフェイスを持たせ、部門ポータルと接続させるパイロットプロジェクト、もしくはR&D部門における実証実験などもこのレベルに含まれる。開発部門での技術習得、SOAの有効性実証、ユーザー独自のサービス定義を模索している段階である。 この段階では、SOA適用の検討課題を明らかにすることに意義がある。一方、この段階からESBをシステム統合基盤として採用し、さらに検索用のサービスレジストリ、Webサービス管理などの製品を導入していれば、技術習得や拡張性の面で後々に得られる効果は高いという。 Huizen氏は「レベル1は、単に新しいテクノロジが社内に導入されただけで、得られるビジネスメリットは少ない」と語る。日本企業の場合、多くがこの段階を目指しているか、この段階にあると思われる。ちなみに、米ソニック ソフトウェアが2006年1月に実施したオンラインセミナー参加者へのアンケート(N=372)からは、全体の68%が何らかの形でSOAに取り組んでいるが、その中でレベル1は全体の26%と最も割合が高いことが分かったという。 レベル2は「サービスの設計」となる。つまり、サービスの社内基準を定義、標準化する段階に入る。標準化の対象は、サービスのデータモデル、メッセージ形式、プロトコルなど。また、SOA基盤(ESB)も含まれる。そして標準サービスを再利用することでコスト削減というビジネスメリットを実現する。CMM/CMMIがレベル2〜3でプロセスを標準化してゆくのと似ている。Huizen氏は「レベル2では、アーキテクト的な視点が必要になる。またSOAの利用を社内で制度化してゆくには、CIOレベルの関与が重要だ」と指摘した。 この段階のSOAシステムでは、基盤となるESBの活用レベルも上がる。例えば、メッセージ形式が異なるサービス同士のデータ交換をESBに担わせ、システム全体の同期性を高める。また、シングルサインオン機能などもサービスとしてESBにつなげ、システムの“被統治性”を高めるのもこの段階という。 SOAがビジネスに明確に波及効果をもたらすのはレベル3からだ。Huizen氏は「ここからは、業務プロセスを変えたいと考えるビジネス部門がSOA適用にかかわり、技術部門との協調作業が始まる。それにより、ビジネスの応答性が高まり、変化に対応しやすくなる」と説明した。レベル3では、SOA環境により内部の業務プロセスを修正してゆく「ビジネスサービス」、外部との業務プロセス連携を可能にする「コラボレーティブサービス」という2つの要素が定義されている。 レベル3のシステムモデルとして、金融取引トレーディングシステムが例示された(図2)。金融取引のように足が長く信頼性が求められる業務プロセスを改善するうえでは、BPM(ビジネス・プロセス・マネージメント)エンジンが必要になるが、ESBを採用したSOA環境ならそれも簡単に組み込め、業務プロセスを修正できる。さらに、ebXML(電子商取引を行う際のデータフォーマット)などBtoBプロトコルを実装したコラボレーションサーバをサービスとして組み込めば、外部との業務プロセス連携も容易に実現できるという。
レベル3までのSOAの効能はこれまでもある程度語られている。SOA成熟度モデルの特徴は、この先の発展型が想定されていることだ。「ビジネスサービスの測定」と定義されるレベル4について、Huizen氏は「レベル3で確立した業務プロセスから評価指標をリアルタイムに収集・分析して意志決定を行う。ビジネスを真にリアルタイム化する転換点になる」と説明する。テクノロジとしては、ミリ秒単位で流れるイベント(RFIDタグから読み取ったデータなど)をリアルタイムで監視して、ルールに基づいて自動処理する“イベントストリーム処理(ESP)”を活用する。この分野の製品では、ソニック ソフトウェアの「Apama」が代表的である。 レベル4のシステムモデルとして製造業のSCMへの応用が示された(図3)。資材管理に使うRFIDのイベントをESPエンジンで収集、ルールに基づき特定イベントだけをBAM(ビジネス・アクティビティ・モニタリング)に渡す。管理者はリアルタイムでピンポイントの評価指標をダッシュボード上で把握できる。SOAとESPを組み合わせることで、ビジネスのリアルタイム監視が発展するという。
いよいよ最高位のレベル5「ビジネスサービスの最適化」である。この段階では、単に評価指標をリアルタイム監視するのではなく、それに応答して特定プロセスが自動的に駆動され、ビジネスを最適化する状態が常に継続されるという。Huizen氏が例証として挙げたEコマース事業者の実例は興味深かった。商品在庫をリアルタイムに検知、その結果を価格自動設定サービスに送り、在庫量に応じた最適な価格を自動計算し、販売サイトへ自動的に反映するというもの。この間、人間の手はまったく介在しない。Huizen氏は「レベル5になるとSOAは完全にビジネス基盤となっている。CEOが直接関与して、全社規模のSOAガバナンスを打ち立てることがゴールとなる」と強調している。 もちろんレベル5に達している企業は米国にもほとんどないようだ。前述したアンケート調査でも全体の2%しかなかったという。それでも、SOAの段階的投資の有効性を説く成熟度モデルにより、レベル5に達する“道筋”が提示されことの意義は大きい。しかし、レベル1から3を構成するシステム基盤として、最も重要な要素となるESB製品の経済性や機能性はベンダーごとに異なるため、導入に際しては慎重な精査が必要だ。Huizen氏は「Sonic ESBをはじめとするSOAスィート製品群により、すべてのレベルのSOA適用と段階的な移行を支援できる唯一のベンダがソニック ソフトウェア」と付け加えるのも忘れなかった。
Huizen氏の解説により、成熟度モデルのレベル4、5における重要な技術要件であり、SOAでビジネスを根本的に変えるためにイベントストリーム処理(ESP)が重要な役割を果たすことが分かってきた。これを受け、米プログレス ソフトウェアのESPビジネス開発担当ディレクター、Giles Nelson氏がEPSの効能を詳細に語り、『Apama』のアーキテクチャと活用事例を紹介した。同氏は「ESPはBAMのリアルタイム性を加速させ、あらかじめ設定したルールに基づきイベント駆動で処理を自動化する。リアルタイム性に欠けるBIとも、ダッシュボードを提供して判断と行動はその都度人間に任せる単なるBAMとも異なる」と語った(図4)。 そのうえでNelson氏は、海外でのApamaの活用実例を紹介した。例えば、金融業界のトレンドとなっている「アルゴリズム・トレーディング」では既に多くの実績がある。市場データをあらかじめ設定したルールにより解析し、証券売買の判断から注文まで、ミリ秒単位で自動化することで投資家の利益向上に貢献しているという。大手通信事業者はSLA管理にApamaを活用し、トラフィックに応じたネットワーク資源の自動配備に役立てている。またロンドン市は、公共交通機関における共通プリペイドカード導入とカード不正利用のリアルタイム検知を目的とした実証システムでApamaを採用しているという。Nelson氏の講演からは今後さらにESBとの連携を深め、SOA基盤とESPによってビジネスの根本的なリアルタイム化を推し進める意欲がうかがえた。
フォーラム全体を通じて、SOAとESBがビジネスに大きなインパクトをもたらす可能性を秘めていることが伝わってきた。これまでテクノロジ視点で語られることの多かったSOAだが、IT投資とビジネス視点でとらえ直す必要がありそうだ。SOA成熟度モデルは、SOA導入時の有用なフレームワークとして大いに役立つだろう。
提供:ソニック ソフトウェア株式会社
企画:アイティメディア 営業局 制作:@IT 編集部 掲載内容有効期限:2006年4月19日 |
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