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SPSS製品 導入事例探求 第23回 武蔵野赤十字病院編
医療分野の発展にも寄与するデータマイニング
〜C型肝炎患者の膨大な医療データから新たな知見を得る〜

 従来、データマイニングは社会科学分野の調査・研究分野で活用されてきた。しかし、近年では医療分野での活用が急速に進んでいるという。医師の経験だけでなく、実験やデータ解析を通じた客観的な根拠に基づく医療、すなわち「EBM(Evidence Based Medicine)」が重視されるようになってきたことが、その背景にある。

 今回の事例では、放置すれば最終的には「肝硬変」や「肝臓がん」へと進行してしまう「C型肝炎」の治療において、「Clementine」を用いたデータマイニングによる治療効果向上への取り組みについてご紹介する。取材にご協力いただいたのは、武蔵野赤十字病院 消化器科部長泉並木氏と同科副部長黒崎雅之氏のお二人である。

武蔵野赤十字病院 消化器科 部長 泉 並木氏(右)、 同科 副部長 黒崎 雅之氏(左)

 
沈黙の臓器“肝臓”を蝕むC型肝炎とその治療の現状
 
   

 泉氏と黒崎氏が勤務する武蔵野赤十字病院は、肝臓病の治療では全国でも3本の指に入るほどの実績をあげており、日々、さまざまな肝臓疾患を抱えた患者が訪れる病院である。

 黒崎氏は長年にわたって「C型肝炎」を基礎研究の対象とし、また臨床医としても診断・治療にあたってきた。C型肝炎は、C型肝炎ウイルスに感染することによって発症するウイルス性肝炎の一種である。このウイルスは、輸血や針治療、血液製剤(フィブリノゲン製剤など)など、血液を介して感染する。そして、いったん肝臓が感染すると「慢性肝炎」となり、10年以上の長い経過期間を経て、肝機能が低下する「肝硬変」、さらには「肝臓がん」へと進行するやっかいな病気である。

武蔵野赤十字病院 消化器科
副部長 黒崎 雅之氏

「肝臓は“沈黙の臓器”と呼ばれるように、病気を罹っていても自覚症状がほとんど現れません。腹水や黄疸(おうだん)といった目に見える症状が出た時には、病気としては最終段階にまで進んでしまっています。ですから、C型肝炎は、別の病気の治療のために行った検査でたまたま発見されたり、健診や人間ドックなどで発見されたりすることの多い病気です」(黒崎氏)

 近年、C型肝炎の治療効果(治癒率)は、「インターフェロン」という画期的な治療薬の開発によって大きく改善しているという。インターフェロンは、ウイルスの増殖を抑止する力を持つたんぱく質「サイトカイン」の一種だ。サイトカインは人の体内に元来存在しているものだが、インターフェロンはこれを人工的に生成したものであり、C型肝炎の治療には「ペグインターフェロン」という薬が処方される。

 この薬を使った標準的な治療方法は、C型肝炎ウイルスの根絶を目的に、患者に対してペグインターフェロンの皮下注射を週1回のペースで1年ほど続けることだそうだ。なお、注射薬のペグインターフェロンだけでなく、飲み薬の「リバビリン」を併用することが多いとのことだった。

「C型肝炎の治癒率は、飛躍的に向上しています。以前は10%程度にとどまっていたのですが、現在では50%以上にまで結果を出せるようになってきました。1年間治療してもウイルスが根絶できなかった場合は、ペグインターフェロンの投与期間を1年半へと延長したり、あるいは、ウイルスを根絶するのではなく、ウイルスの活動を抑止し、肝硬変や肝臓がんへの進行を遅らせることに治療目的を切り替え、長期にわたってインターフェロンによる治療を継続することもあります」(黒崎氏)

 
治癒率のさらなる向上のための課題
 
   

 治療を受ける患者全体としてはC型肝炎の治療効果(治癒率)が以前より大幅に改善したとはいえ、患者個人にとってはまずは「自分が治るのかどうか」というのが最大の関心事であることは間違いない。そのため、治療にあたる医師としては、1人でも多くのC型肝炎患者の病気を完治できるよう、さらに効果の高い治療方法を追求していく必要があり、患者に対して適用する治療方法がどの程度の効果を上げ、どの程度治癒の見込みがあるのかを患者1人1人に伝えることができるというのが望ましい。

武蔵野赤十字病院 消化器科
部長 泉 並木氏

 以前は、処方する治療薬の効果がウイルスのタイプの違いによって顕著に現れていたため、治療効果の判断要因はおもにウイルスのタイプで、それ以外の要因はあまり重視されていなかった。ところが、治療薬の効果が高まってくると、同じタイプのウイルスで治療方法が同じであるにも関わらず、治る患者と治らない患者という違いが出てきたり、治りにくいウイルスのタイプであるにも関わらず治療に成功するケースが出てきたりと、ウイルスのタイプという因子が弱くなり、それだけでは治療効果の違いを説明できなくなってきた。そこで、患者自身の特性にも焦点を当て、それらと治療方法や治療効果との関係性を明らかにする必要が出てきたのだという。

「太った人や高齢の人は治りにくいとか、男性よりも女性の方が治りにくいといった、個々の特性と治療効果との関係は従来からある程度把握できていたのです。しかし、高齢だけど男性であるという患者の場合はどの程度治りそうなのか、といった複数の要因の組み合わせによる治療効果の予測は、従来の分析方法では困難でした」(泉氏)

 つまり、今後のC型肝炎の治療においては、より多くの要因の影響度合いを考慮し、個々の患者に応じた適切な治療方法の選択が必要であり、さらなる治療効果の改善を目指さなければならないということだ。

 
新たな知見を得る喜び〜 Clementine導入から分析へ
 
   

 泉氏、黒崎氏の両氏は、患者の血液検査の結果など、病院に蓄積されている膨大な医療データから、C型肝炎の治療効果に関連のありそうなさまざまな要因の発見や、その影響度合い(重み付け)を抽出できるデータマイニング手法に着目、2004年秋に「Clementine」の導入に至ったという。

「他の病院では他社のマイニングツールを利用している先生もいらっしゃいましたが、“Clementine”を選択した理由は、なによりもアイコンが視覚的にとっつきやすく、使いやすいという点でした」(泉氏)

 黒崎氏によれば、Clementineによる分析は、過去10年間に来院した患者約1400人の医療データを対象に行っているという。患者は月1回程度のペースで血液検査を行うため、1人当たり平均5年間にわたる膨大な時系列のデータが蓄積されているそうだ。

 分析の手順としてはまず、このデータから平均値や最大値などの基本統計量を算出する。さらに、従来の統計解析手法を用いて、個々の要因と治療方法や治療効果との関係性を把握する。その後に、「決定木分析」によって、複数の要因の組み合わせで治療効果がどのように違っているのかを深く掘り下げて分析していく。

 同病院では、すでにデジタルデータとして存在していた血液検査の結果だけでなく、患者のカルテに記載されている飲酒量などの生活習慣をデータ化したり、分析対象者である患者の肝臓の脂肪沈着の程度を1つ1つ新たに調べて入力したりすることで、より多様な要因データを追加して分析を行っているそうだ。例えば、新たにデータ化された肝臓の脂肪沈着の程度や患者のコレステロールの代謝率などは、治療効果との関係性が新たに認められたという。

「分析に使った患者さんの医療データは、どこの病院でも収集しているごく一般的なものです。しかし、データマイニングを行うことによって、従来の常識からは予想もつかなかった新たな知見を得ることができています」(黒崎氏)

 現時点では、まだ治療率の予測を高い精度で行うことは難しいとのことだが、患者がもつさまざまな要因の組み合わせ(性別、年齢、身長、体重、肥満度、そのほかの医療データなど)に応じて、どのような治療を行えば治癒率がさらに改善するかということが、決定木分析を通じて分かってきたそうだ。つまり、個々の患者の詳細な特性に応じた、最適な治療方法が行える可能性が高まったのである。

 
データマイニングが秘めた社会的意義の大きさ
 
   

 どの病院にでもある一般的なデータを対象としたデータマイニングについて、泉氏、黒崎氏は、他の病院との連携を行い、さらに多くのC型肝炎患者の医療データを対象とした分析へと展開することも検討しているという。

「もちろん、治癒率の予測精度の向上や、今回の発見に基づく新たな治療方法を確立するためには、データマイニングで得られた知見を、ほかの病院などで検証していくことが今後必要になってきます」(泉氏)

 一方で、分析上のテクニカルな課題として、時系列のデータを取り込むことによる新たな可能性について語ってくれた。

「私たちの手元には、数年にわたって蓄積されている1人1人の患者さんの毎月の血液データがあるわけです。こうした時系列データの「変化」を分析に組み込むことで新たな知見が得られる可能性があります。現在は、どのようにデータを加工すれば有効な分析が行えるのか、試行錯誤している段階です」(黒崎氏)

 肝臓病の中でもとりわけ多くの患者がいるといわれている「C型肝炎」。泉氏、黒崎氏が勤務医としての仕事をこなしながらも精力的に取り組むデータマイニングによって、その治療方法がさらに大きく進展することは、社会的にも大きな意義があるといえる。


提供:エス・ピー・エス・エス株式会社
企画:アイティメディア 営業局
制作:@IT 編集部
掲載内容有効期限:2008年2月21日
 
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