因果ループ図(いんがるーぷず)情報システム用語事典

CLD / causal loop diagram / 因果連鎖図 / 因果関係ループ図

» 2009年04月07日 00時00分 公開

 システムシンキング(注1)の思考ツールの一つで、システムを構成する要素(変数)相互の因果関係をフィードバックループの組み合わせによって表現した図をいう。

 システムシンキングでは、因果ループ(因果の連鎖でつながったフィードバックループ)を基本単位としてシステムを考察する。これを具体的に描画するのが因果ループ図である。因果ループ図は、ある変数の値の増減が別の変数の値の増減に影響を与えていることを矢線で示し、その連なりでシステムを構成する要素同士の因果関係の循環を記述していく。矢線自体はその両端に位置する2変数だけに着目して、その因果関係を表わすものだが、この簡単なルールを組み合わせることで、複雑なシステムの振る舞いを表現する。

因果ループ図のイメージ

因果ループ図のイメージ

 因果ループ図は、1つ以上の因果ループで構成される。各ループは「要素(変数)」「要素間の因果関係」「遅延」を持つ。要素は文字(名詞)で表し、因果関係は要素(原因)から要素(結果)に向けて矢線(リンク)で結んで、表現する。因果の影響が遅れて発生する場合は、遅延のシンボルとして2本の短い平行線(コンデンサのシンボル)をリンク線を横切るように置く。

 リンクで結ばれた2つの要素(変数)の値が増減が同一の方向にあるとき??すなわち、原因が増えるときは結果も増え、原因が減るときは結果も減るという場合は、リンクの近傍に「S」ないし「+」「同」という符号を付加する。Sは同方向(same)を示す。逆に、リンク両端の変数値の増減が反対の方向に動くとき??つまり原因が増えるときは結果は減り、原因が減るときは結果も増えるという場合は「O(オー)」ないし「?」「逆」と書く。Oは逆方向(opposite)を表わす。このSO(+?/同逆)符号はリンクが結ぶ2変数間の関係を示すもので、以下のループ極性符号とは区別される。

 ループ内に「?」「O」のリンクが偶数個(ゼロ個を含む)あるとき、その因果ループはループに参加する変数の値が累積的に増大していくか、逆に減少していくというパターンを示す。すなわち、このループは「増加が増加を」「減少が減少を」を導く循環構造になっており、変数値の増減が増幅し、時間の経過とともに成長あるいは衰退する。こうしたフィードバックループを「拡張ループ」と呼び、ループの中央に「R」という符号(ループの極性ラベル)を置く。「R」とは拡張(reinforce)を示す。論者によっては「R」の代わりに「+」や「自己強化」を用いる。ラーニング・オーガニゼーションのピーター・M・センゲ(Peter M. Senge)らの文献では、雪だるま(スノーボール)が転がる絵を描く方法を指導している。

 ループ内に「?」「O」のリンクが奇数個のとき、その因果ループはループに参加する変数の値が一定の幅に収まり、変動が収束するといった挙動を示す。すなわち、このループは「増加が減少を」「減少が増加を」を呼ぶことで全体を制御する循環構造になっており、変数値の増減が均衡し、時間の経過とともに安定する。こうしたフィードバックループを「均衡ループ」と呼び、ループの中央に「B」という符号を置く。「B」はバランス(balance)を示す。論者によっては「B」の代わりに「?」「バランス」を用いる。ラーニング・オーガニゼーションでは天秤の絵を描くように推奨している。

 システムダイナミックスでは因果ループ図を、対象をモデル化する初期段階でシステム内の重要変数とその因果関係を識別し、フィードバックループを予備的にスケッチするためのツールと位置付けている。ただし、システムダイナミックスモデルの構築には、定性的な因果ループ図を使わずにストック&フローを用いる方が有効だとする見解もある。

 ラーニング・オーガニゼーションでは、具体的な事象の背後に隠れたシステム構造を目に見える形にし、問題に対する理解を深めるとともに、職場メンバーとメンタルモデルを共有するためのコミュニケーション手段とされる。問題解決技法としてのシステムシンキングでは問題構造を深く洞察し、絡み合った因果関係の中で効果的な作用点=レバレッジポイントを発見するための重要なツールと見なされている。

参考文献

▼『システム・シンキング??問題解決と意思決定を図解で行う論理的思考技術』 バージニア・アンダーソン、ローレン・ジョンソン=著/伊藤武志=訳/日本能率協会マネジメントセンター/2001年10月(『Systems Thinking Basics From Concepts to Causal Loops』の邦訳)

▼『システム・シンキング トレーニングブック??持続的成長を可能にする組織変革のための8つの問題解決思考法』 ダニエル・H・キム、バージニア・アンダーソン=著/ニューチャーネットワークス、宮川雅明、川瀬誠、伊藤武志、辻倉直子、坂本裕司=訳/日本能率協会マネジメントセンター/2002年8月(『Systems Archetype Basics Workbook』の訳)

▼『システム・シンキング入門』 西村行功=著/日本経済新聞社(日経文庫)/2004年10月

▼『なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか???小さな力で大きく動かす!システム思考の上手な使い方』 枝廣淳子、小田理一郎=著/東洋経済新報社/2007年3月

▼『問題発見力養成講座??レバレッジ・ポイントを見つけ出せ! “木を見て森も見る”システム・シンキング』 高橋浩一=著/日本実業出版社/2009年3月

▼『最強組織の法則??新時代のチームワークとは何か』 ピーター・M・センゲ=著/守部信之、飯岡美紀、石岡公夫、内田恭子、河江裕子、関根一彦、草野哲也、山岡万里子=訳/徳間書店/1995年6月(『The Fifth Discipline: The Art & Practice of the Learning Organization』の邦訳)


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