ECR(いーしーあーる)情報マネジメント用語辞典

efficient consumer response / イーシーアール / エフィシェント・コンシューマー・レスポンス / 効率的消費者対応

» 2009年04月20日 00時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

 米国の食品・雑貨業界に始まる業界改革の取り組みで、製造・卸売・小売が連携して効率的な流通機構を構築し、消費者に対してニーズに合った品ぞろえと迅速な商品補充、および流通コスト削減を通じた適正価格での商品提供が行える体制確立を目指す業界横断型の経営戦略をいう。

 ECRはグローサリー業界(加工食品・生活雑貨・日用品の業界)の製造・卸売・小売業者が製販同盟を構成してサプライチェーン全体の効率性を高めることで、最終消費者によりよい価値を提供し、業界全体の競争力を高めることを目的にする構造改革活動である。業界内が川上と川下で競争的だと、製造業者と小売業者が商品の納入/仕入れの支配力を競い合い、棚や売り場、売れ筋商品を奪い合い、在庫やコストを押し付け合ってサプライチェーン全体が非効率となり、異なる流通機構を構成する別の事業者に顧客を奪われることになる。

 そこでサプライチェーンに参加する事業者が同盟してPOSデータを共有したり、標準EDIを導入したりすることで業界全体のマーチャンダイジングとロジスティクスのロスを抑え、同時に支払いやリベートといった取引慣行に関する制度改革に取り組むのがERCである。その主たる目標は、消費者のニーズに的確に応える商品提供の仕組みを作ることで、顧客起点の視点がポイントなる。

 ECRの定義は、米国FMI(食品マーケティング協会)は「製造・卸売・小売が緊密に協力し、EDIなどを活用することによって、新しい取引関係と新しい商品供給システムを構築し、消費者により高い価値を提供すること」とし、米ECR合同委員会では、「食品小売、卸売、ブローカー、サプライヤーが、消費者により高い価値をもたらすためにより密接に協カして活動する加工食品産業の戦略」としている。

 ECR概念を生み出したカートサーモン・アソシエイツ(KSA)の方法では「カテゴリマネジメント」を重視する。カテゴリとは個別商品の上位概念で「清涼飲料」「乳飲料」「果実飲料」「アルコール飲料」のような商品分類で、これを効果的に管理するため、KSAは「効率的な品ぞろえ」「効率的な商品補充」「効率的な販売促進」「効率的な新商品導入」の4項目を挙げている。また、ECRを世界的に推進するために1999年に設立されたGCI(Global Commerce Initiative)では「需要動向管理」「供給管理」「実現可能技術(商品コードやEDIなど)」「統合手段・方法」をECRの4項目に挙げている。

 ECRは、もともと米国では別業界だったゼネラルマーチャンダイズ(衣料品・住居関連商品流通)とグロサリー(加工食品・雑貨流通)をともに扱う新興小売業であるスーパーセンター(ウォールマートが代表格)が1990年代に入って台頭したことに既存の小売業界が危機感を抱いたことに始まる。米国の衣料品・食品・雑貨業界は、1970年代にニクソン政権がインフレ抑制策として実施した価格統制である「新経済政策」の終了後、メーカーが一斉に価格を引き上げ、流通には販売促進費・リベートを使って商品を押し込み、小売業者は仕入れるだけで儲かる構造になっていた。この間隙を突いたのが1980年代に登場したスーパーセンターで、低価格を武器に消費者の支持を得て急成長することになる。

 米国北東部のスーパーマーケットチェーン ショーズスーパーマーケッツの社長兼CEOだったデビッド・ジェンキンス(David B. Jenkins)はFMI(食品マーケティング協会)の副会長に就任すると、1992年のGMA(全米食品雑貨工業会)との会合で製販が連携して効率を高めていくことの重要性を説き、FMIとGMAを含む5つの業界団体をスポンサーに業界共同タスクフォースを立ち上げ、ECRワーキンググループをスタートした。ワーキングループはアパレル業界におけるQRの実績から、コンサルティングファームのKSAに新戦略の立案を委託。KSAは1993年1月に報告書「Efficient consumer response: enhancing consumer value in the grocery industry」を提出した。これがECRの出発点とされる。

 この報告書では「ECRはグローサリー業界の戦略であり、製造業者と流通業者が緊密に協力することで消費者によりよい価値をもたらすことを目的とする。個々が各分野で別々に効率化を行うのではなく、協力してグローサリー流通システム全体の効率化にフォーカスすることで、そのコスト・在庫・資産投資を低減し、かつ消費者が高品質で新鮮な商品を容易に選択できるようにする。ECRの究極の目的は、消費者起点の、消費者ニーズに敏感なシステムの構築である。そこでは消費者の満足度を最大限にし、かつコストを最小限にするために、製造業者と流通業者が同盟して協働する」と説明している。

 その後、ECRの概念と手法は世界に広がり、各国・各地域にECRアメリカやECRヨーロッパなどのECR推進機関が設立され、活動を行っている。また、ECRに触発され、外食・宅配業界ではEFR(efficient foodservice response)、医療業界ではEHCR(efficient healthcare consumer response)などの概念が登場している。

参考文献

▼『ECRサプライチェイン革命』 村越稔弘=著/税務経理協会/1995年3月

▼『P&Gに見るECR革命――経営改革への決断』 山崎康司=著/ダイヤモンド社/1998年9月

▼『日本型ECR・QRの具体策と成功事例――流通業・製造業の21世紀生き残り経営システム』 小林勇治=著/経営情報出版社/1998年3月


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ