固定費(こていひ)情報マネジメント用語辞典

fixed cost

» 2009年05月12日 00時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

 売上高や生産数量の増減、操業度の高低にかかわらず、特定の一期間内に一定金額が固定的に発生する原価のこと。直接原価計算や損益分岐点分析で用いられる原価区分の1つで、対語は変動費である。

 企業が事業活動を行うとき、製造や販売といった付加価値活動をしていなくても毎月あるいは毎年、決まって支払いが発生するものがある。例えば、オフィス賃料や固定給従業員の人件費、設備装置の減価償却費などは、営業成績によらず支払わなければならない。このような売上に関係なく発生する費用を固定費という。

 厳密な定義では操業度の変動に関係なく発生総額の一定した原価をいい、生産設備や投下労働量が一定であることが前提となる。従って、生産能力に余力がある場合などの短期的な利益管理や新規受注の可否判断は、固定費を考慮しない限界利益によって行うのが正しい。

 固定費と変動費の区分には統一的な基準はなく、目的や方針によって変わってくる。分類法としては最小二乗法などで計算する方法もあるが、勘定科目ごとに固定費か否かを個別に決めていくやり方が最も一般的である。1つの費目に固定費と変動費の両方が含まれていることもあるが、目的に応じて厳密に分解するか、簡便にどちらかに振り分ける。

 一般に固定費と認識されているのは、労務費(人件費)、製造経費、固定資産費の減価償却、固定資産税、賃借料・リース料、保険料、間接部門の給与などである。しかし、生産装置の減価償却費を計算する際に加工時間を基準とするならば変動費だが、定額法や定率法などのように時間基準で行うと固定費というように、会計方針によって変わってくるものもある。

 固定費は定額で発生するといっても、長期的には、給与であれ、家賃であれ、いずれは改訂される。すなわち、固定費はあくまでも特定の期間、一定水準の原価が発生することを意味するものであり、(操業度依存ではなく)期間依存の原価だといえる。このため「期間原価」「時間原価」ともいう。

 このように固定費は、変更可能ではあるが簡単には変更できないものをいうが、発生由来の面から2つに分けられ、それぞれ性質が異なる。1つは過去の意思決定に基づいて発生する既決費(コミッテッドコスト)といい、原価償却費・固定資産税・賃借料・家賃・地代などをいう。もう1つは経営者の方針や予算割り当てなどに由来する管理可能費(プログラムドコスト、マネジドコスト)で、(正社員などの)人件費・広告宣伝費・事務管理費・一部の福利厚生費・研究開発費などが該当する。

 固定費は操業度や売上高に関係なく発生額は一定であるので、製品単位当たりの固定費負担額は操業度や売上高の増減に反比例するという性質を持つ。すなわち、操業度や売上高が上昇すればするほど単位当たりの固定費は減少し、企業利益は増加する。

 逆に事業(コア事業)が固定費を賄えない状態であれば、固定費は時間経過に伴って容赦なく発生するため、企業は資本を食いつぶしてやがて破たんする。このため、企業全体で固定費を賄えない経営状態に陥ったときには、トップレベルの経営判断として赤字部門の閉鎖や人減らしなどのリストラを行う必要がある。

参考文献

▼『管理会計の基礎』 溝口一雄=編著/中央経済社/1993年3月

▼『原価計算〈6訂版〉』 岡本清=著/国元書房/2000年4月

▼『管理会計発達史論〈改訂増補〉』 辻厚生=著/有斐閣/1988年9月


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