ネットワーク外部性(ねっとわーくがいぶせい)情報システム用語事典

network externally / ネットワーク外部効果

» 2005年05月16日 00時00分 公開

 ネットワークの特性を持つ製品・サービスにおいて、利用者数や利用の頻度などがその製品・サービスの利用によって得られる効用や利用価値に影響を与えるという性質のこと。価値の源泉が製品・サービスそのものではなく、需要側――しかも特定の需要者の個別のニーズではなく、需要者全体に依存する構造になっていることを示す言葉。

 外部性(外部効果)とは経済学の用語で、ある経済主体(人や企業など)の意思決定や行動が、取引の当事者ではない第三者の経済主体に対して影響を与えることをいう。

 ネットワーク外部性には、直接的効果(直接的ネットワーク外部性)と間接的効果(間接的ネットワーク外部性)がある。直接的効果とは、電話や電子メールなどのようにネットワークの規模(ユーザー数や端末数など)がそのまま需要者(加入者)にとっての利用価値を左右する効果をいう。

 電話サービスを例にとると、加入者が1人しかいない電話網は無価値だが、ここに新たに1人が加入すると相互に通話できるという利用価値が発生する。さらにもう1人が加入すれば、最初の1人にとっては2人の相手に通話できる状態となり、利用価値が増加したといえる。このようにネットワークの性質を持つシステムでは、加入者が多ければ多いほど利用価値は増加し、最終的には「加入しないと不便だ」「加入しないわけにはいかない」という強制力が働くまでになることもある(ただし、利用者が多過ぎる場合、価値が下がるものがあることも指摘されている)。ここでは電話そのものの性能には関係なく加入者の数によって価値が変化しており、こうした外部性のことを「ネットワーク外部性」という。

 ネットワーク外部性が存在する製品・サービスは、利用者が増えれば増えるほど価値が高まり、そのためさらに利用者が増えるという“正のフィードバック”が発生することが知られている。「ネットワーク外部性」という言葉で、この正のフィードバック効果のことを指す場合も多い。

 直接的効果は、電話(固定電話、携帯電話、PHS)やFAX、電子メール、電子掲示板、チャット、インスタントメッセージなど、相互接続機器やコミュニケーション・サービスに典型的に見られる。また、言語において「英語の使用価値が高い」、通貨において「ドルの使用価値が高い」というのも同種の現象である

 一方、間接的効果とは、コンピュータのハードウェアとソフトウェアのように、ネットワークの規模(ハードウェアの普及度など)に応じてその製品の使用価値に直接関係する補完財(ソフトウェア)の提供される量や質が決定され、そうした補完財の存在が需要者(消費者)にとっての製品(ハードウェア)の価値を左右するといった効果をいう。例えばPC向けソフトウェアで説明すると、MacintoshよりもWindowsの方が量的に普及しており、より多くの販売が見込めることから、ソフトウェアベンダはWindows向け製品を優先して販売し、そのため多種類のソフトウェアが提供されている。ユーザーはWindows PCであれば、より多くの選択肢の中からソフトウェアを選ぶことができるという便益があるため(それしか選択肢がないという場合もある)、プラットフォームとしてWindowsを選択することになる、といったものである。

 間接的効果が見られる製品・サービスはコンピュータのほか、ビデオやCD/DVD(プレイヤー/レコーダとコンテンツ)、家庭用ゲーム機(機器とソフトウェア)、放送(受信機と番組)、クレジットカード/電子マネー(決済手段と利用場面)などが該当する。直接的効果同様、製品が普及すればするほど、補完財が多く提供され、さらに普及が促進されるといった“正のフィードバック”が見られる。

 ネットワーク外部性が働く製品・サービスには、「クリティカルマス」と呼ばれる一定の普及率があるとされる。これは、その市場において多くの人が受け入れることができる利用価値が達成される普及の度合いといえるが、この普及率を超えるとその製品・サービスは急速に広まる。

 そのためネットワーク外部性が働く産業では、その製品・サービスの機能や品質の優劣よりも、いかに早くクリティカルマスを超えるユーザーを獲得し、“正のフィードバック”の状態を構築するかが普及の決め手となる。クリティカルマスを確保するためには、初期採用者(イノベーター、アーリーアダプター)を確実に獲得する、初期段階では利益を度外視してでも戦略的な価格設定を行う(携帯電話の販売などで見られた)などの策がある。 ネットワーク外部性の考え方は、1980年代にはVHS/ベータの事例から技術標準普及の仕組みを説明する際に取り上げられ、1990年代にはニューエコノミーやIT革命が「ひとり勝ち」をもたらす背景理論として盛んに語られた。しかし、外部性の概念自体はアルフレッド・マーシャル(Alfred Marshall)、アーサー・C・ピグー(Arthur Cecil Pigou)の昔から議論されており、経済学者のハーヴェイ・ライベンシュタイン(Harvey Leibenstein)が1950年に示した「バンドワゴン効果(bandwagon effect)」は、実質的にネットワーク外部性と同じものだといえる。

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