PHR(ぴーえいちあーる)情報システム用語事典

personal health record / 個人健康記録 / 個人医療記録

» 2011年07月27日 00時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

 個人が自らの健康に関する情報を、自己管理の下に集約・累積した記録のこと。または、このような情報集約化を実現するツールやシステムをいう。

 個人の健康に関する情報は医療機関・健診機関・スポーツジム・家庭などに散在しているが、これらの医療・保健・健康情報を集約して各機関・事業者で共通利用できれば、日常の生活改善から健康増進、医療機関での診療までが整合的に行われると期待できる。これらの健康情報の収集と管理を自己責任の下、個人が主体となって行うのがPHRである。

 PHRは、医療機関・薬局・健康関連事業者・健康情報測定機器などが作り出す各種データを吸い上げ、保存・管理する機能を持つITプラットフォーム上に構築される。保存する情報は身長や体重、血液型、バイタル情報(脈拍、呼吸、血圧、体温など)、アレルギー、副作用、既往歴・症状、通院・検査・診療、処方・投薬、主治医のコメント、ケアプラン、食事情報、運動情報、検診、保険関連情報などが考えられる。

 これらの情報が利用可能になると救急時の迅速な対応が期待できるともに、診療時の検査の重複、処方薬の二重投与・過剰投与を避けられる。また、情報共有が行われることによって、異なる診療科の医師や検査技師、薬剤師、理学療法士、トレーナー、管理栄養士など、医療・健康関係者の円滑な連携も期待できる。

 PHRの目的の1つは、健康状態の可視化である。自分の健康情報が手軽に見られるようになると健康への意識が高まり、医療機関や健康サービスとの日常的つながりは慢性疾病や生活習慣病の自己予防・ケアを支援すると考えられる。家族の健康状態を知りたい場合やセカンドオピニオンを受診する場合にも、PHRは有効だろう。

 PHRの概念は「自分の健康情報は自分で管理する」というもので特殊なものではない。もともとアジアで見られるやり方に欧米で名前を付けたもので、米国国立医学図書館の医学・生物文献データベース「PubMed」では、1978年から分類子“MeSH用語”に「PHR」が採用されていることが知られている。

 広義のPHRは形態として「紙」「PCアプリケーション」「モバイルアプリケーション」「電子カード」「サーバアプリケーション」「インターネットサイト」「SaaSアプリケーション」などがある。紙のものとしては、日本の「母子健康手帳」が有名だ。

 米国ではインターネットが一般へと普及し始めたころから、オンラインの電子PHRが提供されていた。しかし、そのころのものはキーボード入力した内容をプリントアウトして医師に提出するという程度のものだった。その後、医療機関でEMRの一部を拡張・解放して作られたPHR、保険者(民間保険会社、復員軍人援護局など)や民間会社(雇用者)を運営者・出資者とするPHRが登場、近年ではIT業界から「Microsoft HealthVault」「Google Health」が参入し、話題となっている。

 日本では、2008年度から経済産業省、厚生労働省、総務省がPHR構築の実証実験に取り組んでいる。また、政府の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)は、2010年に「新たな情報通信技術戦略」における医療分野の計画の1つとして「どこでもMY病院」構想を公表している。

参考文献

▼『パーソナルヘルスレコード――21世紀の医療に欠けている重要なこと』 ホリー・ダラ・ミラー、ウイリアム・A・ヤスノフ、ハワード・A・バード=著/石榑康雄=訳/篠原出版新社/2009年11月(『Personal Health Records: The Essential Missing Element in 21st Century Healthcare』の邦訳)


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