トリアージ(とりあーじ)情報システム用語事典

triage / 選別 / 緊急度判断

» 2006年12月12日 00時00分 公開

 時間的・資源的制約があって任務や課題のすべてを実施・完了できないとき、一定の基準に従って着手の優先/非優先を判断すること。通常、災害医療などで使われる言葉で、傷病者(患者)を重症度と緊急性によって選び分ける作業をいう。

 大規模災害現場や戦場などでは一度に多数の傷病者が発生し、医療機能が絶対的に不足する。こうした制約下で最大数の傷病者を救命するためには、命に別状のない軽症者や治療を行っても救命の可能性が低い重症者よりも、助かる見込みがあり、かつ緊急の対応を要する者の治療・処置を優先しなければならない。そこで生存可能性を医学的見地から基準化して、これに基づいて傷病者を選別・分類することをトリアージという。

 triageはフランス語で、もともとはコーヒー豆やブドウ、羊毛などを基準に従って選別することをいい、ナポレオン戦争時代に「傷病兵の選別」の意味に使われるようになった。ナポレオン時代は戦力の減少を避けるため、軽症者の治療を優先したが、今日の災害医療では“最大多数の最大幸福”を基本理念とする原理に支えられている。火事・事故現場における救出活動や搬送、病院での治療(一般外来含む)においてもすべて順番が必要だが、これらも広義にはトリアージといえる。

 転じて、ソフトウェア開発においても「肥大化した要求仕様の絞り込み」や「発見した不具合のうち、どれを即時対応するか」といった意志決定について、「トリアージ」という言葉を使うことがある。

 システム開発では、プロジェクト開始後に要求仕様が膨らんだり、プログラムに予想外の不具合が見つかったりすることがよくある。これらはプロジェクト作業量の増加を意味するが、単純な人月計算に基づいて人的資源(開発者)を追加投入するとプロジェクト全体が混乱し、デスマーチを招くことにつながる。

 そこでプロジェクトマネージャは限られた人的資源で納期を順守するために、作業に優先/非優先の順位をつけなければならない。これがシステム開発におけるトリアージである。基本的にはシステム機能のうち、必要性が高くかつ納期内に作業を終了できる見込みのあるものを選ぶことになる。

参考文献

▼『デスマーチ——なぜソフトウエア・プロジェクトは混乱するのか』 エドワード・ヨードン=著/松原友夫、山浦恒央=訳/トッパン/1998年1月(『Death March』の邦訳)

▼『デスマーチ——なぜソフトウエア・プロジェクトは混乱するのか〈第2版〉』 エドワード・ヨードン=著/松原友夫、山浦恒央=訳/日経BP社/2006年5月(『Death March』の邦訳)


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