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» 2002年03月06日 10時00分 UPDATE

安藤幸央のランダウン(7):次世代を予感させるグリッドコンピューティング

「Java FAQ(What's New)」の安藤幸央氏が、CoolなプログラミングのためのノウハウやTIPS、筆者の経験などを「Rundown」(駆け足の要点説明)でお届けします。(編集局)

[安藤幸央(andoh@dst.nk-exa.co.jp),@IT]

グリッドコンピューティングとは

 今年2月、グリッドコンピューティングに関する数多くの発表があった。2月19〜20日(カナダ時間)、トロントで、GGF4(The Fourth Global Grid Forum Workshop)が開催されたからだ。

 ところで、グリッドコンピューティングとは何だろうか? それは、ネットワークを介して複数のコンピュータを結び付け、これを仮想的な高性能コンピュータとして使うことだ。1台1台のコンピュータの性能や記憶容量は限界のある小さなものだ。しかし、それらの複数のコンピュータを活用し並列分散処理を行うことで、あたかも巨大なコンピュータを使うかのごとく高速大容量の処理を実現できる。

 この手法は、現在学術計算などでさまざまな可能性が模索されている。特定分野の分散コンピューティングプロジェクトとして暗号解読の「distributed.net」、地球外知性の探索「SETI@home」、インテルとともに主に医療研究分野に力を入れている「United Devices」がよく知られている。

 コンピュータの計算パワーは日進月歩で進歩しているが、まだまだ巨大な計算力を必要とする分野は数多い。

 グリッドコンピューティングは従来、学術機関を中心として研究が進められていた。最近ではグリッドコンピューティングの商業利用や、標準化が徐々に進み始めている。

SETI@homeの成功と課題

 SETI@homeは電波望遠鏡からのデータの解析を多くの人々のコンピュータで分割して計算しようというプロジェクトである。データの中から人工的なものを捉え、地球外生命体存在の可能性を探ろうというものだ。

 プエルトリコのアレシーボにある巨大な電波望遠鏡でとらえた情報を細かく切り分け、専用のクライアントで信号解析の計算を行う。カリフォルニア州立大学バークレー校に設置されたサーバを中心に数多くの研究者が協力しプロジェクトを推し進めている。

 現在、世界各国から350万人を超える参加者を集めている。もしこれと同等の解析計算を1台のスーパーコンピュータで行っていたなら、比較できないほどの費用がかかっていたことだろう。

 SETI@homeは世界中をつなぎ合わせた「世界最大のスーパーコンピュータ」であるともいえる。ただ、SETI@homeは正確にとらえるとグリッドコンピューティングの範囲からは少し外れるものとなる。SETI@homeの主なクライアントプログラムはスクリーンセーバとして動作する。常にネットワークグリッドの1つとして動作するようなリアルタイム性があるわけではなく、常にオンライン状態であるわけではないことからだ。

 SETI@homeは限りある予算と、多くの人々の善意や、寄付によって成り立っている。現在、SETI@homeが抱える課題は、クライアント/サーバ間のネットワーク帯域の確保や、大量のストレージの確保、保守などであろう。日々大量に押し寄せるデータをさばくのは並大抵の苦労ではないはずだ。

 最初は無謀かと思われたSETI@homeの順調な推移を見て、同じアプローチを取ったグリッドコンピューティングの研究や商業化にスポットライトが当たるようになった。最近のパソコンの高性能化、ネットワークの広帯域化も追い風となり、「グリッドコンピューティング」をキーワードとしたさまざまなサービスが台頭してきた。

SETI@homeクライアントソフトウェアの画面。解析計算の様子がグラフ表示されている SETI@homeクライアントソフトウェアの画面。解析計算の様子がグラフ表示されている

商業化の試み

 United Devicesは、同社が提供するUD Agentで注目を集めた。これは、ガンと関係のあるタンパク質の分子モデルから薬として有効なものを検証、見つけようというものだ。United Devicesは、UD Agentで得られたノウハウをPower Calculatorという商用サービスとして展開している。コンピュータによる各種解析を必要とする研究所や、製薬会社、遺伝子研究、流体解析、気象予想など大量のコンピューティングパワーを必要とする分野は数多い。それらの企業や研究機関すべてが無尽蔵の予算や、無限に使える最新のスーパーコンピュータを持っているわけではないからだ。Power Calculatorは企業内、研究所内の数多くのコンピュータを統合してグリッドコンピューティングを可能とするソリューションを提供するものだ。もちろんUnited Devicesにコンピューティングパワーを提供する外部の企業や個人のコンピュータリソースを活用するという手もある。

United Devices
Intel-United Devices Cancer Research Project

United Devices - Power Calculator


 Sun Microsystemsは、2000年7月に企業のコンピューティングリソース管理ソフトウェアを開発していたGridWareを買収した。その後、GridWareはSolaris、Linux上で動作するグリッドエンジンソフトウェアとして、「GridWare 5.3Beta」をリリースしている。GridWareはSun ONEやSun MicrosystemsとNetscape陣営であるiPlanetと、より統合され、シームレスな形で広がってくると思われる。

 IBMはグリッドコンピューティング研究組織「Globus Project」に協力している。そのGlobus Projectの成果がGlobus Toolkitである。最新のGlobus Toolkitではグリッドコンピューティングの運用に必要な技術が統合されている。Globus Toolkitとはアプリケーションのバージョンアップ、トラブルの際の復旧、グリッドリソースのアクセスポイントの変更、ストレージの管理などである。OGSA(Open Grid Service Architecture)をベースとし、よりJ2EEなどやWebサービスとの融合を図っていこうとの意思が感じられる。

 グリッドコンピューティングの特徴である動的なコンピュータ資源の活用には、単に数台のコンピュータを扱うこととは違ったノウハウを必要とする。研究段階であったグリッドコンピューティング技術が商業化されることによって、より安定化した使いやすい形となってくる。そしてまたさまざまなノウハウが研究開発にフィードバックされるという相乗効果が期待される。

標準化に向けた取り組み

 数々のグリッドコンピューティング技術が広がっていく中で、仕様やベースとなるソフトウェア自体がオープンであることは大切だ。また、ある程度標準化され、各技術が相互接続可能であることもグリッドコンピューティングがより広がっていくための基礎ともなり得る。数々の組織、団体がグリッドコンピューティングの標準化に力を入れ、けん引している。

New Productivity Initiative
グリッドコンピューティングに関する独立系の業界標準化組織

Global Grid Forum
研究者のコミュニティより形成されるグリッドコンピューティング技術に関するフォーラム

The Globus Project
グリッドコンピューティング基盤技術の開発を行っている

Grid Computing Info Centre
グリッドコンピューティング技術開発を支援

GriPhyN : Grid Physics Network
米国のグリッドプロジェクト


 そのほか、グリッドコンピューティングにスポットライトが当たるはるか以前から産学ともども研究開発を行ってきたところは多い。

新しいコンピューティングの形

 地球上のほとんどのコンピュータは24時間フル稼働しているわけではない。企業内、研究所内や学内のコンピュータも24時間フル稼働しているわけではない。空いている時間のコンピューティングパワーをシェアすることによって、より効率的にコンピュータリソースを活用することができる。

 グリッドコンピューティングが活用できる分野はさまざまに広がってくるであろう。グリッドコンピューティング的にコンピュータリソースを活用する3次元コンピュータグラフィックスプログラムも登場してきた。

Tachyon

raja


 インターネットサービスプロバイダ、Webホスティング、アプリケーションサービスプロバイダ、インターネットサービスはさまざまな形で進化してきた。

 いままでもグリッドコンピューティングは暗号解析プロジェクトなどで広まっていた。SETI@home が広まったことによって明確な目的がイメージしやすいことと、自分の目の前のコンピュータが世界を包括したスーパーコンピュータの末端にある1つのノードなんだという感覚が魅力なのであろう。グリッドの1つのノードとしてどこかのだれかの役に立っている感覚が心地よいのかもしれない。

 少し先の未来では、コンピュータパワーを効率的に貸したり借りたりすることもなんら不思議ではなくなっているはずだ。

次回は4月5日の公開予定です。


プロフィール

安藤幸央(あんどう ゆきお)

安藤幸央

1970年北海道生まれ。現在、株式会社エヌ・ケー・エクサ マルチメディアソリューションセンター所属。フォトリアリスティック3次元コンピュータグラフィックス、リアルタイムグラフィックスやネットワークを利用した各種開発業務に携わる。コンピュータ自動彩色システムや3次元イメージ検索システム大規模データ可視化システム、リアルタイムCG投影システム、建築業界、エンターテインメント向け3次元 CG ソフトの開発、インターネットベースのコンピュータグラフィックスシステムなどを手掛ける。また、Java、Web3D、OpenGL、3DCG の情報源となるWebページをまとめている。

ホームページ:
http://www.gimlay.org/~andoh/java/

所属団体:
OpenGL_Japan (Member)、SIGGRAPH TOKYO (Vice Chairman)

主な著書

「VRML 60分ガイド」(監訳、ソフトバンク)
「これがJava だ! インターネットの新たな主役」(共著、日本経済新聞社)
「The Java3D API仕様」(監修、アスキー)


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