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» 2002年07月16日 10時00分 UPDATE

安藤幸央のランダウン(11):PtoPはいよいよビジネスのステージに

「Java FAQ(What's New)」の安藤幸央氏が、CoolなプログラミングのためのノウハウやTIPS、筆者の経験などを「Rundown」(駆け足の要点説明)でお届けします。(編集局)

[安藤幸央(yukio-andoh@exa-corp.co.jp),@IT]

ビジネス展開するPtoP技術

 PtoP(Peer-to-Peer)は従来のクライアント/サーバ型のコンピューティングではない。PtoPは、サーバを介さずに直接クライアント同士でデータをやりとりすることができる仕組みのことである。

 クライアントコンピュータは、マシンパワーが貧弱だったり、記憶容量が少なかったりした。クライアント/サーバ型のコンピューティングはそんな時代でこそ最適なテクノロジであった。

 現在のコンピュータ環境は、上記の制限を大きく乗り越えてきた。高速なネットワーク、巨大な記憶容量、高速なコンピューティングパワーを備え、個々のコンピュータ1台がサーバの役割もクライアントの役割も行う。また、ネットワークを介してダイレクトに接続しお互いのコンピュータ資源を活用できる。つまり、PtoPコンピューティングを活用する舞台の準備が整ったのだ。

 PtoPというと、MP3音楽ファイルの交換で注目を浴びたNapsterを思い浮かべる人も多いだろう。Napsterの栄枯盛衰を見てPtoPをネガティブにとらえる人もいるかもしれない。けれどもNapsterはあくまでPtoP的コンピューティングの一例でしかない。

 現在注目を浴び始めているのは、エンタープライズレベルでのPtoPだ。PtoP認証、リモート権限の付与・管理、アクセス制御、セキュアな転送など、数々の技術の支えを得て、PtoPコンピューティングは新たなステージへの一歩を踏み出そうとしている。ここでは、いま現在のブロードバンド時代にこそ広がっていくであろうPtoPテクノロジをいくつか紹介していこう。

オフィス内でのPtoPの活用

●Groove Networks(http://www.groove.net/

 オフィス環境でのPtoPテクノロジとして一番の注目株はGrooveだ。GrooveはGroove Networksによるオフィスウェア共有システムである。Groove NetworksはグループウェアのLotus Notesの生みの親Ray Ozzie氏が立ち上げた企業だ。

Groove File Viewerの操作画面。Grooveは、日本ではシステム・コンサルタンツが提供している Groove File Viewerの操作画面。Grooveは、日本ではシステム・コンサルタンツが提供している

 オフィス環境での一般業務として、Excelで作成した表を基に会議を行ったり、Wordで作成した企画書などを何度も書き直すという作業がある。Grooveを用いると、これらのオフィス文書を信頼された個人間で共有して扱うことができる。また、メッセンジャーや音声チャット、テレビ会議システムと組み合わせて、多人数で相談しながら文書を編集することもできるのだ。Grooveが浸透すれば、巨大な添付ファイル付きメールが何度も行き交うことはなくなる。ニーズに合わせて、企業内での共有、企業間での共有など、扱うレベルを管理者の手で調整することもできるそうだ。あらかじめ指定したユーザー間でのみ情報をやりとりするという制限を設定すれば、スパムメールに悩まされるようなことがなくなり、オフィス用途には有効だ。

[関連記事] 「Groove 2.0」登場!(Master of IP Network)

●BadBlue(http://www.badblue.com/

 BadBlueは、オフィスドキュメントのPtoPファイル共有ソリューションである。BadBlue では個々のコンピュータPtoPクライアントであるとともにサーバとしても機能する。Webブラウザによるファイルブラウズ機能も提供されている。信頼関係が確立されたコンピュータ間でオフィス文書の共有が可能である。多数の文書が各所に散在しているような環境で効果を発揮するだろう。

BadBlueのファイル一覧表示画面 BadBlueのファイル一覧表示画面

グループウェアとしてのPtoP

●ArielAirOne(http://www.ariel-networks.com/

 ArielAirOne はアリエル・ネットワークスによる国産のPtoPコラボレーションウェアである。欧米と日本とのオフィス慣習の違いを考慮し国産品としての強みを打ち出している。スケジュールアプリケーションや、プロジェクト管理アプリケーションがグループ内で共有できる。ユーザーグループごとに細かなアクセスコントロールが設定できる。SSL(Secure Sockets Layer)による暗号化や、PKI(Public Key Infrastructure)署名などの機能も有している。

●WebEX(http://www.webex.com/

 WebEXは、リアルタイムのコラボレーションサービスである。遠隔地との電子会議システムといってしまえばそれまでだが、WebEXが提供するのは、それだけではない。会議の招集や、参加者の確認・調整、プレゼンテーション資料の準備・配布、議事録の配布など、「会議」に対しての統合的なサービスを提供する。アイデア次第では会議だけでなく、ユーザーサポートなどにも活用できるだろう。WebEXはPtoPソフトウェアではなく、アプリケーションサービスとしての提供である。このようなPtoP的サービスは確実に浸透していくことが予想される。

セキュリティ用途のPtoP

 Rumor(http://MyCIO.com/)はセキュリティサービスの加入者にPtoP技術を使ってアンチウイルスの更新情報を提供するシステムだ。ここで提供されているのは、たまたまアンチウイルス情報であるが、アプリケーションの更新情報や、さまざまな情報の更新、差分などを多くのユーザーへ配布するのにPtoPは適していることを物語っている。

知識情報のPtoP

 The Worldwide Lexicon(http://picto.weblogger.com/)は、多くの人々に言語に関する情報を提供してもらい、各国語の翻訳辞書を構築しようというプロジェクトだ。英語だけではなく各国語の技術用語の翻訳に役立つ辞書を作り上げるのが目的だ。現在SOAP(Simple Object Access Protocol)ベースの辞書ツールの開発が進められている。SOAPインターフェイスを持った巨大なインターネット上の質の高い辞書があれば、さまざまなネットワークアプリケーションで活用することができる。プロジェクトの今後に期待したい。

PtoP検索技術

 サン・マイクロシステムズ(以下サン)はJavaをベースとしたPtoP技術としてJXTAをオープンソースで提供している。サンはさらにInfraSearchを買収し、PtoPネットワークの中での検索技術を推進している。

 検索サイトとしてはGoogleがよく知られている。検索情報量の多さや、検索情報の有用さから多くのユーザーに活用されている。一方、PtoP検索はGoogleと比較してアドバンテージはあるのだろうか? PtoP検索の利点は、Googleのような力業的アプローチではない方法で最適な知識情報を探し出せることにあるだろう。また、情報を持っている個々人がどのような経路で検索したのか、検索結果、有用と思われる情報はどれなのかを見分ける意味でも効果がある。

PtoPコンテンツ配信

 Kontiki(旧Zodiac Networks)(http://www.kontiki.com/)はネットワーク配信を高速化するサービスとして注目されている。Kontikiでは、コンテンツデリバリのAkamai(http://www.akamai.com/)とプッシュテクノロジのPointCast(http://www.pointcast.com/)を組み合わせたようなコンテンツ配信を目指していると思われる。個々のPtoPクライアントがそれぞれコンテンツデリバリを行う端末として機能し、コンテンツ配信の混乱を緩和しようというものだ。

 ほかにも同様のサービスとして以下のものが期待されている。

PtoP広告

 PinPost(http://www.pinpost.com/)は、eBayやYahoo! AuctionなどのインターネットオークションやオンラインショッピングのためのPtoPテクノロジである。個人と個人、個人と企業間をダイレクトに結んだ取引、広告媒体として活用されている。地域別に広告を出したり、特定の商品を求めているユーザー向けに広告を出したり、より適切なターゲットに的確な広告発信ができる。

PinPostによる商品一覧表示画面 PinPostによる商品一覧表示画面

 いくつかPtoPテクノロジの利用例を紹介した。Napsterの栄枯盛衰でネガティブにとらえられがちだったPtoP技術も、さまざまな分野で発展していっているのがお分かりいただけただろうか?

 音楽データに関しても、現在では有料コンテンツの流通、購買が盛んになってきている傾向がある。Altnetが現在試験運用しているTopSearchでも良好な結果が得られているらしい。結局ユーザーはPtoPの持つ便利さを欲しがっているわけだ。

 PtoPテクノロジは当然、エンタープライズ用途やオフィス用途ばかりではない。エージェント技術によって、欲しい情報を見つけ出すBotSpot(http://www.botspot.com/)や、個々人のコンピュータを統合して巨大なPtoP水族館を構築してしまうDaliLab(http://www.dalilab.com/)などエンターテインメント分野での応用も目覚ましい。

 またWebブラウザと統合されたPtoP環境も登場してきている。ユーザーがWebページにコメントを付加できるThird Voice(http://www.thirdvoice.com/)なども広い意味では、PtoPによる情報共有といえる。

 PtoPといえども、コンピュータ/ネットワークの一形態でしかない。PtoP も結局は人と人をつなぐ技術なのだ。PtoP(Peer-to-Peer)を「Person to Person」といい換えると、その本質が見えてくるのかもしれない。PtoPテクノロジが着実に次のステージに向かっていることが感じられると思う。

次回は8月13日の公開予定です。


プロフィール

安藤幸央(あんどう ゆきお)

安藤幸央

1970年北海道生まれ。現在、株式会社エヌ・ケー・エクサ マルチメディアソリューションセンター所属。フォトリアリスティック3次元コンピュータグラフィックス、リアルタイムグラフィックスやネットワークを利用した各種開発業務に携わる。コンピュータ自動彩色システムや3次元イメージ検索システム大規模データ可視化システム、リアルタイムCG投影システム、建築業界、エンターテインメント向け3次元 CG ソフトの開発、インターネットベースのコンピュータグラフィックスシステムなどを手掛ける。また、Java、Web3D、OpenGL、3DCG の情報源となるWebページをまとめている。

ホームページ:
http://www.gimlay.org/~andoh/java/

所属団体:
OpenGL_Japan (Member)、SIGGRAPH TOKYO (Vice Chairman)

主な著書

「VRML 60分ガイド」(監訳、ソフトバンク)
「これがJava だ! インターネットの新たな主役」(共著、日本経済新聞社)
「The Java3D API仕様」(監修、アスキー)


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