特集:IP技術者のためのSAN入門ネットワーク・ストレージの新潮流を学ぶ(2/5 ページ)

» 2002年08月22日 00時00分 公開
[辻哲也,ブロケード コミュニケーションズ システムズ]

Part.2 SANの基本要素と用語を整理する

 SANと一口にいっても、実際にはさまざまな要素から構成されています(図3)。本章では、SANを構成する各コンポーネントについて説明していきます。

図3 SANを構成するコンポーネント 図3 SANを構成するコンポーネント

HBA(Host Bus Adapter)

 サーバをSANに接続するために必要なアダプタです。SCSIボードやイーサネットのNIC(Network Interface Card)と同様に、PCIバスやSバスのものが提供されています。HBAは、サーバのOSからはSCSIボードと同じように認識されますが、プロトコル変換やフロー制御、インターフェイス変換など、非常に多くの処理をハードウェアで実行しています。これは、基本的にインターフェイスを提供する機能しか持っていないイーサネットのNICと、大きく異なっている点です。このことにより、サーバのCPUに負荷をかけることなく、データ伝送を高速に行えます。

  写真1 HBAは、サーバに合わせて多くの種類のものが、さまざまなベンダにより提供されている

ケーブル

 「ファイバ・チャネル」というと、すぐに「光ファイバ・ケーブル」を連想される方がいらっしゃるかもしれませんが、実際には光ファイバ・ケーブル以外にカッパー・ケーブル(銅線)も用いられます。カッパー・ケーブルは安価ですが、光ファイバ・ケーブルの方が信頼性の高い信号をより遠くまで送ることができるため、最近の主流となっているのは光ファイバ・ケーブルです。

 光ファイバ・ケーブルは50μm(マイクロ・メートル)、もしくは62.5μmのマルチモード・ファイバ・ケーブル、9μmのシングルモード・ファイバ・ケーブルがあります。マルチモード・ファイバ・ケーブルは安価な半面、接続距離は500m程度です。一方、シングルモード・ファイバ・ケーブルは高価ですが、最大10kmまでの接続距離をサポートしています。

      写真2 ファイバ・チャネルで用いられるケーブル群

GBIC/SFP

 HBAやファイバ・チャネル・スイッチにおいて、接続するケーブルの種類を変更する際に使用します。GBICやSFPを用いることにより、HBAやファイバ・チャネル・スイッチをさまざまなインターフェイスに柔軟に対応させることができます。GBICは、デバイスで生成された電気的信号を、そのGBICの設計に合わせ適切な送信用信号に変換します。

 1Gbit/sのインターフェイスに対応したものは「GBIC(GigaBit Interface Converter)」、2Gbits/sのインターフェイスに対応したものは「SFP(Small Form Factor Pluggable)」と呼ばれます。またコネクタの形状としては、カッパー・ケーブルに用いられるDB-9/HSSDC、1Gbit/sの光ファイバ・ケーブル用のSCコネクタ、2Gbits/sの光ファイバ・ケーブル用のLCコネクタがあります。

   写真3 インターフェイスの変換を行うGBIC(左の2点)/SFP(右の1点)

ファイバ・チャネル・スイッチ

 SANの中核となる装置であり、各サーバやストレージ、テープ装置を接続する際に使用します。このファイバ・チャネル・スイッチの存在が、SANの柔軟な拡張性を実現しているのです。また、単に拡張性をもたらすだけではなく、ネーム・サーバ機能やルーティング機能なども提供します。そのほか、デバイスのグループ分けを行ってアクセス制限を行うゾーニング機能やエラーの監視機能、フレームのフィルタリング機能など、数多くのインテリジェントな機能を有しています。これらの機能を利用することにより、SANの管理負荷を軽減し、SANを効果的に運用できるようになります。

   写真4 ファイバ・チャネル・スイッチ。ネットワークの規模に応じて、ポート数の異なる複数の製品ラインが用意されている

ゲートウェイ装置

 SANでプロトコル変換やトンネリングを実現する装置には、ゲートウェイ、ルータ、ファイバ・チャネル・エクステンダ、WDM装置があります。ゲートウェイやルータと呼ばれる装置は、ファイバ・チャネル・プロトコルをIPやSCSIの形式に変換します。最近ではIPインフラが整備されているため、IPを使ったトンネリング装置が多く使われています。WDMはWavelength Division Multiplexの略で、1本のファイバに信号を多重化して通信する仕組みです。主にMAN(Metropolitan Area Network)で使用されます(参考記事「特集:MANと光技術の最新トレンドを探る」)。WDMはOSI参照モデル7階層におけるデータリンク層以上の上位プロトコルに依存しないため、1本のファイバにファイバ・チャネルのみならず、ギガビット・イーサネットなども多重化できます。

 上記のような装置を使用してSANを遠隔サイトに拡張し、災害対策などに使用できるようになります。

ストレージ装置

 単にディスク装置を複数つないだ「JBOD」や、高機能な「RAID」装置があります。また、テープ装置もストレージ装置の一種と見なすことがあります。

 本章の最後に、ファイバ・チャネル・スイッチの機能を確認してみましょう。ファイバ・チャネル・スイッチはLANスイッチと同様、通信しているノード間で帯域を占有できます。これにより高速なデータ通信が可能になります。また、SNMPとMIBによる管理のほか、ホット・スワップ(活線挿抜)可能なコンポーネントも提供しています。

図4 ファイバ・チャネル・スイッチは、イーサネットのスイッチング・ハブと同様に、ノード間通信の帯域を占有することが可能だ 図4 ファイバ・チャネル・スイッチは、イーサネットのスイッチング・ハブと同様に、ノード間通信の帯域を占有することが可能だ

 本章では、SANを構成する主要な要素を紹介してきました。SANのシステムを各要素に分解してみることで、意外とLANのような普通のネットワークと共通する部分が多いことに気付いたはずです。次章では、現在のSANの主流プロトコルであるファイバ・チャネルについて、その仕組みをイーサネットなどのネットワーク技術と比較しつつ解説していきます。

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