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» 2003年08月29日 00時00分 UPDATE

「問題解決力」を高める思考スキル(1):プロジェクト管理、自分戦略にも使える!

[芳地一也,(株)グロービス・マネジメント・バンク]

クリティカル・シンキングとは、「論理的かつ構造的に考えること」。これを身に付ければ、自分戦略の立案だけでなく、キャリアを切り開くための強力な武器にもなる。そして、開発現場で直面する「問題解決」にも役立つスキルだ。

最初は戸惑うかもしれないが、日々実践することで思考力は格段に向上する。この連載を通じ、ぜひマスターしてほしい。


【思考停止】に陥っていないか?

 皆さんがこのサイト、およびこの連載に求めているものは何ですか?

 おそらく共通しているのは、「自らのキャリアをこれからどうつくっていけばいいのか」という問題意識に対するヒントだと思います。従ってまずは、この連載がどういうポイントでそれにお応えできるのかを明らかにしておきたいと思います。

 世の中には、さまざまなキャリア理論や方法論、あるいは職業に関する情報があふれています。しかし、それらは常に「多くの人に共通していえること」を述べているため、ヒントにはなっても答えにはなり得ません。すべての人にまったく違った事情や環境、能力があるので、最後は自分で考え、何らかの答えを出す必要があります。

 よくありがちなのは、新しい情報を仕入れては「自分には当てはまらない」という理由で【思考停止】に陥り、また新たな情報を探したり、やみくもに行動したりというループにハマってしまうケースです。その結果、残念ながらいつまでも状況が変わらなかったり、同じ失敗を繰り返したりすることになります。

 このループから抜け出すためには、【仮説立案】→【行動/情報収集】→【検証】→【進化した仮説】というサイクル、つまりPDCA(Plan-Do-Check-Action)をちゃんと積み重ねることが必要です。そして、このサイクルをきちんと回すために有効なのが「クリティカル・シンキング」なのです。

●クリティカル・シンキングをキャリア構築に応用する

図1 考える人、考えない人のキャリア 図1 考える人、考えない人のキャリア

 従ってこの連載では、自分戦略の考え方について理解を深めながら、クリティカル・シンキングのエッセンスを解説していきたいと思います。

クリティカル・シンキングとは?

 クリティカル・シンキングとは、簡単にいえば「論理的かつ構造的に考えること」です。直訳すれば「批判的に考える」ですが、ここで批判の対象になっているのは自分自身の考え。つまり、自分がきちんと論理的・構造的に考えているかをチェック(批判)しながら思考を進めていくことがクリティカル・シンキングの本質です。

 筆者は本業のかたわら、グロービス・マネジメント・スクールで社会人向けに「クリティカル・シンキング」の講師を担当しています。このクラスで実際にやっていることの大部分は、受講生の方々に「自分の思考がいかに表面的なレベルでとど止まっているか、ロジックが通っていないか」に気付き、自分自身の「思考のクセ」を矯正していただくことです。

 これは、ゴルフやテニスなどのスポーツを想像してみると分かりやすいでしょう。スポーツというものは、素人が自己流でやっても時間をかければそこそこうまくなることはできます。しかし、科学的裏付けのあるトレーニングメニューに従い、良いコーチについてしっかりと訓練を受けた人にはほぼ間違いなく勝てません。その間には、簡単には超えられない断層があるのです。

 これは思考力についても同じこと。クリティカル・シンキングを学び、日々実践することで、思考力は格段に向上します。これは「自分戦略」をつくることに役立つだけでなく、キャリアを切り開くための強力な武器にもなります。この強力な武器を皆さんに少しでも身に付けていただくのが本連載の目標ということになります。

 クラスでも書籍でもない、文字数の限られた連載記事でどこまでできるか分かりませんが、できるだけ皆さんにとって価値のあるものにしていきたいと思いますので、しばしお付き合いください。

――「われわれが人生の意味を問うのではなく、われわれ自身が人生の意味を問われているのであり、答える責任があるのだ」(ヴィクトール・フランクル『夜と霧』より)――

 キャリア、つまり「人生をどう築いていけばいいのか」という問いに答えを出せるのは、自分自身でしかあり得ません。ならば、「問いに答える力」(=考える力)を磨くことで、より良い人生(=キャリア)への糸口をつかもうではありませんか!

「目的や前提を明確にする」

 クリティカル・シンキングを実践するうえで欠かせない、最初に行うべきプロセス、それが「目的や前提を明確にする」ということです。

 われわれはよく、何かを考えるときに「取りあえず目に付いたテーマ」にとらわれ、本質を見逃してしまうことがあります。例えばこんなケースはどうでしょう。先に読み進む前に、まずは少し考えてみてください。

ベンダ資格を取るべきか、取らざるべきか?

 あなたは28歳のプログラマ。新卒で入社して5年目、コーディングやデバッグに追われて残業ばかりの毎日だ。プログラマとしての仕事の進め方や基本的な技術は一通り覚えたと思うが、毎日の仕事をただこなしているような状況で、ちょっと伸び悩んでいる感じを持っている。将来のためにも何か新しいことをしたいと思っているが、何をしたらいいのかよく分からない。そんな中、先輩にこんな助言をもらった。

 「うちの会社は、いま実験的に始めているA社製のERPパッケージ導入が好調だから、これからも積極的に受注していく方針らしいぞ。一時のブームは終わったみたいだけど、大企業のリストラや合併・買収の影響で、しばらくは需要もありそうだし。何かやりたいのなら、A社のベンダ資格を取ってみたらどうだ?」

あなたはこのベンダ資格を取るべきだろうか?


 さて、どうでしょうか? 出てくる答えは大きく3つに分類できると思います。

 一番多い答えは、おそらく「情報が少なくて判断できない」というもの。これは【思考停止】といい、クリティカル・シンカーが最もやってはいけないことの1つです。情報が少ないなら、「ほかにどんな情報があれば判断できるのか」、いくつか前提をおいて「こういう場合にはYESだが、こういう条件ならNOだ」という具合に、判断の枠組みと基準を考えることが大切です。

 残りの大部分は「取るべきだ。なぜなら……」、あるいは「取るべきではない。なぜなら……」の2種類でしょう。

 ほかに何があるんだ? と不思議に思われた方、ちょっと考えてみてください。このケースでは「このベンダ資格を取るべきだろうか?」という問題提起がされていますが、このケースで「そもそも」考えるべきことは、A社のベンダ資格を取るべきか否かなのでしょうか。ここで疑問を持つべきポイントは、「ベンダ資格を取る」というのは真の目的ではなく、あくまで考えられる手段の1つにすぎないということです。

まずは自分が直面する「問題」を疑ってみる

 従って、この問題に丁寧に答えるならば、「この資格を取ることが、考え得る多くの手段の中で最も目的に合致しており、かつ取得が可能で、コストに見合うと判断できるのなら取るべき。そうでないならほかの手段を採用した方がいい」となります。

 このように、自分が直面している問題そのものをまず疑い、何のためにこの問題を考えているのかを明らかにすることが、クリティカル・シンキング第1のポイントである「目的や前提を明確にする」ということです。目的を見失ってしまうと、問題の一部だけに注目してしまったり、さまつな問題を意味もなく検討したりして、なかなか本質的な解決に至らなくなってしまいます。エンジニアなら開発現場の課題解決やプロジェクト管理などにも、もちろん応用できるのです。

 いくら論理的に考えた答えであっても、そもそも目的に合っていない答えだったら意味がありません。まずは「目的や前提を明確にする」。これを常に意識するようにしてください。

 次回は自分自身の目的を達成するために、具体的なアクション・プランなどについて解説していきたいと思います。

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筆者紹介

芳地 一也

(株)グロービス・マネジメント・バンク、コンサルタント。グロービス・マネジメント・スクールおよび企業内研修においてクリティカル・シンキングの講師も務める。東京大学文学部心理学科卒業後、(株)リクルートを経て現職。グロービスは経営(マネジメント)領域に特化し、ビジネススクール、人材紹介、企業研修、出版、ベンチャーキャピタルの5事業を展開。経営に関するヒト・チエ・カネのビジネスインフラを提供することで、日本のビジネスの「創造と変革」を目指している会社。



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