モチベーションをアップさせる方法「問題解決力」を高める思考スキル(最終回)

» 2004年06月02日 00時00分 公開
[芳地一也(株)グロービス・マネジメント・バンク]

細かいことを考える気分になれない……

 この連載もいよいよ最終回。今回のテーマは「モチベーションをアップさせる方法」です。

 正直いうと、編集局からこのテーマを提示されたものの、なかなか手を付けられずにいました。仕事が忙しかったからつい後回しにしていたというのもありますが、テーマにマッチするストーリーが作れなかったというのも大きな理由でした。

 なぜなら、モチベーションが上がらないときにはそもそも「細かいことを突き詰めて考える気分になれない」ことが多いからです。そんな「気分が乗らない」状態を解決する方法としてクリティカル・シンキングの手法だけで押し通すのはイマイチだよなあ、と思っていました。

 そんなわけで、いいアイデアが浮かばないまま、締め切り前日の日曜日を迎えてしまいました。何のことはない、私自身がモチベーションを上げられずにいたのです。そこから私がどのようにモチベーションをアップさせ、この原稿が出来上がったのか。今回はいつもと趣向を変えて、そのプロセスを紹介しながら、モチベーションを上げる方法を考えていきたいと思います。

モチベーションの定義とは

 そもそも「モチベーション」とは何でしょうか。

 「大辞林第二版」(三省堂)によれば、心理学用語で「Motivation=動機付け=生活体を行動へ駆り立て、目標へ向かわせるような内的過程。行動の原因となる生活体内部の動因と、その目標となる外部の誘因がもととなる」とあります。

 生活体内部の動因とは、ベースとなる気力・体力の充実度合いや、行動そのものが楽しいかどうか、その行動を起こすことによるメリットをどれほど強く感じているか、などが考えられます。

 一方、外部の誘因とは、人事評価制度や社会通念、周囲からのプレッシャーなどに由来する、目標そのものの魅力や、逆に目標が達成できなかったときのデメリットなどが考えられるでしょう。

 モチベーションにはさまざまな要素が絡んできますが、基本的には、心から楽しいと思える「やりたいこと」に関しては誰でも積極的に取り組めるものです。ゲームに熱中したり、面白い映画を見たり、好きな子とデートしたり、スポーツに興じたりといったときには、食事も忘れるほど没頭することもあるでしょう。

 また、お金が儲かる、社会的にステータスが高い、周囲の期待が高いなど「望ましいこと」も、モチベーションアップにつながる重要な要素です。奥さんと子供が応援してくれるから頑張れる、周りの人がチヤホヤしてくれて気持ちが良い、といった類のものですね。

 このように、「やりたいこと」や「望ましいこと」をやるときに発揮できる高い集中力と持続力、そしてそれを支える強いモチベーションを、仕事や勉強など「やるべきこと」に対して発揮できれば最高ですよね。であれば、「やるべきこと」「やりたいこと」「望ましいこと」が“重なるポイント”を見つけられれば、モチベーションも上がり、パフォーマンスも上がるはずです(図1)。

 では、どうしたらその接点を見つけられるのでしょうか。

●モチベーションをアップさせる!

図1 「やるべきこと」「望ましいこと」「やりたいこと」が“重なるポイント”を見つける。そうすればモチベーションのアップにつながることだろう 図1 「やるべきこと」「望ましいこと」「やりたいこと」が“重なるポイント”を見つける。そうすればモチベーションのアップにつながることだろう

「やるべきこと」を分解して個別要素を見る

 1つの方法は、「やるべきこと」をいろんな要素に分解して個別に見てみることです。これには「第6回 手順を踏んで考える」でも紹介したロジックツリーが応用できます。ここでは自分を俎上(そじょう)に載せて、「原稿を書く動機」をロジックツリーにしてみました (実際のロジックツリーは割愛させていただきます)。

 原稿を書く動機はいろいろあります。人によって重みが違うでしょうが、私の場合は「多少なりとも読んでくださる方々のお役に立てること」が一番うれしいです。また、モノを作る人間としては、「自分で納得できる作品を作りたい」という欲求もあります。

 従って私がモチベーションアップのためにやることは、「読者の方々を強くイメージすること」と「納得のいくストーリーを思いつくこと」です。前者は難しくありませんが、後者はなかなか難しい問題でした。

 クリティカル・シンキング的に問題を要素分解して原因究明というアプローチは、問題を明らかにするにはとても有効です。ただ、「納得のいくストーリーを思いつく」ということは、それ自体が困難な課題でもあります。われわれは弱い人間ですから、そんなふうに根を詰めて考えるなんて「何となくそんな気分になれない」ときもあるでしょう。そんなときに有効なのが、人の「楽しみ方」をマネることです。

少し発散的に:「楽しみ方」をマネる

 仕事でも勉強でも、皆さんの周りには多少なりとも「それらを楽しんでいる人たち」がいるでしょう。楽しんでいないまでも、うまく自分をコントロールしながらそれらをこなしている人がいると思います。そんな人たちは、彼らなりの「楽しめるポイント」や、経験から導き出した「うまくモチベーションを上げる方法」を持っている可能性が高いのでは……。というわけで、手っ取り早くその秘けつを聞いてみるのがお勧めです。

 私の場合、締め切り前日の日曜日の夕方、友人2人と一緒に下北沢の居酒屋で飲みました。1人は某雑誌の編集長で、もう1人はフリーランスのクリエイティブディレクター。いずれも日々、原稿書きを含め、モノ作りの世界で活躍している人物です。

 原稿書きとして大先輩の彼らが口をそろえていうのは、「ギリギリまで自分を追い込む」こと。いまの私と同じです。締め切りが迫っているにもかかわらず、「勝手に手が動き始めるくらい書きたいと思える原稿がイメージできるまで」あえて取り掛からない。気分が乗るまでほかの仕事をしたり遊びに行ったりするというのです。

 それでも、締め切りのデッドラインには間に合うということでした(締め切りには必ず隠しスケジュールがあり、デッドラインとは「それ以上はどうやっても待てない期限」のこと)。

 この手は確かに有効で、試験勉強の世界でも「一夜漬け」と呼ばれて多用されているポピュラーな手法(?)です。ただしこれをやると、編集者や制作チーム、紙媒体では印刷所などに大変ご迷惑をかけてしまいますので、できるだけマネをしないようにしてください。

 自分を追い込む、という以外にも、彼らが感じている「クリエイターとしての喜び」には共感できるところが多く、大いにモチベーションアップにつながりました。例えば、追いつめられている状況でいいアイデアがひらめき、徹夜で一気に書き上げた時の充実感とか、われながらいいものを作れた!という満足感、作品を見てくれた人から嬉しい感想をいただいたときなどです。

 余談ですが、うまい芋焼酎が飲めたことや、料理が安くてうまかったこともモチベーションアップにつながりました。

「楽しいこと」に取り組んでみる

 それでもまだモチベーションが上がらなければ、思い切ってまったく違うことをやってみましょう。やるべきことを気に掛けながらも、まったく別の刺激にさらされることで、いつもの発想から抜け出すことができます。この「別のこと」は、できるだけ自分が楽しいと思えることがいいでしょう。

 クリティカル・シンキングはとても有益ですし、ロジックツリーのように発想を広げる方法も役に立つのですが、常にロジカルであることがベースにありますので、自分でも知らないうちに思考の枠にとらわれていることがあります。そして、発想を飛躍させることが難しくなってしまうのです。そんなときに役立つのがこの方法です。

 具体的には、1つのテーマをずっと頭の片隅に置きながら、映画でもコンサートでもダンスでもスポーツでも、何でもいいから普段とちょっと違うこと、できれば自分の大好きなことにトライしてみるのです。そうすることで思考が解放され、新たなひらめきを得られることがあります。

 私の場合、先ほどの2人と、居酒屋で飲んだ後、そのまま下北沢のライブハウスにいきました。その日はライブハウスの2周年記念イベントで、ヒップホップ、サンバ、フュージョンなどのバンドが出演していて大盛況。私はかれこれ10年以上もサンバをやっているので、サンババンド目当ての友人も多く来ており、大いに盛り上がりました。そして、(ウソみたいな話ですが)サンバを楽しく踊った後、ラムコークを飲みながらフュージョンを聴いているときに今回の記事のストーリーが一気に頭の中に出来上がったのです。

 このイベントの出演バンドはそれぞれまったく違うものに見えるけれども、いい音楽をライブで演奏して客を楽しませるという一点において共通していました。一方、この日の自分の行動も、一見クリティカル・シンキングとは関係なさそうに見えて、モチベーションアップの方法であるという点で共通していました。ならば記事でそれを体系化してみよう。そう思ったのです。

十分に考えたら、意を決して行動しよう!

 早いもので、この連載も10回目となりました。残念ながら今回でお別れとなります。クリティカル・シンキングの手法の紹介、あるいはその応用といった内容で記事を書いてきましたが、少しは皆さんのお役に立てたでしょうか。

 グロービス・マネジメント・スクールの「クリティカル・シンキング」のクラスでは、思考のテクニックを机上でお伝えするのではなく、演習をたくさん使いながら「自分の頭で考えて出した答えに対して講師やクラスメイトからどんどん突っ込まれ、少しずつ修正しながら“コツ”を覚える」という方法を取っています。

 なぜならば、思考力はスポーツや格闘技と同じく、良い「型」を学び、それを繰り返し訓練することで少しずつ鍛えられるものだという考え方に基づいています。ただテクニックを学んでも、実践の中で磨かなければ意味がないのです。

 それと同じように、このサイトは「自分戦略」というコンセプトを軸にキャリアを考えるというのが大きなテーマになっていますが、結局は「実践に勝る思考なし」です。しっかり戦略を考えるのはもちろん大切ですが、まだ見ぬ未来のことなど不確定要因が多すぎて、完全に予見できるわけではありません。「十分に考えたら、意を決して行動する!」。その積み重ねこそがキャリアなのだと思います。

 少しでもこの連載がお役に立てていれば幸いです。10カ月間お付き合いいただき、本当にありがとうございました。

筆者紹介

芳地 一也

(株)グロービス・マネジメント・バンク、コンサルタント。グロービス・マネジメント・スクールおよび企業内研修においてクリティカル・シンキングの講師も務める。東京大学文学部心理学科卒業後、(株)リクルートを経て現職。グロービスは経営(マネジメント)領域に特化し、ビジネススクール、人材紹介、企業研修、出版、ベンチャーキャピタルの5事業を展開。経営に関するヒト・チエ・カネのビジネスインフラを提供することで、日本のビジネスの「創造と変革」を目指している会社。


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