美しすぎる履歴書は逆効果?一歩上いく英文履歴書の書き方、使い方(3)

英文履歴書をより魅力的に、ほかの人と差別化して書くにはどうしたらいいのか。そんな英文履歴書の書き方、使い方を解説しよう。

» 2004年10月15日 00時00分 公開
[福島由美@IT]

一般原則:履歴書の美しさは自分の資質の証明

 今回は英文履歴書のデザインについてです。日本語の履歴書と違い、英文履歴書にはいわゆる定型の履歴書用紙に相当するものはありません。通常は書き手がA4またはレターサイズのブランク用紙1〜2枚に、自分でデザインを考えて作成することになります。本連載の「第1回 英文履歴書の表現とその理由」で説明したように、ネイティブは英文履歴書の見掛けが非常に大切だと考えます。なにしろ、美しくなければ目を通してもらえないからです。

 まず、実際にどのようなデザインの英文履歴書が書かれているかを見てみましょう。「ResumeEdge.com」のサンプルページの一覧表から「After」を次々にクリックしてみてください。そこに見える履歴書のサンプルデザインから、どのような印象を受けますか。

 この履歴書を見て、履歴書のデザインが業種と職種にふさわしいものになっていることに気づかれたでしょうか。

一般原則:履歴書の美しさは自分の資質の証明

 例えば、写真家の履歴書が保守的なデザインであったら、アーティストとしてのセンスが疑われてしまいます。一方、銀行の管理職が芸術的な履歴書では、当事者の人格が疑われかねません。しかし硬いイメージの「保守的」な履歴書であっても、フォントの種類や大きさ、使用する罫線(けいせん)の種類と使い方、使用する行頭文字の種類、マージンやスペースなどには、隅々まで配慮がいき届いたものを作成します。それは彼らにとって、「履歴書の見た目」も記載内容と同様に、応募するポジションに対する「自分のふさわしさ」を証明する手段であるからです。

 上記の履歴書のサンプルは、プロの履歴書ライターの手が入ったものですが、実際に私が経験したネイティブの履歴書のデザインへのこだわりようも相当なものでした。

 あるカナダ人の男性は、「どの履歴書が一番良いと思うか」と私に4種類の英文履歴書を見せてくれたことがあります。記載された英文そのものはまったく同じで、デザインのみを変えていました。別のイギリス人は、私からフリーの英文フォントを集めたCD-ROMを喜々として借りると、見本を念入りに眺めてから何種類かのフォントを自分のPCにインストールしました。それは、「自分の履歴書をより良いものにするため」でした。

ローカルルール:履歴書の美しさが命取りにも

 一般的な話ですが、国籍を問わず英文履歴書を集めると、日本人の履歴書はネイティブの人のものより視覚的に見劣りがします。この履歴書に目を通すのがアメリカ人マネージャだとすると、日本人の履歴書の多くはその見掛け故に、ここでアウト(落ちる)になる可能性が高くなります。しかし目を通すのが日本人である場合には、少々事情が異なってきます。

 「この履歴書は何だかイヤだな」と、某外資系企業の日本人社長が私に投げて寄こしたのは、マーケティングのポジションに応募したある日本人男性の英文履歴書でした。その履歴書のデザインは、まるでネイティブ向けである履歴書の書籍の「良い見本例」に掲載されているような美しいものでした。

 実はこの日本人社長は、この履歴書の内容に目を通していません。しかしデザインをパッと見ただけで「性格が良くない」と判断したのです。私が知る限り、ネイティブ並みにデザインに力を注いだ日本人男性の履歴書は高評価を受けることがある一方で、「神経質そう」「見掛けが良い履歴書を書いてくるのは実力がないから」とマイナスの印象を持たれることもあります。つまり目を通すのが日本人である場合は、デザインの良さはもろ刃の剣となり得るのです。

デザインについて日本人が考えるべきこと

 ところが、これと同じぐらい美しい履歴書を作ったのが日本人女性だと、日本人の間でも「気が利く女性に違いない」「細かいことも嫌がらずきちんとやってくれそうだ」というプラスの評価を受けることが圧倒的に多くなります。男性のように否定的な評価を受けることはあまりないようです。

 これは非常に興味深い点です。というのは私の印象では、「隅々までデザイン面の配慮がいき届いているなぁ」とつくづく感心させられるネイティブの履歴書は、どちらかというと男性のものが多いからです。

 英文履歴書を書く日本人の多くは、「読みやすいけれど控えめなデザイン」で書く傾向にあります。しかし、私たちが英文履歴書を書くのは、さまざまな価値観がぶつかる場所で働くポジションを狙う場合が多いのです。価値観の中には「中庸」「控えめ」な履歴書を「凡庸」「自信の欠如」として嫌うアメリカ文化の価値観が大いに含まれます。つまり、こうした価値観がぶつかり合う中でも自己主張ができることを英文履歴書によって訴えられるか、が問われている場合もあります。さまざまな要素を考慮した結果、最終的には無難なデザインを選択したにしろ、日本人こそが履歴書のデザインについてはもっとよく考えてみるべきだと私は考えています。

 次回は、履歴書に使用するフォントについて触れる予定です。

英文履歴書ワンポイント解説

■希望職種の記入について

 英文履歴書のレイアウトで、名前・住所・電話番号、メールアドレスなどのHeadingの次にくるのが、Objective(希望職種)です。この希望職種については、これを履歴書に記入すべきだという意見と、記入すべきではないという意見があります。結論をいえば、書いた方がよい場合と、書かない方がよい場合がある、というものでしょうか。

 履歴書に希望職種を記入しておいた方がよいのは、新卒者や、「これまでの営業のキャリアからマーケティングにキャリアを変えたい」などのキャリア・チェンジを行う場合です。また、採用側が複数のポジションを募集しており、その中の特定のポジションに絞って応募する場合も、記入した方がよいでしょう。

 しかしながら、希望職種を記入したことで、かえって採用の幅を狭めてしまうことがあります。ある企業が募集する複数のポジションに採用の可能性があり、その企業へ入社することを第1の目的としている場合や、転職フェアなどに持っていく履歴書では、書かない方がよいといわれています。

 希望職種でしばしば問題になるのは、希望職種を「記入するか、しないか」の選択とともに、記入する場合に「どのような表現を使うか」です。希望職種を「Accountant」(会計士)のように、単語レベルで記入する方法もありますが、次のような書き方も結構見られます。

「Position where five years of IT service management experience will contribute.」(5年間のITサービスのマネジメント経験が貢献できるポジション)

 「5年間のITサービスのマネジメント経験」が貢献できるであろうポジションは複数ありそうなので、こう書いておけば、キャリアの方向性は示しながらも、選択の幅をそれほど狭めることはありません。

 また、このような表現で希望職種を明らかにする場合には、「応募者が会社に何を与えられるか」という企業視点から表現を考える必要があります。

 例えば、ネイティブの履歴書の中にしばしば見受けられるのですが、「Seeking a position within information technology where knowledge can be further developed and fully utilized.」(自分の知識がさらに向上し、フルに生かされるようなIT関連のポジションを希望)などと書いてしまうと、自分の都合と利益しか考えていないような印象を与えてしまい、いくら個人主義の国アメリカの採用担当者ですらムッとするでしょう。

 そこで、同じように自分の経験を生かすポジションを希望する場合にも、「contribute」(貢献する、寄与する)という相手に対して利益を与える表現を選べば、相手に好感を持たれるのです。

 さて、希望職種を記入する際の見出しには、「Objective」「Professional Objective」「Career Objective」「Career Focus」などが使われますが、「ResumeEdge.com」の例のように、見出しを付けない場合もあります。この履歴書では「International Business Executive, ASP & e-business 〜 B2B 〜 B2C 〜 CRM」までが希望職種です。見出しを付けなくても、Headingのすぐ下に書かれているのが職種であれば、それだけで応募者が希望している職種だと分かるのです。


本記事は、「B-zine(ビージン)」(メールマガジン)に掲載された記事を基に加筆、修正したものです


筆者プロフィール

福島由美

外資系メーカー、会議通訳、再就職支援会社勤務などを経て、現在は某大学で非常勤講師としてビジネスコミュニケーション科目群を担当。異文化ビジネスコンサルタントとしても活動中。著書に『異端パワー?「個の市場価値」を活かす組織革新「新しい経営」シリーズ』(共著、日本経済新聞社)がある。



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