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» 2005年02月23日 00時00分 UPDATE

キャリアビジョンづくりから始めよう(1):キャリアとキャリアビジョンを考える

キャリアとは、キャリアビジョンとは何だろうか。それを知り、己のものとするとこで、どんなメリットがあり、どう役立つのだろうか。そして、それを転職や自分の転機にどう生かせるのか。それを解説する。

[関口みゆき,特定非営利活動法人 キャリアカウンセリング協会]

 毎日が多忙だと、自分のいまや将来に悩みながらも、では具体的に何をしたらよいのか、どんなことが考えられるのかなど、なかなか自分とじっくり向き合う時間は持てないものです。ですが、たまには自分と向き合う時間をつくり、キャリアビジョンについて考えていただきたいと思います。

 ではまず、キャリアビジョンとは何か、キャリアビジョンを持つことにどんな意味があるのか、何が変わっていくのかなどをなるべく簡単にお伝えしたいと思います。これから数回にわたって自らのキャリアをどう描いていくかをともに考えていきたいと思っています。その先にあるのは“転職”か“本当の自分”か“新しい自分”か。自らの選ぶ未来へのアプローチをステップで考えていきましょう。これを機会に自らの明日に向けて何かを始めてみよう、そんなきっかけとなればうれしいと思います。

キャリアビジョンの立て方について知りたい方は、以下の記事も参考になります
5年後のキャリアビジョン、10年後のライフビジョン
キャリアビジョンを実現させる4つの方法


キャリアに良い・悪いはない

 「キャリア」という言葉をあなたはどうとらえるでしょうか。

 ある人は職歴や経歴を思い浮かべ、ある人は熟達した知識や技術と思い、また「キャリアウーマン」など、その人の生活のスタイルなどを表す場合もあります。

 さまざまなイメージでとらえられるキャリアという言葉ですが、最近では「個人の生き方そのもの」として使われることが多くなっています。

 それぞれの生涯を通じての職業選択にかかわることのみならず、過去の学生生活や主婦としての毎日、家族との生活・活動、余暇や学習、そのほか自由な時間なども含めて「働くこと」にまつわる、自分自身の道のりすべてをキャリアととらえる考え方です。

 キャリアの定義がそのようなものだとすれば、キャリアには良い、悪いはありません。もしあるとしたら、自らの道のりが望むものであるかどうかでしょうか。自らが選んだ、自らの望む「生き方」ができたなら自分にとって最高の人生といえるでしょう。

将来はいつまで見通せるか

 最近勝ち組や負け犬といった言葉を目にすることが多いようです。勝ち負けの評価の前に、自分はどう生きたいのか、自分の力を最大限に試すことこそが生きがいと感じるか、上昇思考にとらわれない自分らしい生活やこだわりを大切にした生き方をしたいなど、自らの望む未来を描き、生き方を選んでゆく、その過程こそが“自分自身の「キャリア」”なのです。

 「私の望む生き方・人生とはこういうものです!」などと明快に話してくれる方は雑誌などのインタビュー記事以外ではなかなかお目に掛かれません。

 自分自身を考えてみてください。今週末自分は何をしていますか? 多分、予想はつきますね。どのように過ごすのか時間まで予定を立てている方も多いでしょう。では今月末は? 分かりますね。では、今年の年末はどうですか?

 では、2、3年後・10年後・30年後、……、定年後は?

 イメージできるでしょうか。どこかの段階から、徐々にあいまいになると思います。とはいえ、あいまいなことが悪いことではありません。未来は予測できないからこそ希望に満ちて、楽しみなものといい換えることができます。どんなパートナーを得て、どんな生活をして……。しかし、自分だけでは決められないし、世の中もどうなっているか分かりません。

 次に過去において、あなたの夢は何だったでしょうか。子どものころになりたかったもの、どうしても手に入れたいもの、就職活動のときの希望、誰しも自分の未来についての思いは持っていませんでしたか。

 その思いはどこからわいたのでしょうか。その答えは皆さんの過去にあるのです。自分の“今”は過去からの道のりの上にあるといっても過言ではありません。親や周囲の人々とのかかわりや、さまざまな体験、いままでにどんなことを経験し、何を感じ、何に傷つき何を学んできたのか。そこで育んできたものは何か。

 その過去を元に自分の中に根付いた基本的志向や、捨てることのできない大切なものへの想いは変えることのできないものとなっているようです。その思いこそが将来の目指すもの、なりたい自分、望む人生を形づくっていくのです。

不足するものが見え、それを埋めること

 自分はどんなことがやりたいのか、それはどうして自分に必要なのか、そしてどんな生き方をしていきたいのか、人生をどういうものにしたいのか、自分の人生を自ら描いていくこと、その夢や目標の「形」こそ、自分のキャリアの未来像・キャリアビジョンなのです(図1)。

図1 キャリアビジョンとは何か 図1 キャリアビジョンとは何か

 ビジョンが形となってきたところでは、そのビジョンに照らしていまの自分がどうであるのか。それを考えることは、1つの客観的指標になるでしょう。

 いまやるべきことは何か、何ができていて、何が足りないのか、これから手に入れたいものはどんなものか、などが見えてきます。それに従って具体的な目標設定・計画の策定が可能となります。それらに基づいた行動は未来への具体的ステップとなり、さらにいまの自分を発達させていくのです。

 いまの自分が変わっていくのですから、もちろんキャリアビジョンも変わることもあり得ますね。そのようにキャリアは回りつつ発達していくのでしょう。

キャリアビジョンと目標

 では、キャリアビジョンとは具体的にはどんなものでしょうか。キャリア像などというと考え抜かれた確固たるもののように感じますが、決して難しいものでも、前述のとおり固定的なものでもありません。

 例えば、「子どもが生まれたら3歳までの時期はゆっくりした時間をともに過ごす」というパパ。「5年後にプロジェクトマネージャの資格を取ってプロジェクトをまかされる」「部長になって年収1200万円!」「起業で独立」など仕事や働き方への目標。これは違うというものはないのです。「そんなことはいまでも考えているよ」、という方も多いでしょう。ではその目標とビジョンはどう違うのでしょう。

 その掲げられた目標の基にある、自分の思い・願いがビジョンです。なぜ子どもと? 仕事よりも優先して? なぜ3歳まで? ゆっくりした時間とは? その答えがあるからこそビジョンなのです。

 自分にとって資格を取ることはなぜ意味があるのか、どういう自分になるための過程や目標なのか、1200万の年収は、部長の職位はなぜ必要か、それが自分の道のりに照らして違わないものであれば、それがビジョンといえます。

 いい換えればキャリアビジョンとは自分の“行き先”のようなものかもしれません。目的地が決まれば、そこにたどり着く方法はいろいろイメージできますし、経路も状況で変えることも可能です。その旅程をプランニングすること、そしてそれに基づいて行動することがいまの自分を明日へ、未来へとつなげていく道のりなのです。

キャリアビジョンの効力

 キャリアビジョンを持つことはなぜ必要なのでしょう。確かに行き先の分からない旅は不安ですし、そこには自分のうれしい出会いが期待できるかどうかも分かりません。

 これからの行程なんてなかなか決められないという方にも、少し先の明かりを頼りにしたり、先ほどご紹介したように“過去”と“今の自分”を見つめることによって見えてくるものもあるようです。次にキャリアビジョン策定シートの例を載せましたが(表1)、キャリアビジョンを持つことで、変わっていくいまの自分も見つけることができるので、これの作成をお勧めしたいのです。何もいまを変えようということではありませんが、キャリアビジョンを日常で意識すると周りは自然と動きだすものなのです。

(1)これまでの経験(過去にやってきたこと)を通して、自分の心が動いた(うれしい、悔しいなど)と感じた印象的な出来事を思い出してみましょう。
・いつ
・どんなこと
・どんな思いだった など






(2)そのことを通して感じた自分自身が大切にしているもの(価値)は何でしょうか。









(3) xx年後になりたい自分は?=キャリアビジョン








表1 キャリアビジョン策定シート。それぞれを埋めてほしい。このイメージを基に(1)いまやれていること、(2)これから手に入れる必要があることなどを考えてみましょう。その具体的な行動(ACTION)を、キャリアビジョンとして策定していきます

 自分の人生においてのテーマやビジョンを意識して日常を送ることによって、まず情報に対する視点が変わってきます。はんらんする情報の中の自分のキーワードが目に付くようになってきます。またネット情報などからも、自らのキャリア戦略に対しての必要な情報は得やすいものとなるでしょう。刻一刻と変わる“情報”や“事実”に定期的に触れることによって、例えば転職に当たって必要とされるスキルや知識の具体的な要件やレベルなども見えてきたり、自分の今の弱みや、今後身に付けたいものなども分かってくれば、その準備もできるというものです。

 またアプローチしたい対象が明確になればその中での人脈も自然と広がります。キャリアモデルなどを見つけることができれば、自分の行き先を照らしてくれる灯かりが増えるようなものですね。日々のちょっとした意識から「転機に動く」ことを決断できる自分が育っていくのです。

 話は突然ですがクランボルツという学者がキャリアの意思決定のための社会的学習論理の中で「計画された偶発性」という説を挙げています。クランボルツは「個人のキャリアは人生の中で偶然に起こる予期せぬ出来事によって決定されている事実があり、その偶発的な出来事を主体性や努力によって最大限に活用し力に変えることができる。また、さらに偶発的な出来事を意図的に生み出すように積極的に行動することによって、キャリアを創造する機会を生み出すことができる」といっています。自らの積極的な行動が好ましい機会を作り出し、その偶然をも力に変えることができるというのです。

 この「計画された偶発性」を自分自身のキャリアの強みにするためには、その偶発性は自分自身のいままでのキャリアの中から起こり、(基本的な社会的学習は必要という意味も含めて)自らの好奇心に従って「学ぶこと」と「探し求めること」で新たな機会は得ることができ、さらに、その好ましい機会を作り出すためには具体的に行動していくことが重要なのだといっています。

 自ら描いたビジョンに向かっての行動こそが、自らの好ましい転機を呼び寄せる力となるのです。

キャリア戦略は「個を磨く」

 ここまでずっとキャリアの主体を自分自身に置くことをお伝えしてきました。

 誰のものでもない自分自身の「キャリア」ですから、自分自身で描くことは当然ですが、いまなぜこんなにも“自分自身”“個”が重要視されることになったのでしょうか。

 皆さんご存じのとおり、過去の終身雇用制度の中ではある意味、会社の辞令でキャリアも作られてきたという経緯がありました。また退職後の生活さえも、退職金や年金というもので保証されてきました。その崩壊がキャリアの主体を「企業」から「個人」へと移していったと云われています。昨今、日本人のあきらめていたところにさえも外資の参入は続き、企業の合併もますます増え、自分の会社の合併を発表当日に知るなどということが日常に起こるようになってきました。同じ会社にいながらも今日のこの仕事が明日はない、ということさえもあり得るのです。

 皆さんのIT業界でも、過去には入社から情報処理技術者試験への対応や日常業務のサポートにまで手取り足取り、といった時代がありました。しかしいまでは企業が一律にその仕組みを用意してくれるなどということはあり得ません。

環境の変化にも耐えられるビジョン

 社内で、また市場で通用する自己価値を作り出していくことは、個人の命題となりました。自らが日々、自己価値を高めるための研さんを重ね、社内においてもその価値を自ら雇用主に証明しなくてはならなくなったのです。雇われ続けるために、やりたい仕事をやっていくために、またいい条件で転職するために、まったく新しい明日のために自分自身の価値を作り出し、自らプレゼンテーションをしていかなければなりません。

 その機軸に据えるのはやはりキャリアのビジョンです。そのビジョンに向かって今何をしているところなのか、どういう過程にあるのかを社内で表現しておくことも必要でしょうし、転機にこそ強みとなる「個の力」をいまの環境でさらにどう育てるか、また自ら外に求めて学んでおくか、1日は24時間、資金も採算性を評価したうえで、明日への自分に必要となるものは何か、それを行動ベースで準備しておくことが大事なこといえるでしょう。

 自分の求めるものがはっきりしていれば、環境の変化に応じた柔軟な発想によって、自分の目前のキャリアの目標や方向を失ったときにも、新たに自らの価値をつくる場所を求めることもできます。望みまでをも失うということはないのです。

筆者紹介

特定非営利活動法人 キャリアカウンセリング協会

関口みゆき

ホテル業の人事・労務・能力開発・退職転進援助制度事務局に勤務。その後リクルートにて就職支援プログラム・カウンセリング・企業開拓などを行いながらGCDF-JAPANキャリアカウンセラー資格を取得。現在特定非営利活動法人キャリアカウンセリング協会にてカウンセラーの育成にかかわるともに大学・自治体・団体などで活動中。



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