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» 2005年07月30日 00時00分 UPDATE

キャリアビジョンづくりから始めよう(3):仕事を通して自己価値を生み出そう

キャリアとは、キャリアビジョンとは何だろうか。それを知り、己のものとするとこで、どんなメリットがあり、どう役立つのだろうか。そして、それを転職や自分の転機にどう生かせるのか。それを解説する。

[関口みゆき,特定非営利活動法人 キャリアカウンセリング協会]

 個人のキャリア形成がうまくいくためには、キャリアに対する個人のニーズと組織のニーズが一致することが大切です。企業内で個人のキャリアを重視した人事政策を、と叫ばれているこのごろですが、いまだ多くの企業が個人の要望をくみ上げる人事政策の実現をうまく進めることに苦戦しています。「望むポジションで思うように活躍したい」とは誰しも思っていることですが、簡単にその機会が訪れるというわけにはいかないようです。

やりたいことにどう近づいていくか

 多くの方は、多忙な毎日の中で自分の働き方に疑問を感じたり、納得のいく仕事の機会を与えられていない先輩の姿などを見ると、自らの将来に不安を感じてしまうことがあるのではないでしょうか。

 組織やビジネスの変化がますます速度を上げている今日では、組織の中の職務にも、個人に対する期待にも、同じように速い変化が起こっているのが現状です。その激流にのみ込まれることなく、変化に応じて課せられた職務と役割に応じた期待の中で、自分自身のやりたいことにどう近づいていくのか。ここに戦略的な視点を置き、自らの“今”に、意図を持って取り組むことで将来を切り開いていきましょう。

 前回の記事「自分の価値観は何だったのか」で、自らのさらなる能力開発とプレゼンテーションをもって、組織を自らに引き寄せるという戦略を考えましたが、今回は「“今”磨けるものは何か」。つまり、自分の「職務」や「役割」を通して「自己価値を生み出す」ということを考えてみたいと思います。今の延長が自らの望むところにつながるのか、何か変化を自ら起こさなくては難しいのか。それはいつとなるのか。そんな答えが見えてくればと思っています。

職務の棚卸し

 「いったい自分は何ができるのか」。転機によく相談となる内容です。今の会社ではある程度の実績もあり、責任も与えられ、活躍していても、会社を離れて業界の中では、転職市場の中では、自分をどのように評価していいのか、それが分からずに不安だと考える人は多くいます。

  「あなたは何ができますか? どうしてできるといえるのですか?」という問いの答えは、あなたの過去の体験と経験から語るしかありません。自分の言葉でこの質問に答え、さらに新しい環境で実践できるなら、あなたはその仕事のプロといえるでしょう。

  そこで、“今”の自分が持っているものは何か。それはどのようなものとなっているか。まずはその整理をしてみましょう。

自分の職務と能力を書き出す

 まず、自分に課せられている基本的な責任や仕事を書き出してみましょう。自社の業務評価の評定表や考課表・目標設定シートなどがあれば、それに基づいて結構です。1日の仕事の流れを考えて、どんなことをしているのかを思い出し、その仕事とその責任を順番に挙げても作成できます。そして対象の項目に対して、自分が応えているレベルを5段階で評価します(評価基準は自分で決めます)。さらに、自分の能力についても同じように書き出して評価してみましょう。

  例として、自分の能力について「効率を重視して業務を遂行できる」という項目を書き出したとしましょう。“効率”ということについて、自分が仕事の組み立てを常に考え、残業を減らす努力をしている場合、その項目についてはもちろん4とか5の評価ができるでしょう。またそのことを職場に広げて考えれば、「職場の業務の効率化に貢献できる」という項目にもなるでしょう。自分の立場が管理職であれば、「職場内の業務効率の改善に積極的に取り組んでいる」「部下の業務の効率化を推進できる」としてもいいですね。

  この棚卸し表で、自分が“今”どんなことができているかを言葉で表せるようにしておきましょう。また、いまはまだ難しいと感じたことも、書いている途中でできたかもしれません。できている項目は自分の能力としてアピールし、課題は解決できそうなものから優先順位を付けて取り込むことで、いつかできるようになります(簡単なものから取り組むことが大切です)。

役割の棚卸し

 人は企業内だけでなくいろいろな場面での役割を持っています。家族内ではもちろんですし、個人のネットワークとして友人・地域の人たちとの関係なども含まれます。その中にはあなたに対して何かしら(時間・労力・貢献など)の期待を持つ人や、利害関係が発生する相手もいるでしょう。

 今度は、あなた自身を中心に関係する相手をすべて書き出してみましょう。あらゆる範囲で関係する相手を思い浮かべてください。自分を取り巻くネットワークは意外に複雑で込み入っているのではないでしょうか。

あらゆる範囲の関係を思い出し、自分と関係する人をたくさん書き出してみましょう あらゆる範囲の関係を思い出し、自分と関係する人をたくさん書き出してみましょう

 次にそのリストから、その人からの期待が、自分に与える影響が強いと思われる5人から8人ぐらいまでを、重要と思われる順番でピックアップしてみましょう。その人はあなたにどんな期待を持っているでしょうか。明確にならないところは推測でも構いません。

 “今”のあなたの役割に対する期待は、過剰な負担として存在していたり(役割過剰)、または、それぞれがあまりにあいまい(役割不安)であったり、同じ組織の中にある異なる人から、相反する期待が発生していたり(役割葛藤)という形で問題となっているかもしれません。

 この表を使い、組織や自分自身の転機となるときを想定してその期待がどのように変化するのかを予測してください。その時点で先ほどのリストにない誰かが重要になってくることがあればその相手をリストアップしましょう。

 自分にとって、仕事をしていくうえで、大切な人、将来大切になってくるであろう人が誰であるのか整理できると思います。

自己価値を生み出すために

 さてこれらの完成した表を基に、自分の「自己価値を生み出すことができる場所」を考えていきましょう。2つの表で分かったことは以下のものです。

(1)自分の持っている「能力」はどんなものか「使いたいもの」は何か→表1より

(2)自分の周りにはどんな「宝」となる人がいるのか。→表2より

 そこでこんな戦略を立てました。

「持っている能力」「使いたい能力」「持っているリソース」を“今”鍛えておく

 エンプロイアビリティ(employability)という言葉があります。一般には「雇用される能力」と訳されるのですが、その「雇われ力」は、組織の中でその時々にどう使うか、転機を迎えるまでにどう磨いておくのか、が大切になります。では具体的にどのような「力」としておけば有効に活用できるのでしょう。

 それは、自分の「持っている能力」「使いたい能力」の中から、専門性を特化する。専門性を職務に落とし込む、ということです。

 日常の職務中で“今”鍛えられる専門性を明確にしましょう。そのためには自らの職務についてのきちんとした方向性も確認すべきです。「今だからこそ、日々磨くことができるものは何か」を明確にし、自分の専門といえるものを持ちましょう。

 管理職ならば、品質管理・人材育成・課題解決などのノウハウはどこへ行っても重宝されるものとしてよく挙げられます。また一般に情報収集力・問題発見力・プレゼンテーション力・独創性なども職場が変わっても活用できるものといえそうです。職務を通して自分の得意技となったものは何か。それは具体的にどのようなものか語れるようになりましょう。

 ITの職場での共通スキルでいえば、品質管理、リスクマネジメント、コストマネジメント、調達マネジメントなどのマネジメントスキルや、リーダーシップ、コミュニケーション、ネゴシエーションなどのスキルはアピール度は高いようですし、具体的なシステムのデザインやパフォーマンス、セキュリティ、運用などの専門性は、職務の中でアピールすることもできるでしょう。

自分の周りには宝がある

 次に、自分の周りの「宝」を活用しましょう。自分を取り巻く人脈が分かり、大切にしたい人とその人からの期待を書き出しました。その大切な人を有効に使っているでしょうか。その人の期待に応えることで磨かれる自分は何でしょうか。

 もちろん世の中に自らアンテナを高く張り情報を集めることは大切ですが、自分の周囲にいる自分を大切にしてくれる人の意見も十分に活用しましょう。自分が大切に思う人との考えを大切にし、ともに未来を創造する。その期待に応えることで自らの未来への近道を得ることができるかもしれません。自らの情報力アップを図ることと同時に、さらにあなたを支えてくれ、利害をともにするアドバイザーらの情報がもたらされれば、あなたの情報力は力強いものとなるはずです。

適応力を付ける

 適応力とは、組織の中においては、組織と自分の要望の差を埋めることです。相手の要望に応えることと、自らの大切なものを維持するための着地点をどうするかです。職務の棚卸しも、役割の棚卸しもしました。激動する変化に対応するために自らの持っている「能力」と「宝」が見えました。それらを駆使して相手と折衝し、一致点を見いだすことができる。それが適応力です。

 例えば、先ほどの役割の棚卸しで“今”のあなたの役割に対する期待が、役割過剰や役割不安・役割葛藤という形で問題となっているかもしれないというのがありました。

悩みにどのように対応する?

 ここでは、ケース別にどのように対応したらいいか考えてみましょう。

  • 自分の役割について不安……

 就業まもない方や、大勢の職場などにいる方、上司や会社との定期的な面談などの機会がない方は、自分に対する期待がどんなものかあいまいで分からず、将来も読みづらいと考えるケースが多いようです。そんなあいまいさの問題の解決には、コミュニケーションを活発にすることで対応します。相手のあなたへの期待を教えてもらうか、「自分はこう思う」と相談して、違うところがあればそれが何か教えてもらいます。納得できなければじっくりとその訳を聞きましょう。といっても、常に教えてもらうばかりではなく、その過程を通して自ら洞察する力も付けていきましょう。

  • 多くの役割・期待に溺れそう……

 組織の中である程度年数が過ぎてくると、一番多くの方が悩むのが過剰負荷です。周囲の期待が自分のキャパシティを超えていき、いかんともしがたい。周囲の期待に応えたいと思うほど苦しい、という毎日になっていたりするのではないでしょうか。

  簡単に考えれば、まず重要な人の期待から順に応える。ですがそうすると、重要でない人の期待には応えられないことになります。では、全体に対して部分的に応える。でもこうしていると、相手にはまり能力のない人と思われてしまうかもしれません。

  では、皆さんにお願いしてどう優先順位を付けるか一緒に考えてもらう、はどうでしょうか。そのためには自らの状況をきちんと話せないと誤解を生む恐れもあります。が、きちんと伝え、ともに考えてもらうことで、相手はあなたに対して気付かなかったこともそこで知ってくれるでしょうし、あなた自身が優先順位を付けて行動することも納得してくれるでしょう。

  • 役割の狭間で困っている……

 組織内のある程度の立場にくるとありがちになるのが、役割葛藤です。上司と部下に狭まれて、同僚の間で、また家庭と仕事でなど、相いれない矛盾する2つの期待に悩まされることが多くなってきます。自らに決定権がある場合は、双方の相手に交渉することが必要です

 自らのやりたい・できないなど感情面を含めて意思疎通を図ってください。自分にとって重要と思える双方の期待に矛盾が生じていることを理解してもらうことが必要です。相手に話す時間を持つ、場合によってはこの期待を書き出しておいて目で見て確認してもらうこともよいでしょう。

  整理しようと分かっていても、この手間を取らない方が多いのです。「いわなくても分かってくれよ」は相手に対するあなたの過剰期待ですね。

  期待に、役割に応えるためには、コミュニケーション力を育てておくことも重要なようです。勤務時間の60%がコミュニケーション行動というデータもあります。話す、会議する、相談する、電話する、文章を書く、メールするなど、コミュニケーション力を使って、自らの「能力」を生かすステージをつくりだすというのもありですね。

  役割を明確にして職務の整理を図ることは、組織としても職務の重複を防ぎ、目標を具体的な数値に落とすために大切なことです。昨今では、職務と役割のプランニングこそが組織内の1人1人の力を高め有効に活用するための戦略といわれています。その組織の中で、いかに個々の「能力」を生かし業績を上げ、個人の満足のいくキャリアを提供できるかは組織の側の課題でもあるのです。このマッチングを自ら創造し、戦略的に図っていくことが適応力を高めることにもなるのではないでしょうか。

 「エンプロイアビリティ」は「転職能力」と訳されることもあります。「今の組織でやっていくために」「いつかの転職のために」「今」磨くものはあなたのもとにあるのです。

そしてそれを磨いておくもう1つの理由は「やりたいことをするために」でしょう。自己価値を高める場所は「今」にも十分あるようです。“今”にいかに求めるか。将来のための戦略を実行してみましょう。

筆者紹介

特定非営利活動法人 キャリアカウンセリング協会

関口みゆき

ホテル業の人事・労務・能力開発・退職転進援助制度事務局に勤務。その後リクルートにて就職支援プログラム・カウンセリング・企業開拓などを行いながらGCDF-JAPANキャリアカウンセラー資格を取得。現在特定非営利活動法人キャリアカウンセリング協会にてカウンセラーの育成にかかわるともに大学・自治体・団体などで活動中。



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