ITSSは誰のもの?ITエンジニアはITSSにどう向き合うべきかITエンジニアはITSSにどう向き合うべきか(1/2 ページ)

2006年4月に初めての改訂版が発表され、今後普及が促進されると考えられるITSS(ITスキル標準)。企業での導入が進む中、ITエンジニアはITSSをどう受け止め、どう利用していくべきなのか。

» 2006年05月24日 00時00分 公開
[加山恵美@IT]

最初はITSSのユーザーから

 スキルスタンダード研究所 代表取締役社長 高橋秀典氏は、ITSS(ITスキル標準)の第一人者として多方面で活躍している。もともとはITSSを利用する立場だった。ITSSが初めて発表されたころ、高橋氏は前職である日本オラクルの執行役員で、自社内のシステムエンジニアを統括する役職にいた。ちょうど若手の育成を検討中で、客観的かつ標準的なスキル指標を求めていたところだったため、高橋氏はITSSを肯定的に受け入れた。「これは使えるのではないだろうか」

 2003年、高橋氏はITSSユーザー協会の設立に中心的な役割を果たし、専務理事に就く。これ以外にもITSS利用側から積極的に関与を広げていくが、2005年にはITSSのV2(バージョン2)を策定するIPAの「ITスキル標準バージョン2改訂委員会」の委員にもなる。2006年には「ITスキル標準の普及と啓発の点で指導的役割を果たした」としてIPA賞を受賞。このように高橋氏は利用側から策定側まで、幅広くITSSにかかわっている。

 そもそもITSSとは何か。ITスキルの業界標準を定めた指標で、2002年12月に経済産業省が発表した。IT関連サービスの提供に必要なスキルを11職種と38専門分野(後出のV2では35専門分野に変更)に分類し、それぞれにスキルセットを規定している。さらに各分野におけるスキルを7段階のレベルで示している。ITエンジニアの教育や訓練のための「物差し」としても使用可能だ。

 今年(2006年)4月1日には初めての改訂版ITSS V2が発表された。V2では分かりやすさと使いやすさを重視し、基本構造の明確化やドキュメントの体系化などの改善が加えられた。また、専門分野も35に変更された。

ITSSは誰のためにある?

 ITエンジニアと深い関係があるITSSは、当のITエンジニアにはどう受け入れられているだろうか。

 ITSSに対してITエンジニアが感じる疑問として、いくつか考えられる。まず「自分は得するか」。ITエンジニアのスキルを測る「物差し」は、雇用側の人事や教育部門、またはサービス発注側には都合がいいかもしれない。だが評価される側には得があるだろうか。

 測定の精度はどうだろうか。「適切に測定されるのか」。IT技術は日進月歩だし、会社の枠組みなどもちゃんと考慮して評価がなされるものだろうかという疑問がありそうだ。

 また測定結果をどうするのか。「自社内または特定の団体に技術がどう認定されるのか」。具体的にいえば顧客に対して、または転職の際にアピールできるようなものなのか。名刺に貼るシールや認定証が存在するのか。相手はどう受け止めるのか。昇進には役立つのか。

スキルを測る物差しがないと困ること

 立場を変えて考えてみよう。これまで(または現在も)、ITエンジニアのスキルを測る共通の尺度がなかったため不明確になっていることがある。

 顧客企業からすれば、ITベンダの提案内容や見積もりが適切なのかが判断しにくい。担当のITエンジニアが適任かどうか評価するすべがない。ITベンダ側は、事業計画に合ったスキルを持つITエンジニアが足りているのかどうかが分からない。これは自社の強みや弱みにつながる重要な問題だ。また将来の企業戦略や事業領域を考えたとき、誰をどのように育成するべきかが分からない。

 教育機関は、企業の実務スキル要求や即戦力要求に適した人材をどう育成すればいいかが分からず、手探りとなる。人材にどんな目標設定をさせればいいかも不明確だ。

 だが、最も切実な問題を抱えているのはITエンジニア自身ではないだろうか。現在の実力を客観的に判断する指標がないと、自分のスキルがどれほどなのか分からない。転職する際にも、スキルが証明できないととても不利だ。転職しないにしても、社内での評価や地位が適切なのか判断するすべがない。

 自分の将来像に向け、弱点を克服するには何をすればいいのか。地図や現在位置がなければ、将来歩む道を展望することは困難になる。

 多くの立場の人が手探りの状態だった。ITSSが本来の役目どおり、ITエンジニアのスキルを客観的に測定でき、キャリアデザインに役立てることができるのであれば、多方面で歓迎されるに違いない。

ITの国際競争力を高めることが発端に

 ところで、なぜ2002年に経済産業省のよってITSSが策定されたのか。高橋氏は当時の背景を語った。2000年問題が過ぎると、IT業界には中国やインドの進出が目立つようになってきた。国内の危機感は高まり、ITの国際競争力を強化することが重要な目的に掲げられたという。

 そのためには必要なスキルを的確に身に付けた、質の高いプロフェッショナルを効果的に育成することが課題とされた。だがIT関連スキルは専門化が進んでいたため、効率的な人材育成が困難な状況になっていた。そこでIT関連の人材育成を行ううえでの共通的な枠組みが整備されることになり、ITSSが登場したのだ。

 ITSSを知っている人なら、「キャリアフレームワーク」を目にしたことがあるだろう。横軸に職種区分、縦軸にレベル設定を配置した図で、11の職種と35の専門分野、7つのレベルを示している。この図は深く読み込んでよく理解する必要がある。

図1 キャリアフレームワーク(出典:経済産業省「ITスキル標準V2」2006年4月1日・クリックで拡大します) 図1 キャリアフレームワーク(出典:経済産業省「ITスキル標準V2」2006年4月1日・クリックで拡大します)

 ITSSで定義された職種には、それぞれ概要として専門分野別のレベル範囲と説明があり、専門分野のレベルごとに達成度指標が示されている。例えば職種「プロジェクトマネジメント」の専門分野「システム開発」のレベル4には、「○○の経験がある」のように要求される経験や実績の定義がある。

 さらに職種ごとにスキル領域が示されている。これは職種に共通したスキル項目の定義だ。「プロジェクトマネジメント」なら「統合マネジメント」や「タイムマネジメント」などの項目が並ぶ。こうした項目のレベルごとのスキル熟達度も定められている。スキル項目「統合マネジメント」のレベル4なら「××ができる」などだ。

 ポイントとなる指標は達成度指標とスキル熟達度だ。概してレベルが低い段階ではスキル熟達度が、高い段階では達成度が重視されるようになっている。

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