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» 2006年08月17日 00時00分 UPDATE

自分が変わらない限り、環境は変わらない:「退職理由は繰り返す」のはなぜ?

人事採用に携わっていた筆者は、面接で応募者のさまざまな退職理由を聞いてきたという。退職理由に表れるものとは何なのか。正しい退職理由というものはあるのか。

[鈴木麻紀,@IT]

ITエンジニアのお母さんは病弱?

 「母が病気になり、実家に帰って看病していました」

 何のことか分かりますか? 実はこれ、わたしが前職で採用面接をしていたときに、過去の退職理由としてよく聞いた言葉です。はてさて、ITエンジニアのお母さんは、そんなに病弱なのでしょうか? 東京で働いている息子や娘を呼び戻して看病させるほどとなると、よほどの大病です。

 もちろんそんなわけはなく、「仕事がつらくてつらくて」「会社の方針にどうしても納得がいかなくて」など、ほかの退職理由がある場合がほとんどです。本当にご家族が大病でやむなく、という場合もあります。病気は本当だけれども、退職しなくても休職や時短勤務で看病できたのに、というパターンもあります。この場合、ほかにも退職したいと思う理由があり、ご家族の看病が必要ということが最後の一押しになるようです。

 採用担当もプロですので、これらの退職理由を聞いたとき、その言葉のすべてを額面どおりに受け取るわけではありません。でも、うそだと決め付けるわけでもないのです。表現が難しいのですが、あえて言葉にすると、「その人がそういったという事実を信じる」ということになります。なぜなら、この退職理由をおっしゃる人には、気持ちがとても優しい人が多いからです。“在籍していた会社を悪くいいたくない、でも自分も悪くない、誰も悪くない。この退職は不可抗力、仕方のないことだったんだ”、そんなときにお母さんが病気になるようです。

偽りの退職理由

 「お母さんの病気」は過去の退職理由に多く見られますが、現在働いている会社を辞めるときには、ご自身の体調が退職の理由となる率が高くなります。悲しいことですが、仕事に真剣に取り組みすぎたがために、激務がたたって体調を崩してしまう人が多くいるのです。

 しかしまれに、本当の理由がほかにあるのに、「不可抗力な理由」として自らを病気ということにしてしまう人もいます。一見、穏便に退職する手段のように思えますが、このような偽の理由で会社を辞めようとするのは考えものです。本当に体調を崩してやむなく退職する人に対して失礼ですし、診断書の提出を求められてつじつまが合わなくなり円満退社できなくなるなど、しっぺ返しがくる可能性があるからです。

 以前私の知人で、本当は転職が決まっているのにいい出せず、理由がはっきりしないために激しい引き止めにあい、困り果てた揚げ句に「膵臓(すいぞう)の重い病気にかかった」とうそをついて会社を辞めようとした人がいました。彼はこれで会社もあきらめてくれるだろうと思ったのですが、実際は逆効果となりました。会社は彼の体調をいたく心配し、休職療養の手配をしてくれたのです。しかも、社長直々に膵臓の権威といわれるお医者さまを紹介してくれるという話にまでなってしまいました。うそだといい出せなくなった彼はどうしようもなくなり、失そうしてしまいました。もちろん、決まっていた転職もパーです。

正しい退職理由とは

 ここで質問です。あなたは、会社が新しい技術を取り入れようとせず、既存の技術でできる仕事しか取ってこないため、このままでは時代に取り残されてしまうのではないかと心配していたとします。新しい技術を取り入れる必要性を何度も上に掛け合い、独学で得た知識を基に社内で勉強会を開くなどの働き掛けをしてきたのですが、取り合ってもらえず、無念の思いを抱えて退職することになりました。こんなとき、あなたが退職届に書くべき理由は次のうちどちらでしょう?

A.一身上の都合

B.退職までの経緯を記し、方針の再考を促す


 答えはAです。最後だからこそいままでの思いの丈を伝えたい気持ちは理解できるのですが、ここはグッとこらえるのが別れのマナーです。同僚に退職理由を聞かれたときも、会社の不満をいうべきではありません。残される立場からすると、自分がこれからも働く会社のことを悪くいわれるのは、決して気持ちのいいものではありませんから。

 では、履歴書や職務経歴書に書く場合はどうでしょうか。答えは同じくA。とはいえ、面接の席などで具体的な内容を聞かれたときには説明する必要があります。このとき、誰かの病気などの偽りの理由をいう必要はありません。本当の退職理由を伝えましょう。ただし、同じ出来事でも、あなたがどのように説明するかによって印象は大きく変わります。

 元の会社への恨みつらみをいうのではなく、その状況であなたが何をしてきたのか、転職先ではこの教訓を生かしてどんなことをしたいのかを主張するのです。過去を振り返るだけではなく、これからの展望も語ることができれば、マイナスの出来事もプラスにすることができます。逆に、このようにプラスに考えられない状態であるのなら、まだ転職活動はすべきではないともいえます。

退職の輪廻(りんね)を断ち切る

 「退職理由は繰り返す」といわれます。職場の人間関係が理由で退職した人はその後も人間関係で苦労をするし、キャリアアップするために転職した人は、次も転職することでキャリアアップしようとします。解雇された経験のある人はなぜかその先も解雇されやすく、病弱なお母さんは子どもの仕事が行き詰まるたびに病気になります。

 なぜ人は同じ理由で退職を繰り返すのでしょうか? それは、退職の本当の理由は退職者本人にあるからです。多少環境が変わっても、あなたが変わらないかぎり、あなたの退職理由は、本当の意味では解消されません。

 もし、過去に好ましくない理由で退職を繰り返してきたのなら、それを断ち切るのはあなた自身です。以前の退職時と同じ境遇に陥ったら、今度は退職しないでそれを乗り越える方法を考えてみましょう。「最悪、会社を辞めても構わない」という覚悟で、いままでやらなかったことに目を向けてみたら、意外なところに解決への糸口が見つかるかもしれません。

 無事に難関をクリアできたら、次は再び同じ境遇に陥らないように、日ごろから予防するだけです。前のステップで問題の解決方法が分かっているのですから、予防はその半分の労力で済むことでしょう。

 会社という組織で働く人なら、いつかは必ず退職をする日を迎えます。そのときに、周囲もあなた自身も納得できる理由で退職できるよう、いまを誠実に一生懸命生きてもらいたい、と心から願っています。

筆者紹介

アイティメディア

鈴木麻紀

GCDF-Japanキャリアカウンセラー。ITサービス系人材ビジネス会社で、人事採用とキャリアカウンセリングに約6年間従事。2004年春、アットマーク・アイティ(現アイティメディア)入社。現在@ITジョブエージェントを担当している。


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