ブロードキャストアドレスの種類を知るTech TIPS

ブロードキャストとは、複数のコンピュータに対して一斉に送信する動作のことである。このとき利用されるブロードキャストアドレスには、リミテッドブロードキャストとディレクティッドブロードキャストの2種類がある。これらの違いは?

» 2012年03月09日 05時00分 公開
[打越浩幸デジタルアドバンテージ]
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連載目次

対象OS:Windows NT/Windows 2000/Windows XP/Windows Server 2003


解説

 ブロードキャストは同報通信とも訳され、ネットワーク上の複数のコンピュータに対して、一斉にデータを送信するために利用される(通常は受信確認は行わず、一方的に送信するだけである)。例えばWindows OSでは、システム起動時に自分自身のコンピュータ名をブロードキャストして、ほかのコンピュータに自分自身の存在を知らせるようになっているし(ほかのコンピュータと名前が衝突しないかどうかを確認するためでもある)、RIPというルーティングプロトコルでは、ネットワークのルーティング情報を通知するために利用している。

 ブロードキャスト通信(以下、IPレベルでのブロードキャスト通信を取り上げる)を行うためには、送信先アドレスを「ブロードキャストアドレス」という特別なアドレスに設定してパケットを送信する。どのコンピュータが通信相手になるか分からないため、特定のIPアドレスだけを対象に送信することはできないからだ。ブロードキャストアドレスには次のようにいくつか種類があるが、本TIPSではそれらの違いについて解説する。

●リミテッドブロードキャストアドレス(オール1ブロードキャストアドレス)

 これはすべてのbitが1となっているIPアドレスのことである。つまり「255.255.255.255」というIPアドレスがリミテッドブロードキャストアドレス(limited broadcast addres)となる。

 このアドレスに対してデータをブロードキャスト送信すると、実際には、そのネットワークセグメント(イーサネットなら、1つのイーサネットセグメントのこと)に接続されているすべてのコンピュータに対してデータが送信される。ルータを介して接続されているほかのセグメントへは送信されない。ローカルのネットワークセグメント上のコンピュータだけが送信対象となる。

●ディレクティッドブロードキャストアドレス

 これは、ネットワークアドレス部はそのままにして、ホストアドレス部だけをオール1にしたアドレスのことである。例えば「192.168.1.0/255.255.255.0」(これは192.168.1.0/24と同じ。この表記方法については関連記事参照)というネットワークアドレスがあったとすると、このホストアドレス部(下位の8bit)をすべて1にした、「192.168.1.255」というIPアドレスがディレクティッドブロードキャストアドレス(directed broadcast addres)となる。

ネットワークアドレスとホストアドレス

 IPv4で使用される32bitのIPアドレスは、サブネットマスク値を使って2つに分けることができる。このうち、サブネット値が1の部分をネットワークアドレス部、0の部分をホストアドレス部という。通常は、イーサネットの1つのセグメントが1つのネットワークアドレスになるようにネットワークを設計する。各ネットワークセグメント上には異なるホストアドレスを持つコンピュータを配置する(次の記事も参照)。

 例えば192.168.1.0/255.255.255.0というネットワークがあるとすると、このネットワーク上には192.168.1.1〜192.168.1.254という、最大254台のコンピュータを配置できる。


 このアドレスに対してブロードキャスト送信すると、「192.168.1.0/255.255.255.0」というネットワークアドレスを持つすべてのコンピュータが通信対象となる。特定のネットワークアドレスに向けて(directして)送信するので、こう呼ばれる。一般的にはこちらのブロードキャストの方が多く使われているようである。

●オール0ブロードキャストアドレス

 これは現在では使われなくなった古い形式のブロードキャストアドレスである。リミテッドブロードキャストアドレスもしくはディレクティッドブロードキャストアドレスにおいて、(2進数の)1ではなく0を使ったものであり、0.0.0.0もしくは172.16.1.0/255.255.255.0などのアドレスが該当する。現在では互換性のためにのみ存在し、使われることはない。

●リミテッドブロードキャストとディレクティッドブロードキャストの違い

 リミテッドブロードキャストとディレクティッドブロードキャストは似ているが、複数のネットワークアドレスやネットワークセグメントを利用していると、その差がはっきりする。

タイプ あて先 意味
リミテッドブロードキャスト ローカルのネットワークセグメント ・同じローカルのネットワークセグメントに接続されているすべてのコンピュータに対するブロードキャストになる。
・ネットワーク階層モデルで言えば、同一の物理層(第2層)媒体に接続されているすべてのコンピュータに対するブロードキャストになる。
・ネットワークアドレスには関係なく、現在接続されている(イーサネットなどの)ネットワークセグメント上のすべてのコンピュータを対象とする。
・ルータを介したほかのネットワークへは伝播しない。
・ローカルネットワークセグメント上に複数のネットワークアドレスが存在している場合は、それらすべてが対象となる
ディレクティッドブロードキャスト 指定されたネットワークアドレス ・指定されたネットワークアドレスを持つすべてのコンピュータに対するブロードキャストになる。
・ネットワーク階層モデルで言えば、ネットワーク層(第3層)レベルで同じネットワークアドレスを持つコンピュータ全体に対するブロードキャストになる。
・指定されたネットワークアドレスがローカルのネットワークセグメントではなく、ルータを介してつながっている先にあるならば、そこのネットワークセグメントまでルータによってパケットが運ばれ(ブロードキャストのルーティングが許可されている場合のみ)、さらにルータによってそこでブロードキャストされる。ローカルではブロードキャストされない。
・ローカルネットワークセグメント上に複数のネットワークアドレスが存在している場合は、指定されたネットワークアドレスを持つコンピュータのみが対象となる。
2種類のブロードキャストタイプの違い

 つまり、リミテッドブロードキャストは、ローカルのネットワークセグメントのみがブロードキャストの対象、ディレクティッドブロードキャストは(そのネットワークがどこにあろうとも)指定されたネットワークアドレスのみがブロードキャストの対象ということである。

 余談であるが、例えばpingコマンドを無理矢理実行すると、次のような違いが出る(このようなpingの使い方は本来は正しくない)。

C:\>ping 255.255.255.255 (1)
Ping request could not find host 255.255.255.255. Please check the name and try again.

C:\>ping 192.168.1.255 (2)

Pinging 192.168.1.255 with 32 bytes of data:

Reply from 192.168.1.168: bytes=32 time<1ms TTL=64
Reply from 192.168.1.168: bytes=32 time<1ms TTL=64
Reply from 192.168.1.168: bytes=32 time<1ms TTL=64
Reply from 192.168.1.168: bytes=32 time<1ms TTL=64

Ping statistics for 192.168.0.255:
    Packets: Sent = 4, Received = 4, Lost = 0 (0% loss),
Approximate round trip times in milli-seconds:
    Minimum = 0ms, Maximum = 0ms, Average = 0ms



 (1)はリミテッドブロードキャストアドレスへのpingであるが、実はpingではこのようなアドレスへの送信は禁止されているので、(送信前に)エラーとなっている。

 (2)はディレクティッドブロードキャストアドレスへのpingであるが、どこかのコンピュータ(この例では192.168.1.168)から応答が戻ってきているように表示されている。実はこれ以外にも多数のコンピュータから応答が戻ってきているのだが(arpコマンドやネットワークモニタなどで確認できる)、このようなpingとそれに対する応答の挙動は定義されていないので、結果は不定である。この方法では、ローカルのネットワークでなく、ルータで接続された別のネットワークへpingすることができる。

■更新履歴

【2012/03/09】同一ネットワークセグメント上に複数のネットワークアドレスが存在する場合の挙動を、より詳細に記述しました。

【2007/01/06】初版公開。


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