“リッチクライアント”に至るまでの軌跡と現在(いま)いまさら聞けないリッチクライアント技術(6)(1/3 ページ)

» 2007年11月26日 00時00分 公開
[江原顕雄@IT]

連載名にある、“リッチクライアント”ってそもそも何?

 @ITではいろいろなWeb技術やサービスを取り上げた記事が満載です。サイトマップを見ると、Windowsサーバを使ったシステム構築について書かれた「Windows Server Insider」やJavaに関する記事が満載の「Java Solution」など、技術によっていろいろなフォーラムに分かれています。この「いまさら聞けないリッチクライアント技術」シリーズは、「リッチクライアント & 帳票」というフォーラムにあります。このフォーラムでは、AjaxやFlex、Web API、などの話題を取り上げています。

図1 「リッチクライアント & 帳票」フォーラムのロゴ 図1 「リッチクライアント & 帳票」フォーラムのロゴ

 今回取り上げるテーマは、このフォーラム名の一部になっている“リッチクライアント”についてです。名前はよく聞きますが、“リッチクライアント”とはいったいどんなものなのか? 見ていきましょう。

“リッチクライアント”の定義とは?

 リッチクライアントの英語表記は「rich client」です。この「rich」は「今日は給料日でリッチなんだよな〜」で使う、「富んだ、豊かな、お金持ち」という意味の「リッチ」ですね。「client」はもちろん「サーバ・クライアント」でおなじみのクライアントです。「リッチ」も「クライアント」も意味は分かりますが、“リッチクライアント”とつなげてしまうと、なんだか意味が分かるような、分からないような用語になってしまいます。「豊かなクライアント」?…… この「豊かな」が何を意味しているか? が今回のキーワードになります。

はっきりした定義はない!

 さて、ここまで説明しておいて恐縮なのですが、実は“リッチクライアント”には正確な定義がありません。そのため、いろいろな意味で使われることが多く、知らない人にとって「何となくイメージできるけど、はっきりと説明ができない」という原因になっているようです。

 はっきりと定義がない“リッチクライアント”ですが、この記事では“リッチクライアント”は「2003年後半ごろ出現した、ECサイトや業務システム構築など企業システムに使われるRIA(リッチ・インターネット・アプリケーション)としての“リッチクライアント”」についての説明をします。

過去のサーバ・クライアント技術から振り返る

 なぜ、“リッチクライアント”がよく取り上げられるのか? その利点は何なのか? をここでは解説しましょう。リッチクライアントが人気な理由は、過去の企業で利用されていたサーバ・クライアント技術、特にクライアント技術の変遷を見ればよく分かります。

 クライアントの変化は、主に次の4つの時代に分けることができます。

表 クライアント技術の歴史
時/年代 概要
〜1980年代ごろ 「メインフレーム」時代のダム端末
1990年代初期ごろ〜 「クライアント/サーバモデル」時代のファットクライアント
1990年代中ごろ〜 Webアプリケーション時代のHTMLクライアント
2003年後半ごろ〜 “リッチクライアント”(RIA)
図2 クライアント技術の相関図(出典:野村総合研究所) 図2 クライアント技術の相関図(出典:野村総合研究所)

入力・表示だけの「メインフレーム」時代

 1960年代に出現し、1980年代に全盛期を迎えた企業の基幹システムを運用する大型コンピューターが「メインフレーム」です。データの保存や演算はすべてサーバサイドで行われ、クライアントからは入力や閲覧が可能でした。が、基本的にテキストベースの入力・表示しかできず(「ダム(Dumb)端末」と呼ばれた)、操作性も低いためユーザーはトレーニングを受けないとオペレーションができませんでした。

ダム端末の3行まとめ

  • コストが非常に掛かる
  • 操作性が非常に悪い
  • 表現力がとても悪い

高機能なクライアントが出現した「C/Sモデル」時代

 1990年代初頭から、クライアントPCの性能が格段に進歩し、サーバサイドだけでなくクライアント側でもデータの加工や保存ができるようになりました。このC/S(クライアント/サーバ)モデルにおけるクライアントのことを「ファット(fat、太った、大きい)クライアント」と呼びます。サーバ側からデータを受け取って、クライアントマシンの表計算ソフトでデータを入力したり、キレイなグラフを作成して加工し、サーバ側にデータ送信するといった形態です。またメインフレーム時代と違って、GUIのアプリケーションはとても操作性が良く、使いやすいものでした。

 こんないいことずくめのC/Sモデル時代ですが、大きな欠点もあります。それはお金と手間が掛かることです。

 まず、クライアントマシンは、表計算やワープロソフトなどの各種アプリケーションが動かせるような性能がないといけません。また例えば、表計算ソフトを多数のクライアントにインストールすれば、膨大なソフトウェア費用が発生します。さらに、たくさんのクライアントマシンに表計算ソフトをインストールする手間、表計算ソフトに脆弱(ぜいじゃく)性が発見されたときの修正パッチを当てる手間、クライアントマシン内にバージョンの違う表計算ソフトが混在し、そのデータ間で互換性がない場合の対策…… などなど企業システムを運営していくうえでこれらのコストと手間はばかにできないものでした。

「ファットクライアント」の3行まとめ

  • コストと手間が掛かる
  • 操作性はとても良い
  • 表現力は良い

 引き続き次のページでは、クライアント技術の歴史について解説し、現在「戦国時代」状態で活躍中のリッチクライアント技術たちも紹介します。

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