「人物相関図」を描いてみよう――3C分析経営戦略に学ぶ自分戦略(1)

経営戦略に使われるフレームワークにはいろいろある。ただ単にその定義を暗記するだけではなく、実際に活用する方法はないだろうか。この連載では毎回1つのフレームワークを取り上げ、それを自分戦略に応用する方法を考える。

» 2007年12月26日 00時00分 公開
[堀内浩二@IT]

 こんにちは、堀内浩二です。

 「自分戦略をつかめ」。これは、2001年5月に@ITの「Engineer Life」フォーラムが設立されたときに掲げられたスローガン。2003年2月、その言葉と心意気を引き継いで「@IT自分戦略研究所」がスタートしたとき、藤村厚夫代表はこう振り返っています。

その際、念頭にあった「自分戦略」のイメージとは――。一般に企業や組織が、その向かうべき分野(ビジョン)を定め、それをいかに達成するかという方法論議が「戦略」なのだとすると、いままさに「ITエキスパート1人ひとりが、自分自身のための戦略を持つべき」というものでした。

「自分戦略」とは何か(1) 「外側の尺度」に振り回されない自分を持て


 組織が戦略を持つように、個人も戦略を持とう。当研究所の根底にはこの発想があります。わたしも、担当するコラム「自分戦略を考えるヒント」で、時々経営戦略の考え方を借りてきています。

 この連載では、経営戦略でよく使うフレームワークを丸覚えするのではなく、それがどのような思考を促しているかに注目し、それを自分戦略に活用する方法を考えてみます。第1回の今回は、「事業分析の3C」を取り上げてみたいと思います。

3C分析を自分戦略に生かす

 そもそも、3Cとは何でしょうか。すでに@IT内に豊富なコンテンツがありますので、それを使って勉強しましょう。まずは@IT自分戦略研究所の「『問題解決力』を高める思考スキル(7) 構造的に考える:フレームワークを活用する」から。

3Cとは市場・顧客(Customer)、競争相手(Competitor)、自社(Company)を指し、この3つの視点から、まずは大まかに事業環境の全体像を見ようとするものです。
「問題解決力」を高める思考スキル(7) 構造的に考える:フレームワークを活用する

 何だか当たり前のように感じます。こういった経営フレームワークは、ソフトウェア業界でいえばデザインパターンのようなものです。もし、何の手掛かりもない状態で「事業環境の分析をしろ」といわれたとしたら、「そもそも何を分析することが、事業環境を分析することになるのか」というところから考えなければなりません。

 3Cを自分戦略に生かすことは、この記事ですでに提案されています。

3Cのような「企業経営」に使うフレームワークは「自分経営」に応用することができます。キャリアを考えようとすると、自分は何をやりたいのか、何ができるのか……など、往々にして自分のことしか考えず、競合や市場の観点を忘れがちです。しかし、働いてお金を稼ぐということは、自分(自社)の提供する価値に対して雇い主(市場)がお金を払うということです。そして求人倍率や給料は、自分と同じような労働力を持つ人たち(競合)とのバランスで決まります。キャリアを考えるうえでは、これらの要素を考えないわけにはいかないでしょう。「問題解決力」を高める思考スキル(7) 構造的に考える:フレームワークを活用する


 この記事より前に書かれた、「最新の人材サービス活用法(7) キャリアを企業戦略に例えて考える」にも同様の解説がありますので、読んでみてください。身近な文脈に置き換えて解説している記事を読むことで、より理解が深まると思います。

 もう1つ、「情報マネジメント用語事典」の3Cモデルの項も見ておきましょう。事典らしく(?)難しい記述が多いですね。さっと読み流していくと、「3Cコンセプトのオリジナルを考案したのは経営コンサルタントの大前研一」だったとあります。ふーむ、そうだったのか。

 それはそれとして、今回注目したいのは、大前研一氏の論文を引用しているこの部分です。

同著では、「およそいかなる経営戦略の立案に当たっても、三者の主たるプレーヤーを考慮に入れなければならない」として、立場の異なる三者の視点で分析を行って戦略を立案する方法と効用を解説し、この三者の相対的で相互に影響し合う関係を「戦略的三角関係(strategic triangle)」と呼んでいる。3Cモデル − @IT情報マネジメント用語事典


要するに……「人物相関図」

 大事なのは「主たるプレーヤー」を特定し、「相対的で相互に影響し合う関係」を考えるという、アプローチの部分。事業環境を考えるときには、それが「市場・顧客(Customer)、競争相手(Competitor)、自社(Company)」になるということです。

 であるならば、「3Cは、Customer、Competitor、Company……」を覚えるのも悪くないですが、「戦略を立てるときには、主たるプレーヤーの相関図をしっかり作る」ということを覚えた方が、本質的ですし応用が利きそうですね。

 「主たるプレーヤーの相関図」……というと、ドラマの解説記事なんかで見掛ける「登場人物の相関図」を思い出します。@ITで最も有名なのは、@IT情報マネジメント「目指せ!シスアドの達人」の登場人物関係図でしょう。

3C分析を2つの視点で活用する

 3C分析からの学びは、大きく2つあります。1つ目は自分(自社)を取り巻く環境を、「市場・顧客(Customer)、競争相手(Competitor)、自社(Company)」という3つの要素を軸として考えること。2つ目は「戦略を立てるときは、主たるプレーヤーの相関図をしっかり作る」べし、ということ。

 1つ目については、マクロな視点で「自分の市場価値を高めるには……」と考える際には有効でしょうね。上で引用した記事に上手にまとまっています。

 2つ目については、ミクロな視点で「自分はこの方向で行くべきか?」と考える際に威力を発揮しそうです。例えば、中堅システムインテグレータにお勤めのAさんが、製造業チームから金融業チームへの異動を考えているとして、以下のような使い方はどうでしょうか。

  1. 中央に、「製造業チームから金融業チームへの異動」と書く。これを成功させる戦略を考えるために、環境分析をしたい
  2. そのアクションに影響を及ぼす人物や組織を洗い出す(異動元および異動先の上司、部、会社、家族、顧客など。個人と組織が交ざってもOK)
  3. 主たるプレーヤーを絞り、相関図を描いてみる(自分の異動との利害関係は? また、それぞれの関係は?)
  4. 障害は何か、後押ししてくれるのは何かを考え、書き加える
  5. 異動を成功させるためのポイントをいくつかに絞って、戦術を考える

 3C分析には、「主たるプレーヤー」の「相対的で相互に影響し合う関係」をとらえることで、全体を俯瞰(ふかん)的に考えられるという強みがあります。3つのCにこだわらず、「主たるプレーヤーの相関図を作ってみる」と理解しておけば、活用の幅が広がりそうですね。

筆者紹介

堀内浩ニ

アーキット代表取締役、グロービス経営大学院 客員准教授。アクセンチュア(当時アンダーセンコンサルティング)にて、多様な業界の基幹業務改革プロジェクトに参画。シリコンバレーに移り、グローバル企業のサプライチェーン改革プロジェクトにEビジネス担当アーキテクトとして参画。帰国後、ベンチャー企業の技術および事業開発責任者を経て独立。現在は企業向けにビジネスリテラシー研修を提供するほか、社会人個人の意志決定支援にも注力している。



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