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» 2008年03月27日 00時00分 UPDATE

エンジニアも知っておきたいキャリア理論入門(2):スーパー理論でキャリアの全体像を考えよう (1/2)

本連載は、さまざまなキャリア理論を紹介する。何のため? もちろんあなたのエンジニア人生を豊かにするために。キャリア理論には、現在のところすべての理論を統一するような大統一理論は存在しない。あなたに適した、納得できる理論を適用して、人生を設計してみようではないか。

[松尾順,シャープマインド]

 今回から、代表的なキャリア理論を紹介していきます。最初に取り上げるのは、米国のキャリア研究者、ドナルド・E・スーパー(Donald E Super)の理論です。これはキャリア理論の「古典」とも呼べるもの。50年以上前に体系化されたものですが、キャリアとは何なのかを包括的に説明していて、米国以外の国でも、また時代が変化しても十分に通用する普遍性の高い理論です。

スーパー理論の要点

 スーパーは、キャリアを大きく2つの視点でとらえました。1つ目は、「ライフステージ」です。人生を時間軸で5つの段階に分け、それぞれの段階で人としての特定の課題がある、そして、その課題に取り組むことを通じて人間的な成長を遂げていくということをいっています。2つ目は、「ライフロール」です。私たちは、人生の中でさまざまな役割(ロール)を持っています。働く人であり、子(親との関係で)であり、親(自分の子との関係)であり、配偶者(結婚相手との関係)でありと、複数の役割を並行して持ちながら生きています。自分は、いまどんなライフステージにいるのか、またどんなライフロールを持っているのかを考えるのは、これからのキャリアを設計するに当たって大変役に立ちます。

 スーパーは、人はキャリアを通じて、「自分らしさ」を発揮しようとすると指摘しました。正確には、スーパーは「自己概念」という言葉を使っています。これは、「自分は何者か?」「自分は一体どういう存在なのか?」「他人は自分をどう見ているか?」という自分に対する自分自身、および他人が見た自分のイメージのことです。私は、「自己概念」を分かりやすくいい換えるなら、前述したように「自分らしさ」のことだと考えています。「自分らしさ」を発揮するというのは、日々の生活で、「自分は何を大切にするか」ということを基準に、どのように行動するかということです。

 より具体的には、「自分らしさ」は、学生、職業人、配偶者など、人生の中でのさまざまな役割、すなわち「ライフロール」を演じる中で形成されていくものです。

 また、スーパーはキャリアにおける「価値観」の重要性を説きました。人は、仕事をする職業人として、あるいは、ほかの役割を通じて、自分が重要と考える価値観を達成しようとするというものです。

5つのライフステージとは何か

 スーパーは、私たちの人生を次の5つの段階に分けました。そして、それぞれにキャリアの視点からの発達課題(「職業的発達課題」)があるとしています。つまり、スーパーは、「キャリアは一生涯を通じて発達していく」という考え方をその理論の基盤に置いているのです。

段階 時期 職業的発達課題
成長段階 0〜15歳 自分がどういう人間であるかということを知る。職業的世界に対する積極的な態度を養い、また働くことについての意味を深める
探索段階 16〜25歳 職業についての希望を形作り、実践を始める。実践を通じて、現在の職業が自分の生涯にわたるものになるかどうかを考える
確立段階 26〜45歳 職業への方向付けを確定し、その職業での自己の確立を図る
維持段階 46〜65歳 達成した地位やその有利性を保持する
下降段階 60歳以降 諸活動の減退、退職、セカンドライフを楽しむ
スーパーが分けた人生の5段階。本表は、「厚生労働省労働研修所 2002 職業指導の理論と実際」より。松尾加筆・修正。なお、ここでは、探索段階の年齢は、もともとスーパーの理論のとおりに記述。理由は後述

 この拙文を読んでいるあなたはおそらく、「探索段階」(16〜25歳)、または「確立段階」(26〜45歳)のどちらかのライフステージにいることと思います。

 冒頭、スーパー理論は普遍性が高いと申し上げたものの、この時期の区分は若干違和感がありますね。当理論が生まれたころは、中学卒業後に働き始める人が米国でも日本でも多数いましたから、キャリアの探索段階が16歳から始まったわけです。

 しかし現代の日本では、多くの方は大学・短大・専門学校などの卒業後に社会人になりますから、探索段階は20〜22歳と昔より始まりが5歳ほど遅くなります。従って、より現状に近いステージ区分は、探索段階(20〜30歳)、確立段階(31〜45歳)というところでしょう。

 さて、このライフステージから私たちが得られる最も大きな示唆は、社会人になって最初の約10年間、つまり20代のころは、「自分に適した職業が何か」を実際に働くことを通じて見極める時期であるということです。

 就職活動のとき、必死で業界研究を行い、また自己分析を行って、ベストと思える会社に入社し、希望職種に就けたとしても、それが本当に自分に適しているかどうかはやってみないと分からないわけです。

 その意味で、あまり特定の仕事に固執することなく、さまざまな種類の仕事に積極的に取り組んでみることが探索期には必要なことなのです。ただし、つまみ食いはだめですよ。ちょっとやってみただけで、「自分に向いていない」と早急に判断して、仕事をポンポン変わるのは間違っています。

 まずは自分が受け持った仕事をとことんやり抜いてみる。それでも相変わらず「自分にはしっくりこない」と感じるようだったら、むしろ積極的に職種転換をすべきですし、転職も視野に入れるべきでしょう。そうして、探索段階におけるさまざまな試行錯誤の中から、やっていると楽しい、時間を忘れて没頭してしまうそんな仕事に出合えたら、そこからはその仕事を通じて自分らしさをさらに追求していく。これが「確立期」です。

 なお、スーパーは、1980〜90年代の著作において、今後は成長段階、探索段階から確立段階を少し経て、再び探索段階に戻り、再び新たな職業選択を行うというライフステージを経験する人が普通になる可能性を指摘しています。本来確立期である30歳以降のキャリアチェンジも一般的になることを意味していると思われますが、欧米、日本とも実際そのようになってきていますね。

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