連載
» 2008年09月30日 00時00分 公開

味わい深いシステムを開発するための業界知識(1):保険大国日本で保険のシステムを作るコツ (1/3)

ITエンジニアの日々の業務は、一見業界によって特異性がないようだ。だが、実際は顧客先の業界のITデマンドや動向などが、システム開発のヒントとなることもある。本連載では、各業界で活躍するITコンサルタントが、毎回リレー形式で「システム開発をするうえで知っておいて損はない業務知識」を解説する。ITエンジニアは、ITをとおして各業界を盛り上げている一員だ。これから新たな顧客先の業界で業務を遂行するITエンジニアの皆さんに、システム開発と業界知識との関連について理解していただきたい。

[池田淳,アクセンチュア]

はじめに

 今回からITエンジニアのための業界知識をリレー連載でスタートします。毎回、各業界を担当しているアクセンチュアのコンサルタントが、業界の基礎知識、業界動向、ITとのかかわりについて、自身の経験を基に伝えていきます。しばらくの間、お付き合いのほどよろしくお願いします。

 今回は、私がシステム開発で携わってきた「保険業界」を紹介します。ですがその前に、連載第1回ということで、前段では「ITエンジニアが業界知識を学ぶ意義とは何か」「業界知識はどれほど必要か」に触れておきたいと思います。

ITエンジニアに業界知識は必要か?

 皆さんは、他業界についてどれくらいの知識をお持ちでしょうか? ITエンジニアは「IT業界の人」です。一方で、ITはいろいろな業界で幅広く利用され、各業界の発展に深くかかわっているという点で、ITエンジニアは、ITが使われている、業務やプロジェクトでかかわっている「○○業界の人」でもあるわけです。

 IT業界は、下請け、孫請けというように階層化されていることが多く、お客さまと直接コミュニケーションが取れないまま、決められた仕様をシステムに落とすことに専念してしまい、業界や業務についての知識をなかなか十分に身に付けられない人も多いのではないかと思います。

 仕様書や設計書は、決まったことについては書かれていても、なぜそう決まったのか、最終的にお客さまが実現したいことが何なのかについて書かれていることは少ないのではないでしょうか? いざシステムを構築すると、行間にある(設計書には書かれていない)隠れた要件を満たすことができず、作業の手戻りが発生してしまうことも少なくありません。

 もちろん、すべての要件を推測することはできませんが、あらかじめその業界の知識や業務の知識を持っておけば、隠れた要件を読み取ることができ、手戻りを減らすことができるようになるかもしれません。

 上記に限らず、業界知識はさまざまな場面で有用です。「職業の三要素」という言葉がありますが、職業とは、(1)収入を得て生計を立てる手段であり、(2)社会の中での役割を担って社会に貢献する場であり、(3)自分の能力、実力を発揮して自己を実現する場であるそうです(Wikipediaより)。IT業界は「新3K」果ては「7K」といわれる昨今ですが、自分が担っている業界を理解することで、自分と社会のつながりを実感でき、仕事のやりがいにつながるのではないでしょうか? 業界知識や業務知識は、IT業界に籍を置く人にとって、とても重要だといえます。

いまかかわっている業界の知識だけでいいのか?

 いまかかわっている業界について詳しいに越したことはないですが、それ以外の業界(他業界)についてはどうでしょう?

 特定の最新技術やソリューションを担当している人は、それらをいろいろな業界で利用してもらうために、幅広い業界理解が必要です。

 しかし、そうでなくとも、ITエンジニアは各業界の栄枯盛衰で担当する業界が大きく変わることがあります。過去に一緒に仕事をしたベテランSEに話を聞くと、「いまは金融をやっていますが、昔は製造業のシステムをやっていました」ということはよくあります。

 皆さんの中には、「私はずっとXX社の仕事だけでもう飽きた〜。転職したい〜!」という人もいるかもしれませんが、これから先キャリアを積む中で、いやが応でもまったく新しい業界に移る可能性はあると思います。

 幅広く業界や業務を見ることができるのは、IT業界で仕事をする大きな魅力・特徴ともいえます。ITエンジニアであるからこそいま自分が担当している業界のみならず、幅広い業界について見識を広めておくといいと思います。すぐに仕事の役に立つものではないかもしれませんが、今後新しい業界のプロジェクトを担当するときや、少し離れた立場からいまの業界を見るときの手助けになると思います。

どこまでの知識を持つべきか?

 ITエンジニアは、どの程度業界・業務について知っている必要があるのでしょうか? 日ごろ、プログラマやSEがシステム構築を行う中で目にする業務は、非常に複雑で細分化されたものであることが多いでしょう(例えば、「XXのバリデーションは、XXとYYの合計がZZ以下であること」など)。

 そういった詳細な業務は、同じ業界であっても企業ごとにまったく異なる場合がほとんどです(詳細な業務知識は、実際に各企業の仕事に携わらないと分からないところが多いため、本連載では割愛します)。

 ITエンジニアがプロジェクトにかかわるに当たっては、基本的かつ全体的な業界・業務の知識と、それらを業務に活用する力が必要です。細かいことに気を取られ、全体が把握できていない状態を「木を見て森を見ず」といいます。ITエンジニアには、1つ1つの細かな要件や仕様(=「木」)と、基本的かつ全体的な知識(=「森」)を一連のものとしてとらえる力が求められます。つまり、「木も見て森も見る力」が必要なのです。

 本連載は、まだ業界・業務知識になじみが薄い人、今後新しい業界にかかわる可能性がある人に向けて、さまざまな業界の基本的かつ全体的な知識をお届けします。

 それでは、次のページで私がシステム開発でかかわってきた「保険業界」について紹介します。

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