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» 2008年11月19日 00時00分 UPDATE

エンジニアも知っておきたいキャリア理論入門(7):クランボルツ理論の「計画された偶然」 (1/2)

本連載は、さまざまなキャリア理論を紹介する。何のため? もちろんあなたのエンジニア人生を豊かにするために。キャリア理論には、現在のところすべての理論を統一するような大統一理論は存在しない。あなたに適した、納得できる理論を適用して、人生を設計してみようではないか。

[松尾順,シャープマインド]

 今回は、キャリア理論の中でも最先端の考え方である「計画された偶発性理論」(Planned Happenstance Theory)をご紹介しましょう。当理論の提唱者は、スタンフォード大学 教育学・心理学教授、J.D.クランボルツ氏です。

 クランボルツ氏は、直近では2006年6月に来日し、日本での講演を数回行っています。私もそれらの講演の1つに出席し、同氏から直接、計画された偶発性理論についての詳細な解説を聞く機会がありました。

「計画された偶発性」と似たようなキャリア理論について知りたい方は、以下の記事も参考になります
行動しながら考える。イバーラ博士の型破りな転身術
ブリッジズ氏の過渡期を乗り切るトランジション理論
金井壽宏教授が提唱する「節目」のキャリア論


計画された偶発性理論とは?

 「計画された偶発性理論」。ぱっと聞いただけではピンとこない言葉ですよね。「計画」(plan)と「偶発」(happenstance)は、意味的に対極にある言葉だからでしょう。しかし私は、日本人なら誰でも知っている、ある「ことわざ」で、この理論を端的に説明できると思っています。

 そのことわざとは、「犬も歩けば棒に当たる」です。このことわざには良い意味と悪い意味の両方がありますが、計画された偶発性理論の本質を表しているのは良い意味の方です。すなわち、「とにかく行動してみれば、思わぬ幸い(チャンス)に出合うことがある」ということです。

 もちろん、行動したからといって、いつも「幸い」に出合うとは限りません。時には失敗したり、不運に見舞われることもあるでしょう。だからといってじっと動かないままでは、何も起きません。さまざまなことに関心を持ち、失敗を恐れず積極的に動くことで、自分の人生やキャリアにつながるチャンスを得られるのです。

 つまり、自らが計画して起こした行動(「明日はあそこに出掛けてみよう」など)から、自分を成功へと導く偶然のチャンスをつかみ、それをその後の人生に生かそうとするキャリアづくりが、計画された偶発性理論です。

そもそも人生やキャリアは自分の計画どおりには進まないもの

 クランボルツ氏がこのような理論を提唱する背景には、キャリア(人生も)が、あらかじめ計画したとおりや期待したとおりには決してならないという現実があります。大リーガーのイチロー選手や松井秀喜選手のように、小さいころからの夢や目標が実現する人は、ほんの一握りです。実際、クランボルツ氏の行った米国の一般社会人対象の調査によれば、18歳のときに考えていた職業に就いている人は、全体の約2%にすぎなかったのです。

 そのため、クランボルツ氏は、「将来の職業(仕事・職種)を決める」ことを勧めません。正確にいえば、当面のなりたい職業を持っていてもいいのですが、それに固執すべきではないと主張しています。なぜなら、ある職業を目指すということは、いい換えるとほかの職業の選択肢を捨てていることになるからです。もし特定の職業にこだわりすぎると、その職業になかなか就けなかったり、実際にその職業に就いてみたものの、自分には向いてないことが分かったとき、途方に暮れてしまうことになります。

 ですから、例えば、本当は自分がやりたいと思っていた仕事ではないけれど、上司などから「この仕事をやってみないか」といわれたら、無碍(むげ)に断るのではなく、「自分の新たな可能性を試すチャンスだ」と考えて、積極的に引き受けてみるのです。その結果、思いもよらなかった仕事が、実は自分にとって「天職」と感じられるほど大好きな仕事だと分かるかもしれないのです。

 クランボルツ氏自身、若いころにテニスに熱中しすぎたため、大学3年からの専攻分野をなかなか決められなかったそうです。そこで、テニスのコーチに相談したところ、コーチはたまたま心理学を専攻した人だったため、クランボルツ氏に心理学を勧めたとのこと。同氏は、その提言に素直に従い、いまでは世界的に著名な心理学者となりました。彼は、「心理学の世界に偶然足を踏み入れ、心理学者になった私ですが、いまではこれが自分にとっての最高のキャリアだと確信しています」と述べています。

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