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» 2009年03月31日 00時00分 公開

Imagine Cup日本代表決定、次はカイロで決戦に挑む:途上国の教科書問題、同志社の学生がITで解決目指す

[荒井亜子,@IT]

 マイクロソフトは2009年3月30日、「Imagine Cup 2009 ソフトウェアデザイン部門 日本大会」を実施。2009年7月にエジプトのカイロで開催する「Imagine Cup 2009」への出場権を懸けて学生3チームが奮闘した。世界大会への出場権をゲットしたのは、同志社大学のチーム「NISLab++」(ニスラボプラスプラス)。NISLab++は、4人中3人が2008年のImagine Cup世界大会出場チーム「NISLab」のメンバー。選考のプレゼンテーションでは、経験者としての強みを見せた。

Imagine Cup 2009のテーマは選択式

 Imagine Cupは世界中の学生を対象にマイクロソフトが主催する技術コンテスト。テクノロジをとおして学生の想像力を養うことを目的とするプロジェクト。2003年に開始し、今年で7回目を迎える。2008年は100カ国以上の約20万人の学生が参加。2009年のエントリは30万人に達する勢いであるという。

 2009年のテーマは「テクノロジを活用して世界の社会問題を解決する」。貧困・飢餓の撲滅、普遍的な初等教育の達成、ジェンダーの平等、HIVやマラリアなどの蔓延防止、妊産婦の健康改善など。国連ミレニアムが提唱する、2015年までに具体的な数値目標を掲げている開発目標に対応している。参加者はこれら8つのテーマから1つを選択し、ITを活用し課題解決を目指す。

 選考方法は10分間のプレゼンテーション。審査規準は、問題提起の質(10%)、プレゼンテーション(10%)、普及性(10%)など合計10項目で、それぞれ10%の比率で構成。審査員には、東京大学情報理工学研究科の竹内郁雄氏、東京大学 知の構造化センターの中山浩太郎氏、サイボウズ・ラボの天野仁史氏、ミクシィの井上恭輔氏、マイクロソフト 業務執行役員 最高技術責任者の加治佐俊一氏と、IT業界で活躍する5人を採用した。

審査基準

 Imagine Cupには9つの部門があるが、今回実施したImagine Cup 2009 日本大会では、ソフトウェアデザイン部門の選考会のみを行った(そのほかの部門はWebで選考)。日本代表候補は、(1)世界各国の子どもたちの異文化交流の実現を目指し、共通言語としてピクトグラムを活用した絵本のサービス「Mammy's picture book」を開発した同志社大学「Mammy」、(2)妊産婦の健康管理を常時行うため、モバイル端末に心電計を接続し常時監視・緊急時通報に対応したサービス「Heartful Assistant」を開発した弓削商船高等専門学校の「White Dolphin」、(3)途上国の子どもたちに教科書を提供するために、インターネット上で無償公開されている世界中の教科書コンテンツを電子データとして提供するプラットフォーム「PolyBooks」を開発したNISLab++の3チーム。

 審査の結果、優勝はPolyBooksを開発したNISLab++、2位はHeartful AssistantのWhite Dolphin、3位はMammy's picture bookのMammy。

多言語教科書PolyBooks

 NISLab++は、世界には小学校に通えない子どもが約7700万人いる。その原因の1つに教科書不足があることに着目。例えば「コートジボアールでは6年生になると11冊の教科書が必要だが、その値段は一般的な家庭の月収分にもなる」(NISLab++)。教科書を入手できなければ、学校を卒業することができない。また多言語国家では、科目によって地方語や公用語が混在し、教科書を読めない子どもがいる。そういった問題を解決するサービスとして、Web上の教科書コンテンツを収集・翻訳・配布するプラットフォームPolyBooksを提案した。

 NISLab++はPolyBooksによって、世界中の子どもたちの教科書のコストを総合的に下げること、初等教育の終了率の底上げを目的としている。

 PolyBooksの仕組みは、教科書コンテンツの収集、配布、翻訳の3つ。

 収集ではWeb上に散らばる10万項目以上の教科書コンテンツをまとめ、自動的に地域、学年、科目ごとに分類する。分類したコンテンツの配布方法は2通り。ネット環境が整備されていれば、PolyBooksのアプリケーションから直接教科書を利用してもらう。ネット環境がない地域では、バイクでコンテンツを配達する。翻訳は、インターネット上のさまざまな機械翻訳サービスを自由に組み合わせて使うことができるAPI「言語グリッド」を利用する。PolyBooksは、多数の言語間で相互に翻訳が可能。翻訳の精度はユーザーが単語の辞書登録をすることで向上すると見ている。また、母語から多言語、さらに折り返して母語に翻訳する「折り返し翻訳」によっても翻訳の精度を確認できる。

 だがNISLab++は「これだけではまだ1.0」といったんプレゼンテーションを仕切り直す。「教科書2.0では、生徒・編集者・教員らで教科書にコメントを付けることができる」と説明。コメントをフィードバックし教科書をカスタマイズしたり、改訂版を更新できるのはWebならではの強みとアピール。また、音声認識コンテンツを導入し、教科書の文字を別の音声言語で読み上げたり、文字の読み書きができない人にも対応する。

 最後は、「PCを買うくらいなら教科書を買う方が安いんじゃないか、という疑問に先に答えておく」と前置きし、「PolyBooksの利用には100ドルPCを想定している。実質200〜300ドルの費用がかかるだろう。一方教科書を買うと、小中学校とおして1人につき100冊必要。すると600〜800ドルかかる」と、PolyBooksが問題を解決していることを具体的に示した。

NISLab++。2008年7月からテーマの選定に入り、週1回のミーティングを経て12月に企画が確定したという

竹内氏「どれも国際大会で勝つには厳しい」と辛口

 審査員の竹内氏からの講評では「審査はもめたが、3チームいずれも世界に向かって発信するためにはちょっと何か足りない」と辛口な評価だった。例えばPolyBooksであれば、「PolyBooksはいい換えれば電子教科書。だが、残念ながら紙の教科書からのパラダイムシフトが感じられなかった。電子ブックにちょっと書き込みができ、音声が付いた程度。100ドルコンピュータとはいえコンピュータ。電子教科書としての発展性にもっと踏み込んでほしい。いまのまま国際大会で勝つには厳しい。さらに磨いてほしい」(竹内氏)と檄(げき)を飛ばした。

講評で渋い表情を顔に浮かべる竹内氏

 審査員の天野氏は個別取材で、NISLab++に対し「Webブラウザの枠を超えられないか」と提案。一方で「プラットフォームとして発展性があり伸びしろが期待できるサービスだ」と期待もしている。

 優勝したNISLab++が評価された理由の1つにプレゼンテーションのうまさがあった。問題提起の立て方、話の展開、ほかのチームが触れていなかったコストへの言及などアピールの仕方が秀逸だった。NISLab++のメンバーは「1回Imagine Cupを経験できたことは今回の大きなプラスになった」と成功要因を振り返る。世界大会に向けての課題は、(審査員からのアドバイスを受け)次世代の電子辞書のあり方を考えること、プレゼンテーション後の質疑応答での想定問答集を作り上げことと語っていた。

前列左から、Mammy、NISLab++、White Dolphin。White Dolphinは、高専1年生が3人、2年生が1人というメンバー構成

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