IT系でも活用しなければ損。論文を読んで広がる知見安藤幸央のランダウン(47)

「Java News.jp(Javaに関する最新ニュース)」の安藤幸央氏が、CoolなプログラミングのためのノウハウやTIPS、筆者の経験などを「Rundown」(駆け足の要点説明)でお届けします(編集部)

» 2009年07月07日 10時00分 公開

論文は、難しくない

 読者の皆さんの中には、「論文」と聞くと身構えてしまう方も多いのではないでしょうか? 論文というと、書くのも読むのも大変で何だか小難しいことが書いてあるもののように思えるものです。それどころか、「論文とは縁がない」「プログラムがすべてだ」と思う方もいるかもしれません。しかし、ある特定分野の技術や研究を詳しく知るためには、論文は手軽で確実な情報源です。

 よく論文が持つ意味について「巨人の肩の上に立つ」と例えられることがあります。これは、万有引力の研究で知られるニュートンも好んで引用していた言葉だそうです。「現代の学問は多くの研究の蓄積の上に成り立っている」ことを示す言葉です。

 コンピュータ業界においても、過去の多くの技術の蓄積やライブラリフレームワークの恩恵によって成り立っている事柄が数多くあることを忘れてはなりません。もし、コンパイラもライブラリもエディタも開発ツールもなかったとしたら、どんなにプログラム開発が大変なのか想像もできません。

グーグルを支える技術の論文

 例えば、グーグルが大規模なハードウェア資源と数々のアイデアに満ちたソフトウェア群で運用されているのは(何となく)感じていても、実際の詳しいことは分からないものですね。もちろん、グーグルの社員であれば、詳細を知ることができますが、一般に公開されていない事柄も数多く存在します。

 そのようなときに少しだけ役立つのは、グーグルの社員による論文リストです。

 内容はコンピュータサイエンスを中心に多岐にわたっています。

 論文を読めばすぐにグーグルと同じものが作れるといった単純なものではありませんが、Google App Engineを効率よく活用する際など、利用者にとっても有益な情報源です。

 またグーグルを支える技術は、とても多岐にわたっているのも特徴です。例えば、「Google AdWords」技術の第一線を支えるのは、CG(コンピュータグラフィックス)の世界で著名な業績を残したEric Veach氏です。CGの世界で用いられている乱数を用いた数値計算の手法が、CGだけではなく、より広い分野で活用されています。

論文を探すには? 便利サイト紹介

 では、技術的に興味深い論文を読んでみたい、論文を探したいときにはどうしたらよいのでしょう?

 雑誌などで見かけて、タイトルがはっきり分かっている場合は、Web検索で比較的容易に見つかります。最近の研究者であれば、大抵、自身のホームページを持っており、研究論文や過去の研究などの情報が整理されて公開されていることが多く見受けられます。

 そのほか、論文専用のアーカイブや検索サービスを活用するのが得策です。以下、いくつか紹介します。

ACM Digital Library

 基本的に年間99ドルの有料サービスですが、無料で公開されている論文もあります。「SIGGRAPH」などのCG関連や、「SIGCHI」などユーザーインターフェイス関連の論文があります。1980年代ごろの古い論文もすべてスキャンされて公開されています。

GeNii(ジーニィ) 学術コンテンツ・ポータル

 国立情報学研究所(NII、National Institute of Informatics)が提供している目録所在情報サービス/情報検索サービスです。

Google Scholar

Google Scholarで「Java」を検索した例 Google Scholarで「Java」を検索した例

 グーグルが提供する論文に特化した検索エンジンです。Webで公開されているものであれば、大抵見つかります。検索オプションで著者名や出版物で絞り込むことができます。

 前述のNIIの学術論文データも検索対象に含まれているそうです(参考:国内論文300万件が「Google Scholar」で検索可能に)。論文の引用数が分かるためどれだけ重要度が高い論文なのかが分かり、Web上に散らばる同一の論文をまとめて表示してくれるため、全体を素早く把握できます。

CiNii : 論文情報ナビゲータ

 前述のNIIによる、学術論文の検索サイトです。

IEEE Xplore

 IEEEは、The Institute of Electrical and Electronics Engineersの略で、電気・電子技術の学会です。Webサイト「IEEE Xplore」の論文を読むには、企業や研究機関で契約している場合は無料ですが、会員登録がない場合は、個々の論文ごとに閲覧が有料のものもあります。

CS Ditigal Library

 前述のIEEEの雑誌や論文誌、会議予稿などの出版物を検索できます。

「〜Gems」

 また、論文情報はインターネット上だけではなく、学会の定期的に発行される冊子や、「〜Gems」とタイトルに付く書籍にまとめられたものも便利に活用できます。

 例えば、「Java Gems」「Game Programming Gems」「GPU Gems」などがよく知られています。

ResearchSearch:調査レポートを検索するサイト

 おまけとして最後に紹介するのは、「ResearchSearch」です。論文ではなく、調査結果やアンケート結果などを専門に検索できるサービスできます。

論文を探すコツ、知見を広めるコツ

 論文を探し、知見を広めるコツの1つは、目的の論文で参照/引用されている論文をさらに探すことです。その結果、基本的な事柄や、過去の研究を併せて知ることができます。

 例えば、Javaの生みの親James Gosling氏は、IEEEの「The Feel of Java」という論文の中で「Javaが研究者のためのプログラミング言語ではなく、実用/実務のための言語である」ことを強調しています。そして、この論文を引用したグーグルのJavaチーフアーキテクトJoshua Bloch氏の講演からも、論文の内容を知ることができます(参考:Joshua Bloch氏の講演プレゼンテーション資料と動画)。

 また、論文の筆頭著者(最初に名前が記載されている研究者)のホームページを探すことによって、周辺の研究や、過去の研究を知ることもできます。さらに、同一の研究所に所属するほかの研究者のことも知ることができるでしょう。

 もっと掘り下げて知りたい場合は、「SlideShare」「Google Video」「YouTube」などで研究者が実際に発表している情報を探すのも良い手法です。

 このように、ある1つの論文から派生した事柄や、論文の中で引用されている事柄を探すことによってもさらに知見を広め、知識を深めることもできるのです。

論文を書くときに備えて

 日頃、気になっている事柄をまとめておくクセ、詳細を調べるクセを付けるとよいでしょう。社内外への発表や雑誌投稿、学会誌投稿へのきっかけにつながるかもしれません。社内論文については、下記記事が参考になります。

 また、論文を発表するコンテストもいくつかあったり、上級シスアドなどの資格試験システム監査に論文審査があるなど、論文を書くというのは意外と身近なことです。

「知識の森」では“睡眠”ではなく“探検”を

 「論文」は一見難しそうでとっつきにくいですが、興味ある分野の論文を時間をかけて調べたり読むことによって、現存する技術の根底にある考え方を知り、新しいアイデアがわいてくる源になることが期待できます。

 それこそ自分が大きな存在になる「巨人の肩の上に立つ」ための「論文」なのです。論文をきっかけに皆さんに「知識の森」の探検を楽しんでいただければ幸いです。

 興味のある論文でも、なかなか読みにくいものは、電車などの移動中に読むのも発想が広がる良い方法です。便利な睡眠薬になるかもしれませんが……。

 次回は2009年9月初めごろに公開の予定です。内容は未定ですが、読者の皆さんの興味を引き、役立つ記事にする予定です。何か取り上げてほしい内容などリクエストがありましたら、編集部@ITの掲示板までお知らせください。次回もどうぞよろしく。

プロフィール

安藤幸央(あんどう ゆきお)

安藤幸央

1970年北海道生まれ。現在、株式会社エクサ マルチメディアソリューションセンター所属。フォトリアリスティック3次元コンピュータグラフィックス、リアルタイムグラフィックスやネットワークを利用した各種開発業務に携わる。コンピュータ自動彩色システムや3次元イメージ検索システム大規模データ可視化システム、リアルタイムCG投影システム、建築業界、エンターテインメント向け3次元 CG ソフトの開発、インターネットベースのコンピュータグラフィックスシステムなどを手掛ける。また、Java、Web3D、OpenGL、3DCG の情報源となるWebページをまとめている。

ホームページ
Java News.jp(Javaに関する最新ニュース)

所属団体
OpenGL_Japan (Member)、SIGGRAPH TOKYO (Vice Chairman)

主な著書
「VRML 60分ガイド」(監訳、ソフトバンク)
これがJava だ! インターネットの新たな主役」(共著、日本経済新聞社)
The Java3D API仕様」(監修、アスキー)


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