【転職市場】回復は遅れるも、募集職種に広がりIT業界 転職市場最前線(9)

平成の大不況の下、IT業界の転職市場は冷え込んでいる。だが、すべての企業が採用をやめたわけではなく、いつまでも採用が止まり続けるわけでもない。転職市場の動向を追い、来るべきときに備えよう。

» 2010年01月20日 00時00分 公開
[ワークポート]

 転職市場に寒風の吹き荒れた2009年が幕を下ろし、新たな年を迎えた。

 IT業界の転職市場はにわかに復調の兆しが見られるものの、本格的なニーズの回復に至っている業界・企業は少ない。特にデザイナー、ネットワークエンジニア、プログラマ(ゲームプログラマを除く)の苦境が続いている。

 しかし、年明けからの3カ月は、期末・期首を迎えるに当たって組織変更を行う企業が多く、採用計画の見直しや、募集要件の大幅な改変が行われることがある。昨年から急成長しているソーシャルアプリの台頭も、転職志望者にとっては追い風となるだろう。

 急激な回復とまではいかないまでも、今後3カ月間で市場の活性が見られるようになるのか、大いに期待したい。

【Web/インターネット業界】デザイナーの苦境が続くも、今後の採用ニーズに期待

 Web/インターネット業界では、前月から変わらず採用意欲に落ち着きが見られる。他業界が採用を差し控えていた時期に積極的な採用活動を行ったことで、すでに人員の充足に至っているようだ。

 現在の求人は1〜若干名の募集が大半であり、総じて選考水準が高い。しかし、これまで採用活動を凍結していた大手企業が中途採用を再開するなど、明るいトピックスも見られた。また、自社サービスの内製化へこだわりを見せる企業が増加しており、今後の新たな採用ニーズに期待が持てそうだ。

 採用状況を職種別に見てみると、最も苦境にあるのがデザイナー志望の求職者だろう。デザイナー職は、年明けに合わせた新サイトの立ち上げやリニューアルに伴う求人が発生したものの、それ以降は新たな求人がほとんど見られない。募集があったとしても、プロジェクトの進行管理や人員管理の経験が求められるなど、求人数/選考ハードルの両面で、求職者にとって厳しい状況といわざるを得ない。

 Webディレクター/プロデューサー職の採用状況には大きな動きは見られない。自社サービスで好調を維持している企業において、継続した採用が行われている。

【モバイル業界】職種によっては売り手市場。引き続き活況が期待できる

 採用企業(求人)数/求職者数ともに意欲が高く、中途採用市場において活気のある分野といえるのがモバイル業界だ。

 昨年は年末に向かうにつれて求人数の低下や求職者の転職活動に鈍化が見られたものの、年明けから春にかけて、引き続き活況が期待できるだろう。

 モバイルプロデューサーやディレクターなどの職種は、求人ニーズの途絶えないポジションである一方、非常に競争率の高い職種でもある。以下のような特徴が挙げられる。

  • 「20代で経験3年程度」の若手をターゲットとする求人が多い
  • 「学歴問わず」とする求人が多い
  • 転職回数が多い場合、懸念を示す企業が多い

 半面、エンジニアの採用には苦戦している企業が多く見られる。モバイルエンジニアとして求められるPHP/PerlなどのWeb系開発技術を持つエンジニアは、開発規模や表現力に限界のあるモバイル業界を敬遠する傾向にあるようだ。「モバイルだから」と選択肢から除外するのではなく、視野を広げることで、転職成功の可能性が高まるだろう。

【システム業界】回復の遅れは目立つが、募集職種に広がりが見られる

 システム業界の採用意欲は横ばいが続いている。

 自社プロダクトを持つ企業では、業務/職務範囲が広がっているためか、サービス開発や自社業務システムの開発だけでなく、インフラの設計構築や運用まで担える人材を求めるケースが増えた。また、QA(品質管理)や導入サポートなど、プロフィット部門を支えるポジションでも新規の求人が徐々に発生している。

 大手SIer(システムインテグレータ)からは、経営企画職や事業企画職での募集が増加。こうした職種に対して、IT系に強みを持つコンサルティングファーム出身者からの応募が増えている。

 Web系エンジニアやゲームエンジニアとは異なり、業務系エンジニアの求人ニーズは回復が遅れている。銀行/生保損保/クレジット関連エンジニアは回復傾向にあるものの、20〜30代の即戦力層にニーズが集中しており、経験の浅いプログラマ層には厳しい状況が続いている。

 NIer(ネットワークインテグレータ)からの採用ニーズは低迷が続き、特にネットワークエンジニア職では回復の兆しが見られない。サーバエンジニアの求人は増えているが、ネットワークやミドルウェアのスキルが問われるなど、選考ハードルは上昇している。

 業績が好調なデータセンターからの求人は増加が続いている。ファシリティ管理や電気、電源、空調などの設計/運用管理を行うポジションでの募集が見られるようになったことも特徴として挙げられる。ただし、企業側がターゲットとする人材は市場に少なく、採用活動が長期化している企業が多い。

【ゲーム業界】次世代機経験者を中心に、活発な採用活動が続く

 ゲーム業界は、業界全体として高い採用意欲を維持している。プログラマ職の求人が目立つが、デザイナーやプランナーなどのニーズも高い。また、ゲーム開発のためのツール開発者やサウンドクリエイターなどの求人も少しずつ増え始めている。

 ゲームプログラマでは、Wii/PS3/XBOX360などの次世代機経験者を求める傾向にある。ただし、次世代機未経験者であっても、技術テストや自作プログラム(作品)でアピールすることで、転職に成功しているケースが見られる。

 一方、ゲーム業界でも比較的転職が難しいのがデザイナー職である。ゲームデザイナーは特殊なグラフィックソフトを利用することがあるため、応募条件として「特定ツールの使用経験」を必須とする企業が少なくない。

 MMORPGなどのオンラインゲーム関連の求人では、プランナー、プロデューサー、マーケティングなどの職種が主流である。多くの企業が集客力の強化に重点を置いた採用活動を行っている。

 求職者側の動向としては、“アラフォー世代”と呼ばれる40歳前後の転職希望者が増加している。長年ゲーム業界で実績を積んできたベテラン層ではあるが、現在の求人媒体や人材紹介に寄せられるニーズは20〜30代に集中しているため、転職に苦戦するケースが多い。若手にはない経験と人脈を武器に転職活動を進めることが、成功への近道といえそうだ。

【ソーシャルアプリ】新規参入企業が増加。市場に大きな変化をもたらすか?

 SNSの新たなサービスとして注目されるソーシャルアプリの分野において、採用を開始する企業が増えている。これまでWebサービスを展開していた企業がソーシャルアプリ開発技術者の募集を開始したり、この分野に特化した企業が設立されたりと、話題は尽きない。

 ソーシャルゲーム関連職では、「ゲーム業界の求人」よりも「Web/モバイル業界の求人」に近いという特徴がある。パッケージゲームやネットワークゲームよりもライトなものが多いソーシャルゲームでは、ゲーム業界の経験を必要としないようだ。また、ソーシャルアプリは新たなコミュニケーションツールとしてさまざまなサービスを展開することになるため、技術力だけでなく、企画力や提案力なども重要なスキルの1つとして求められている。

 大手インターネット企業をはじめ、業種/業態にかかわらず、ソーシャルアプリ分野へ参入する企業が増加しており、2010年のIT業界や転職市場に大きな変化をもたらす可能性に期待が高まる。

【営業/バックオフィス系】IT系営業は20代、バックオフィスは経理職にニーズが集中

 営業関連職は、前月比で約8割程度まで落ち込んだ。また、管理職クラスの求人は全体の2割程度にとどまり、年収350万〜500万円程度のメンバークラスを求める求人が大半を占めた。ただし、メンバークラスの募集でも同業界または近しい業界/商材での経験が必須とされ、ポテンシャル採用はほとんどないのが実情だ。

 業種別に見ると、SEO/SEM業者やアフィリエイトサービス企業、インターネット広告代理店、インターネット自社サービス運営企業からの求人が目立つ。IT業界外では、医療機器を取り扱うメーカーや商社、CRO(受託臨床試験機関)/SMO(治験施設支援機関)などの治験関連企業、不動産分野では売買仲介会社などが募集を行っている。

 バックオフィス系職種の中では、依然として経理/財務職にニーズが集まっている。しかし、上場企業での実務経験や、「仕訳から月次年次決算までの実務経験」「日商簿記2級程度の基本的知識」などを必須とする企業が多く、決して容易とはいえない。また、今後は会計基準の移行に伴い、「国際財務報告基準」などの知識を求める声が高まりそうな気配だ。こうした知識が応募条件となることは十分予想される。事前に知識を蓄えておくことが必要だろう。

【求人媒体】ITアウトソーサー、ゲーム業界からの新規求人が増加

 12月は例年、求人媒体にとって厳しい月となる傾向にある。2009年もこうした傾向は変わらず、受注件数は前月比で1割程度の落ち込みを見せた。しかし、ゲーム業界(オンライン)、ITアウトソーサー(エンジニア特定派遣など)からは求人広告の掲載数が増加。12月に新規求人を出稿した企業の約4割がこうした企業であった。

 ITアウトソーサーにとって年末年始はプロジェクトの動きが活発になる時期であり、年明けの人材確保を見据え、先行して求人広告の掲載に踏み切る企業が増えた。さらに、12月末に退職者が出る企業もあり、補充要員としての求人ニーズが多く見られた。これまで主流であった「欠員が出ても人員配置で補う」という姿勢から、「欠員を中途採用で補充する」姿勢へとシフトしつつあるようだ。


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