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» 2010年01月28日 00時00分 UPDATE

特集:生き残れるITエンジニアの「仕事術」(4):話さない職場は赤信号。フリーズ前に「脳メンテ」せよ (1/2)

あまり会話がない職場で、ほとんど外出もせずにずっとパソコンの画面を見続けている。もしこういう日々を過ごしているなら、注意が必要だ。「不健康」であるだけではない。このような生活は「脳の働き」を鈍化させてゆく。いきなり脳がフリーズして動かなくなる前に、日々のメンテナンスをきちんと行おう。

[金武明日香,@IT自分戦略研究所]

 一見仕事がスムーズにいっているように見えても、「スムーズさ」を持続できなければあまり意味がない。今回は、仕事を長く続けるうえで維持していきたい「脳機能」について考える。

 財団法人 河野臨床医学研究所付属 北品川病院 院長の築山節(つきやま たかし)氏は、脳神経外科専門医として長年多くの患者と接してきた。築山氏によれば「パソコンが脳に与える影響の大きさ」が無視できないものになってきているという。

脳は「省エネ化」する

 仕事の成果を上げたいなら、わたしたちは「効率を上げて量をこなす」ことと「仕事の質を上げる」ことを考える。量をこなすとは、いい換えれば「1時間にどれだけ多くアウトプットできるか」ということだ。当然のことながら、同じ作業を続ければ続けるほど作業効率は上がる。1つの物事を集中して行っているとき、脳では「省エネ化」が起きているのだ。

築山節氏 築山節氏

 「同じ作業を続けていると、脳は『省エネ化』します。『省エネ』とは、いつも使っている機能にエネルギーを集中するために、ほかの機能で使う分のエネルギーをカットすることです」と築山氏は説明する。

 築山氏は、一点集中で脳機能を使う状態のことを「高速道路状態」と表現する。高速道路を走っているときは前方のみに集中して、前方以外から来る情報にあまり注意を払わなくなる。つまり、一部の機能だけオン状態で、ほかの機能はすべてオフになっている状態だ。


 しかし、「このような偏った脳の使い方をすべきではない」と、築山氏は忠告する。「ただ同じ作業をひたすらこなすだけなら、機械でもできます。しかし、当たり前の話ですが、人間は機械ではありません。人間が持つ『冴えた感覚』を使って仕事をしたいなら、脳をバランスよく動かさなくてはなりません」

ハードの異常ではない。これはソフトの問題だ

 築山氏は、脳の偏った使い方について危惧(きぐ)している。というのも、脳が省エネ化すると、使わない脳機能が衰えていくからだ。

 特に、長時間パソコンを使う仕事の人に向けて、築山氏は警鐘を鳴らしている。現在、築山氏の元に相談に来る人の半分近くが「ITエンジニア」や「パソコンを長時間使う職種の人」だという。最も多いのが20代後半から30代の男性だ。日々同じ作業を淡々とこなし、職場ではほとんど会話がないタイプが多い。彼らの多くは「これでは仕事にならないから、診てもらってきなさい」といわれてやって来る。

 彼らの多くは、「最近忘れっぽくて……」と相談に来るという。しかし、こういうケースの場合、記憶力そのものには問題がない場合が多いらしい。彼らは「人の話を覚えていられない」のではなく、「そもそも人の話を聞いていない状態」なのである。

「メールで用件を済ます」ことによって起こる悪循環

 「相談に来る人は、記憶力や聴覚については正常な場合が多いです。問題があるのは『音声認識』の部分。つまり、人の話がそもそも聞き取れていない状態なのです。ラジオの機能にまったく異常はないけれど、電源がオフになっている状態、といえばいいでしょうか。わたしは彼らにこう説明します。『ハードに異常はありません。これはソフトの問題です』と」

 なぜ、人の話を聞けなくなるのか。その原因はただ1つ、「人と話をしないから」だ。「相談に来る人に話を聞くと、用事がある人が隣に座っていたとしても、口頭で伝えずにメールを使うことが多い。話をしない、つまり音声認識の機能を使わないと、その機能は衰えます。つまり、音声が入ってきても、きちんと『日本語』として認識できなくなるのです」

 見知らぬ外国語を耳にしたときのように、そもそも「音声を聞き取れない状態」のようになる。音声を認識できないため、もちろん内容が分かるはずもない。意味が分からないからストレスがたまり、人と話すのが億劫(おっくう)になって、ついメールを使ってしまう。「話す」「聞く」ができなくなると、そのうち「読む」ことすらできなくなってくるという。当然、仕事でいい成果を出せるはずがない。「人と話さない」ことはこうした悪循環を生む。

最低でも「1日1000語」の会話をする

 では、このような状況に陥らないためにはどうすればいいのか。築山氏のアドバイスは至ってシンプルだ。「話す」「動く」「寝る」という、動物として当たり前のことを生活習慣としてしっかり定着させること。そうすると、脳がバランスよく動いて、脳機能の低下を防ぐことができる。

 まず、「話す」ことについて築山氏は「1日1000文字以上の発話をすることです」と具体策を挙げた。

 1000文字とは、新聞のコラム程度の量だ。音読すると10分以下で済む。脳機能を低下させないためには、最低限1000語の発話が必要になるという。意外に少ないと感じるが、日常会話の多くは「ねえねえ」や「ちょっと」などの意味を持たない単語であるため、「意味のある1000語で会話」を実践するのは思いのほか難しいという。会話がほとんどない職場で働く人ならなおさらだろう。

 そんな人のためにお勧めなのが「毎日必ず『天声人語』を音読すること」だ。「聞く」「話す」ことを同時に行うことができるため、音読は脳の活性化に効果的だという。もちろん、1人で話すよりは、複数名との会話の方がいい。「人の話を聞けなくなってきた」と思ったなら、まずは『天声人語』を音読する習慣をつけてほしいと、築山氏は語る。

「PCの前に正座状態」をなくす:1時間に1回は取りあえず歩く

 次に、築山氏は「運動する」ことの必要性を挙げた。医学的には、「1日1万歩」が、動物として必要な運動量だという。

 なぜ、動くことが脳にいいのか。それは「外部の情報を受け取ることで、バランスよく脳に刺激が行き届くから」だ。人間は、周囲の音やにおい、遠近感などのさまざまな情報を受けて、認識を修正しながら動いている。これらの「状況変化」が、脳の動きを活発にするのだ。同じ姿勢でディスプレイ画面を見続けるITエンジニアに向けて「取りあえず動き、外部環境に変化を与える必要がある」と築山氏は指摘する。

 「パソコンを前にしてずっと座っている状態は『正座』と同じだと考えると、分かりやすいと思います。正座をしていると、足がしびれてくるでしょう。それは、同じ姿勢をずっと続けていることが難しいからです。しかし、仕事に集中していると、正座と同じように無理な状態であるにもかかわらず、気が付かない。1時間に1回は、必ず体を動かして、脳に適正な刺激を与えてください」

 営業担当が1社訪問するたびに、約2000歩動くという。ITエンジニアにとって、1日1万歩歩くことは相当ハードルが高い。ITエンジニア向けに、「1日1万歩が難しいなら、まずは作業開始時間を書いたポストイットをディスプレイの横に貼るといい」と、築山氏はアドバイスする。1時間たったら、仕事が残っていても、席を立ってオフィス内を歩いたり、外に出たりする。もし歩くのが難しいようなら、手を思い切り上に伸ばす、視点を移動させて遠くを見る、肩を回すなどの動きをするだけでもいい。

 「同じ姿勢と作業は、体と脳を『固定』します。しかし、脳は状況変化に対応するようにできています。そのため、省エネ状態を維持することは、できるだけ避けましょう。わたしも、どんなに忙しくても1時間に1回は必ず動くようにしています」と、築山氏は語る。

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