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» 2010年03月17日 00時00分 公開

特集:学生起業家たちの肖像(3):文系起業家、独学で技術習得――モバキッズ 田村健太郎

技術の勉強をするのに、遅過ぎるということはない。ITの世界でビジネスを始めようと決め、それから技術を習得した人だっている。「必要な技術を独学で身に付け、ビジネスを推し進めてきた」という変わり種の起業家が描く未来とは。

[岑康貴,@IT自分戦略研究所]

 「とにかく起業がしたかったんです。ITでビジネスをしようと決めて、それから技術を勉強し始めました」

 その言葉は、おっとりとした外見からは想像しづらい。「起業」というキーワードで知り合った友人と2人で会社を立ち上げた「技術担当の取締役」は、4月1日から「代表取締役社長」として再スタートを切る。

 特集「学生起業家たちの肖像」2人目は、Web漫画投稿コミュニティサイト「MANGAROO」の運営や、Web/モバイルサイトの企画・制作を行うモバキッズの設立者の1人、田村健太郎氏を取り上げる。

技術の勉強は「起業してから」?

 1986年生まれの田村氏は、一橋大学経済学部に在学していたころ、東京大学の学生が中心となって活動していたビジネスコンテストサークルで西嶋悠加乃氏(当時、青山学院大学に在学)と知り合う。共に起業マインドを持つ者同士で意気投合し、1年半後、2007年4月に2人でモバキッズを立ち上げた。

 「高校のころから、起業することを考えていました。新しいことをして、世の中を便利にしたい。企業に就職することに魅力を感じませんでした」

 前回登場したフォリフの熊谷祐二氏同様、高校時代に楽天やライブドアの成長を目の当たりにし、刺激を受けたという。そのため、西嶋氏と話して「業種はIT系で」となったとき、特に異存はなかった。就職支援など、学生時代にしかできない業種は選びたくなかったし、資金がないため、ITは最適だったという。

 ただ、1つ問題があった。開発ができる人間がいない。田村氏は実際に起業を決めてから、技術を勉強し始めた。田村氏が開発を担当し、西嶋氏がデザインと営業を担当する、という役割分担ができた。

 最初の1年間は「いろいろやってみよう」と考え、受託開発を中心に行った。初めて売り上げが立ったのは設立3カ月後。自分たちの給料が出せるようになったのは、設立してから1年がたったころだった。PHPやMySQLの勉強を重ね、目の前の案件に対応する日々が続いた。

田村健太郎氏 モバキッズ 取締役 田村健太郎氏2010年4月1日より同社 代表取締役社長に就任

サービスありきで、テクノロジを活用する

 2年目、モバイルeラーニングシステム「モバ勉」をリリース。さらに、Web上での漫画のプラットフォームを作るというビジョンの下、「MANGAROO」を立ち上げた。

 「テクノロジありきでサービスを考えるのではなく、サービスありきでテクノロジを活用する、ということを常に考えています。なるべく幅広くやっていきたいです」

 決して1つの事業にこだわるつもりはない。将来的にはITとは別のビジネスを始めるかもしれないし、代表というポジションにもこだわりはない。

 コンサルタントになるという道を考えたこともあるという。だが、「それはいつでもできる」と田村氏は語る。

 「もし普通に就職していたら、いまの年齢でここまでのことはできなかったでしょうね。決して満足しているわけではありませんが、起業して良かったなと思います」

100%独学、田村健太郎の開発の日々

 目の前の問題を解決するために、必要な技術はその都度、学んでいく。その繰り返しは、つらかったのではないだろうか。

 「正直、厳しかったです。ほぼ100%独学で、やりながら覚えていく、という状態でした。未知のものを作っているわけで、よく追い詰められたような気分になりました。しかもスケジュールがタイトだったりするので……」

 それでも、自らが開発を買って出たことによって、「どの程度のことならできるか」がイメージできるようになった。イメージ戦略上でも、なるべく「技術担当」の顔をすることが多かったという。

 「本当は、技術と同じくらい、経営やビジネスも好きなんですけどね」

 西嶋氏は2010年4月1日付で退社し、新たな道を歩み始める。田村氏はこれから、西嶋氏が担っていた仕事を引き継ぎつつ、「社長」として再スタートを切ることになる。「いま、頑張って引き継ぎしているところです」と苦笑い。

 「会社を大きくしたり、人を増やしたり、というのは目的ではないので、あまり意識していません。まずは『MANGAROO』を大きくして、全世界的な漫画のプラットフォームに育てていきたいと考えています。あとは、ほかの会社とどんどんコラボレーションしていきたいですね」

 ゆくゆくは起業支援もしてみたい、と田村氏は夢を語る。


文系学生がITの世界で生きていくということ

 学生にとって、IT業界が「魅力的な世界に映っていない」ことを、田村氏は危惧(きぐ)する。

 「特に文系学生にとって、IT業界は魅力的な業界と思われていませんね。でも、IT業界にとって文系学生がまったく必要じゃないかといえば、そんなことはないと思います」

 2008年9月に開催された「エンジニアの未来サミット」で、IT業界のエンジニアたちと対談する学生代表として田村氏は登壇した。学生たちに「IT業界の素顔」を伝えることを目的としたこのイベントの壇上に田村氏が立っていたのは、決して偶然ではないだろう。

 学生はもっと起業した方がいい、とも田村氏は考えている。「学生のうちなら失敗しても即、路頭に迷うわけではないから安全ですよ。不安ならウチに来るのでもいいと思います」と田村氏は笑う。

 「文系で、技術的な経験がないけれど、ITやWebの世界で働きたいという学生は少なくないと思います。そういう人は、まず小さなベンチャーでアルバイトをするといい。『経験はないけど、これから頑張ります』でいいんです。そこで修業を積めばいい。社長がもともと文系のIT企業だといいと思いますよ」

 彼はスーパープログラマではない。必要な技術を自ら学び、ビジネスに生かしていった「文系起業家」だ。自分は文系だし、たいした技術力もないし……そんな学生にも、ITの世界で活躍する道は存在する。田村氏を見れば、それがよく理解できるだろう。

tamuken 取材時、「もうすぐ保育園の口コミサイトをリリースするんですよ」と語った田村氏3月16日に「東京保育園ナビ」をリリースした

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