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» 2010年04月26日 10時00分 公開

ものになるモノ、ならないモノ(40):App Storeの運営方針は第2ステージへ (1/2)

iPadの発売や次期iPhoneの噂などもあり、勢力をますます拡大しているように見えるiPhoneアプリの世界。その販売サイト「App Store」をめぐる新しい潮流について考えてみたい。

[山崎潤一郎,@IT]
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 米国ではiPadが発売され、次期iPhoneの噂も飛び交う昨今、その勢力をますます拡大しているように見えるiPhoneアプリの世界。アプリ開発熱は技術者層の枠をはみ出し、プログラムとは無縁の一般ユーザー層にも広がり始めているから驚きだ。

 実際、『iPhoneアプリで週末起業』などという本を書いた筆者のもとには、2009年末あたりからその類の相談事や取材依頼が多く舞い込んでくるようになった。そんな人々の話を聞いていると、プログラム経験がなくとも、使い込むうちに「こんなアプリがほしい」「私ならこんなアプリを作る」といった能動的な気持ちにさせてくれる不思議なガジェットがiPhoneなのだと痛切に感じる。

 さて、今回は、そんなiPhoneアプリの販売サイトApp Storeをめぐる新しい潮流について考えてみたい。このところのアプリ関連のニュースや動きを見るにつけ、Appleは、App Storeの運営ポリシーに関して大局的な方針転換を図っているのでは、と考えられるからだ。

Flash嫌いのジョブズによるFlash外しなのか!?

 iPadの発表から5日後の4月8日、Appleは次期iPhoneOS 4.0やSDKのベータ版を公開した。マルチタスクやiAdと呼ばれるアプリ内広告スキームが話題になっているが、iPhoneアプリ開発者のもう1つの関心事は、何といっても、APIの利用に関する約款の変更であろう。「Adobe Flash Professional CS5」のiPhoneアプリ変換ツールに代表される、ほかのフレームワークからiPhoneのネイティブアプリに変換する開発手法を禁ずるかのような文言が追加されているからだ。

 ここに来てこのような文言を追加した真意は、Appleのみぞ知る、といったところだろう。しかし一般的にいわれているように、お手軽に開発されたアプリを排除することが目的だとしたら、ここ数カ月のうちに起こったiPhoneアプリやApp Storeをめぐる出来事、ならびに情報を勘案することで、iPhoneアプリやApp Storeに関するAppleの軌道修正というか、今後の方向性のようなものがおぼろげながら見えてくる。

 2008年の7月から始まったApp Storeでは、多くの個人やインディ(独立系)デベロッパーが大活躍したことは記憶に新しい。一部からは「玉石混交で話にならない」といわれようが、「もはやレッドオーシャン」と嘲笑(ちょうしょう)されようが、そこはいまでも、インディが世界に向かって羽ばたける可能性と希望に満ちた大地であることは間違いない。

 ただその一方で、大手のゲーム会社やコンテンツ企業の中には、「安売りの世界感が出来上がっており、利益を出せない」「Appleに3割を持っていかれるのは納得できない」などの理由から、本格参入を見合わせていたところも多くあった。だから、誰でも知っている有名なゲームなどがiPhoneに移植されることなく、その分、インディデベロッパーが活躍できる市場でもあったわけだ。「21世紀のゴールドラッシュ」などという言葉も生まれ、iPhoneアプリで財を成したインディもいるのはご存じの通り。

 だが、2009年の後半あたりから、少しばかり様子が変わり始めた。カプコン、スクウェア・エニックス、バンダイナムコゲームスといった大手のゲーム会社が続々と、有名人気ゲームを引っ提げて本格参入しているのだ。

 これは普通に考えれば、iPhone/iPod touchの累計出荷台数(先日の発表では5000万台)が増え、大手にとってビジネスのベースになるだけの母数に達した、ということが大きな理由であろう。だがそれ以外に、Apple自身が大手デベロッパーを積極的にiPhoneアプリの世界に呼び込んでいることも背景にありそうだ。先日、それを裏付ける話を耳にした。

人気コンテンツの呼び込みのため分配率を崩す!?

 「7対3」――

 これは言うまでもなく、App Storeでアプリが売れた場合の、開発者とAppleの分配率のこと。この「7対3」分配は、Androidをはじめ、その後登場したほかのスマートフォン向けのアプリ市場にも取り入れられた。一部の例外を除き、この手のビジネスの、一種の黄金比として定着した感がある。

 だが、先日ある大手出版系持株会社傘下の出版幹部が打ち明けてくれたのだが、人気コンテンツを持っている企業に関しては、Appleはこの黄金比を崩す交渉に応じているというのだ。

 その幹部が言うには、「うちでもiPhoneアプリ開発を検討するため、持株傘下企業の集まりでアプリ開発の相談を持ち出したが、待ったをかけられた」という。その理由が、「Appleは分配率の交渉に応じている。一部には、8.5対1.5というかなり有利な条件で契約したところもある。ここは、持株の総合力を武器に上位レイヤで交渉するから待て。その方がより有利な条件をAppleにのませることができる」というもの。

 驚きだ。Appleというと、製品にしても政策にしても、首尾一貫したポリシーをグローバル規模で頑固に通す企業というイメージもある。だが、App Storeをいま以上のマーケットに育て、続々と登場する同様のライバルたちの追撃を振り切るためには、ここはポリシーを曲げても、大手ゲーム会社やコンテンツ企業を呼び込む必要があるということだろうか。

 もしこれが事実なら、大手ゲーム会社やコンテンツ企業にとっては願ってもないことであろう。世界有数のコンテンツプラットフォームに成長したiPhoneアプリ市場に、有利な条件で参入でき、かつ、アプリの価格設定権は自分たちにあるわけだから(App Storeでの売価はアプリ提供者が決める)。

 余談だが、よくよく考えるとAppleは、かねてよりそのビジネスのやり方に柔軟な一面を見せている。古くは漢字ROMを搭載したMacintoshを日本向けに作ったこともあったし、最近では中国において、無線LAN機能を封印し「YouTube」アプリを載せていないiPhoneを、中国政府に配慮する形で出している。収益確保のためなら、ジキルとハイドよろしく2つの顔を巧みに使い分けるということだろう。

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