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» 2010年06月17日 00時00分 公開

お茶でも飲みながら会計入門(32):キャッシュ・フロー計算書から「粉飾決算」を読み解く

意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。

[吉田延史,日本公認会計士協会準会員]

本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。


今回のテーマ:キャッシュ・フロー計算書から見える情報

 「東証マザーズ上場の半導体製造装置メーカー、エフオーアイは21日、東京地裁に破産手続き開始を申請した。負債総額は約92億円。粉飾決算の疑いによる東京証券取引所の上場廃止決定で、取引金融機関から預金を凍結された上、50億円超の債務超過で事業継続が困難になった。同社については2009年11月の上場時に売上高を100億円規模で水増しした金融商品取引法違反の容疑で、証券取引等監視委員会が12日に強制調査に踏み切っている」(時事ドットコム 2010年05月21日の記事より抜粋)

 巨額の粉飾決算事件がまた発生しました。エフオーアイが計上した虚偽の売上高は、100億円規模に上るだろうといわれています。エフオーアイは、実際には販売していない製品をあたかも販売したように偽装して、決算書を作成していました。そのため、決算書上では業績が好調なように見えていたのです。

 有価証券報告書で開示する内容は、多岐に渡ります。そのため、よくよく決算書を読み込むと、開示情報間の「ひずみ」が見えてきます。今回は、その例として「キャッシュ・フロー計算書」を取り上げます。キャッシュ・フロー計算書からは、どのような情報が読み取れるのでしょうか。

【1】 キャッシュ・フロー計算書とは

 あらためて、キャッシュ・フロー計算書について確認しておきましょう。キャッシュ・フロー計算書は、貸借対照表損益計算書、株主資本等変動計算書と並んで財務諸表の中心となる書類で、「ある期間の資金の増減」を記載します(参考:第8回「キャッシュ・フロー計算書の仕組みと見方」)。損益計算書も、「ある期間についての情報」を記載しますが、こちらは経営成績を記載する「企業の通信簿」のようなものです。キャッシュ・フロー計算書と損益計算書、両者には具体的にどのような違いがあるのでしょうか。

 「損益計算書の売上」と「キャッシュ・フロー計算書の収入」がずれることがあります。その一例として、予備校ビジネスを考えてみましょう。

 予備校ビジネスのA社が、前払いで10万円の簿記検定講座を開講するとします。キャッシュ・フロー計算書上は、受講者が10万円を支払った時点で「10万円の営業収入」として認識されます。

 一方、損益計算書では、やるべきこと(ここでは授業)をやってから売上を計上します。そのため、授業が終了した後にようやく、10万円の売上が損益計算書に登場します。

 上記の「やるべきことをやった時点」というのは、一律に決められるものではありません。各企業が、適切と判断するタイミングを社内ルールで定めているため、実務上は多少の幅があります。もちろん、何でも許されるというものではありません。例えば、パソコンの製造・販売を行う場合は、(1)注文をもらって出荷したタイミング、(2)顧客にパソコンが届いたタイミングなどが考えられます。ほかに特別考慮すべき事項がなければ、実務上ではどちらも認められています。

 エフオーアイの場合を見てみると、売上は「製造装置を出荷した時点」で認識するルール (出荷基準) としています。さらに、顧客に最初に出荷する装置の場合は、それを出荷してから、歩留率向上のためのプロセス・インテグレーション期間(1年半〜2年半)を経て、得意先から入金があるとしています。そのため、売上から収入までは、およそ1年半〜2年半のタイムラグがあることになります。

 ※この事実も、「通常の商習慣」とはいいがたいものがあります。売上の計上時期として出荷基準が適切かどうかについての議論もあるところですが、今回の解説の趣旨からずれてしまうので、深く言及しません。

【2】 キャッシュ・フロー計算書で最も重要な情報は?

 損益計算書とキャッシュ・フロー計算書の違いを理解したうえで、エフオーアイの連結ベースの損益計算書とキャッシュ・フロー計算書を見てみましょう。平成22年3月期のものは開示されていないため、平成21年3月期のものを見ることにします。

●連結損益計算書(単位:百万円)

売上高 11,855
売上原価 7,015
売上総利益 4,840
販売費及び一般管理費 2,365
営業利益 2,474
(以下省略)

●連結キャッシュ・フロー計算書(単位:百万円)

営業活動によるキャッシュ・フロー
税金等調整前当期純利益 1,436
(中略)
売上債権の増減額 △4,685
たな卸資産の増減額 △744
仕入債務の増減額 △61
(中略)
小計 △2,768
(以下省略)

 キャッシュ・フロー計算書で最も注目するべき項目は「営業キャッシュ・フローの小計の金額」です。ここをチェックすることにより、本業で1年間にどのくらいの資金収入があったのかを知ることができます。

 エフオーアイについては、小計は大幅なマイナス(△2,768)になっています。上述のとおり、損益計算と資金収支は一致するものではないとはいえ、営業利益(2,474)と営業収支(営業活動によるキャッシュ・フローの小計)がこれほど大きくずれているのは尋常なことではありません。そこで、小計の項目の内訳を見てみると、売上債権の増減額によって46億円のマイナス調整が入っています。

 製品の出荷で売上計上されているため利益が生じていますが、入金されていないので「ずれ」が生じます。「売上から1年半〜2年半ほど入金されないことから生じる、マイナス項目である」とエフオーアイは説明していたのですが、この売上が架空計上でした。もちろん、得意先から入金などされるはずがなく、これだけのマイナス調整が入っているのです。

 エフオーアイのように利益の水増しを行っている場合には利益は増加しますが、キャッシュ・フロー計算書における「営業活動によるキャッシュ・フロー」の小計はマイナスになります。そのため、両者のずれは開示情報の間の「ひずみ」として、決算書上に登場することになります。

 営業利益と営業収支が大きくかい離しているという事実が、必ず粉飾決算につながるというわけではありませんが、大幅にずれている(利益は生じているにも関わらず営業収支が大きくマイナスになっている)場合には、注意を要することは間違いないでしょう。黒字倒産の場合にも、エフオーアイと同じような営業利益と営業収支の関係になることが多いです。

【キーワード】 (キャッシュ・フロー計算書の)小計

 本業における一期間の現金の収入(支出)の合計額。営業利益と比較することで、利益計上されたものがちゃんと資金回収されているかどうかの目安にできる。


 なお、費用・支出についても、売上・収入と同様にタイミングのずれが起こります。例えば、販売用の商品を仕入れたとすると、支出は仕入先との支払条件に従って支払いますが、費用となるのは「その商品を販売したタイミング」となります。

 キャッシュ・フロー計算書は、損益計算書に比べるとマイナーな印象がありますが、注目している企業の決算書を見る場合などには、注意してみるといいかもしれませんね。それではまた。

筆者紹介

吉田延史(よしだのぶふみ)

京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。

イラスト:Ayumi



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