世界で生き残りたいエンジニアは、たくましさを身に付けよ海外から見た! ニッポン人エンジニア(5)(2/2 ページ)

» 2010年07月26日 00時00分 公開
[小平達也@IT]
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日本人に必要! 環境変化に対応できる「たくましさ」と「したたかさ」

小平:英語力など見ても、「日本人の世界競争力が落ちている」という話はよく聞きますが、次の世代を担う若者や子どもの「鍛えられ方の違い」は、将来的にボディーブローのように効いてきそうですね。一方で、日本人ならではのきめ細やかさや時間厳守の感覚、サービス精神などは、強みとして持つこともできるのではないでしょうか。

フクシマ氏 フクシマ氏「日本人には“したたかさ”と“たくましさ”が必要なのでは」

フクシマ氏:そのとおりです。しかしそれだけでは十分ではありません。日本は安全かつ清潔な国で、人間関係なども限定された中だけに求めているように見えます。生活をするに当たってはストレスが少ない国といえますが、最近は抗菌グッズが売れるといった「清潔志向」が極端に表れすぎて、いわば「無菌の環境」になりつつあるともいえます。

 こうなると、ひとたび環境が変化した場合、環境に適応できず、変化への対応力が落ちていくことにもなりかねません。日本人ならではの強みにプラスして「どのような環境であっても、どんなに環境が変わってもやり抜く!」という「したたかさ」や「たくましさ」がとても重要になるのです。そのためには、個人が自律・自立した意識を持ち、自己責任を取れることが前提です。

 これは転職にもいえることですが、うまくいかず転職を繰り返す人というのは、いつも決まって「自分以外の誰かのせい」にします。「職場が悪い」」「社会が悪い」などといって、転職を繰り返す傾向にあります。もちろん、職場や環境が悪いこともあるでしょう。しかし、会社にいて仕事をしている以上、自分の責任が皆無ということはあり得ません。

 誰も助けてくれない環境の中で、どのように問題解決をしていくのか、自分がほかの人の立場だったら、例えば社長だったらどのようにしていくのかというシミュレーションを頭の中で常にしておくこと。同じ業務内容でも単なる「作業」と考えずに、何のためにしているのかという結果を念頭に置いて「仕事」としてとらえること。「日常業務をラーニングの場とする」というスタンスが大事です。

 これらのスタンスと併せ、大切なのは「グローバルに通用するフレームワークを使いこなす力を持つ」ことです。物事は、「事実」は1つでも、その「解釈」は人の立場によって無数に存在します。「10人いれば10種の解釈がある」ので、解釈だけで話をしていると誤解の積み重ねになってしまい、事実が歪んで伝わります。

 日本人同士でも世代間のギャップがありますが、グローバルな環境では、多様な国や文化の価値観・視点の違いによって、解釈の差が生まれがちです。この点を見据え「事実を相手に伝えて理解してもらう」努力が必要になります。客観的な事実の最たるものは、データや数字などですね。これはそのままグローバルに通用します。MBAなどで学べるフレームワークやコンセプトも、グローバルに共通するツールであり、いわば共通言語です。これらのフレームワークは、MBAを学位として取らなくても、書籍などで十分に学べます。

性別や国籍はその人の「個性」である

小平:この連載の読者には、女性エンジニアとして真剣に自分のキャリアを考えている方がいます。「ニッポンの女性エンジニア」として仕事をしていくに当たりアドバイスをいただけますか。

フクシマ氏:いままで数千人のエグゼクティブと会ってきた経験からすると、「性別」や「国籍」というものもすべては「人それぞれの個性」といえるのではないかと思っています。ITの世界でも働き方に特性が表れることがあるかもしれませんが、「能力において優秀か否か」という点については国籍や性別はまったく関係ないと思っています。

 歴史的に見ても、現在のITとグローバリゼーションはそれらの国籍や性別による差を薄めていきつつあります。あえてアドバイスをするならば「女性だから」ということを意識しすぎることなく、1人の人間として自然体で臨むことではないでしょうか。会社側も優秀な人材であれば国籍や性別など関係なく、積極的に登用していくことが望まれます。

●対談後記●

 グローバル展開をしているエグゼクティブ・サーチファームの経営者であり、日本発のグローバル企業の取締役を歴任しているフクシマさんとの対談を通じて伝わってきたのは、「原則を大切にしながら、しなやかに粘り強く」というメッセージでした。自分のことは自分で行う(自立・自律)こと、相手に伝えるコミュニケーション方法(語学やスタンス)とフレームワークの大切さ、粘り強く自分の個性を認めて取り組むことなどです。

 これらは一見すると基本的なことに思えますが、これらを着実に積み上げてきたフクシマさんだからこその視点・発想法だと思うと、非常に説得力を感じました。日本の職場にいながら着実に世界と渡り合っていく「力のつけ方」を身に付けようとするニッポン人エンジニアにとって、大いに参考になったのではないでしょうか。


筆者プロフィール

小平達也(こだいらたつや)

ジェイエーエス(Japan Active Solutions)代表取締役社長

  • 厚生労働省 企業における高度外国人材活用促進事業 調査検討委員会委員
  • 国立大学法人東京外国語大学 多言語・多文化教育研究センター コーディネーター 養成プログラム アドバイザー
  • 早稲田大学商学部学術研究院 日中ビジネス推進フォーラム 特別講師
  • 武蔵野大学大学院ビジネス日本語専攻 非常勤講師
  • 日本貿易振興機構(ジェトロ)BJTビジネス日本語能力テスト外部化検討委員会委(2007年度)

 大手人材サービス会社にて、中国・インド・ベトナムなどの外国人社員の採用と活用を支援する「グローバル採用支援プログラム」の開発に携わる。中国事業部、中国法人、海外事業部を立ち上げ事業部長および董事(取締役)を務めた後、現職。グローバルに特化した組織・人事コンサルティングを行うジェイエーエスではグローバル採用および職場への受け入れ活用に特化したコンサルティングサービスを行っており、外国人社員の活用・定着に関する豊富な経験に基づいた独自のメソッドは産業界から注目を集めている。



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