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» 2010年08月31日 00時00分 UPDATE

連載:UX(ユーザー・エクスペリエンス)研究:UXとは何ぞや? UXを高める武器を手に入れよう! ― 開発者は、いかにユーザー・エクスペリエンス(UX)と付き合うべきか ― (2/2)

[橋本圭一,シグマコンサルティング(http://www.sigmact.com/)]
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◇UXを高めると何がうれしいのか?

 そもそもUXに配慮すると何が良くなるのだろうか? システムに投資するのなら、企業経営上の観点から、投資対効果(=ROI:Return On Investment)を追求する必要がある。よってUXへの投資も、経営層に対して「どれだけ利益があるか」を説明する必要がある。

 利益を考える場合には、大きく2つの観点しかない。つまり、

  • コストを削減するか
  • 売上を伸ばすか

である。

コストを削減する

 UXがもたらすコスト削減としては、大きく3つある。

  1. 実際にシステムを利用する人間の作業時間/労働コストの削減
  2. システム利用者へのトレーニング・コスト削減
  3. オペレーション・ミスが減るなどの業務確実性の向上=業務ミスがもたらす対応コストの削減

 1は、UXの向上が作業効率を高め、それによって労働時間の削減、すなわちコスト削減につながるというメリットを述べている。また、余った時間をほかの生産的な業務に転換できるという点もメリット。

 2は新しくシステムを用意した場合の社内教育、ヘルプ・コンテンツの用意という決して少なくない費用を削減できるというメリットを述べている。結果、サポートへの問い合わせも減り、コスト削減につながる。

 3はUXの向上により、企業の業務に確実性・健全性がもたらされ、業務に失敗した際に発生するコストを前もって防ぐということだ。

 1〜3は、具体的な事例を欠くが、いわんとするメリットはご理解いただけるだろう。

売り上げを伸ばす

 次に、UXがもたらす売上増効果について具体例を含めて紹介する。

 例えばマイクソフトの検索エンジンが「Windows Live Search」から「Bing」に切り替えた際に行ったUI改善には、8000万ドル(=約85億円)の効果があったと試算されている。

 具体的には、ユーザーが最も関心を持つ色を検証して、リンク・テキストの色を特定の青色(RGBカラーで「#0044CC」)にしたことにより、クリック数が増大して年間売上高が8000万ドル増加したという(詳しくは、「CNET:「Bing」の検索リンクが青い理由--マイクロソフトが配色決定の裏側を説明を参照)。

 ほかにも、米国の中小規模向けの財務サービスを展開するインテュイット(Intuit)社が個人用財務管理サービスを行っているミント・ドットコム(Mint.com)社を1億7000万ドルで買収した際に、ミント・ドットコム社が提供するサービスのUIに対する評価が高く、インテュイット社がもともと行っていた類似サービスを廃止しても買収したという話もある。

 UXに対する投資がROIにどう貢献するかは、実は数年前から議論されているものの、具体的な数値に落とし込むことが困難で、共通の解がない。そのため、これまで実際の投資に踏み込む企業は多くなかったようだ。実際に、コスト削減を数値化できている企業は少ない。かつ上記のUXの定義や概念も、特定の企業に落とし込んだとき、「具体的にどう実現すればよいのか?」「(ROIを明確に示せないので)経営陣に対する説得材料としては弱くないか?」という感想を持たれる方も多いだろう。

 では、なぜいまになってUXが注目され、UXに対する実際の投資が活発になってきているかというと、ROIの話以上に、スマートフォンやタッチパネル・デバイスの台頭は、人々の生活を変えつつあり、むしろ実生活からの突き上げの方が、経営層に対する説得材料になっていると筆者は考える。

◇大手各社のUXガイドラインは参考になる

 今回は序論ということで、実践的な内容よりも、各社がすでに作成しているUXガイドラインを紹介する。いずれも大手企業がコストをかけて作成しているので、こういった文書が公開されており、参考にできるというのは非常にありがたいことだと思っている。

Windowsユーザー・エクスペリエンス・ガイドライン

 『Windows ユーザー エクスペリエンス ガイドライン』は非常によくできているので、一度目を通しておいた方がよい。

 ガイドラインであるため、「確実にここをこうすればよい」という個別具体的な説明はないが、一般的なUXの指針が明確な言葉で定義されており、UXを考えるに当たって参考になるだろう。筆者が特に参考になった項目(=デザインに関するさまざまなアドバイスを挙げている「優れたユーザー エクスペリエンスをデザインする方法」という節に示されている項目)をいくつか抜粋する。

ap-windows.jpg
  1. 基礎となる主要なシナリオ(=エンド・ユーザーがプログラムを使用する主な理由)を(付随的なシナリオよりも優先して)強固にする

 3. 対象となるユーザーに「このプログラムは○○をうまく処理するので愛用している」といってもらえるくらい、特に得意な分野を持つ

 6. 友人同士の打ち解けた会話のようなエクスペリエンスにする

 8. 何もしなくても初期設定で適切に動作するようにする

 12. 応答性を向上させる

 13. 目的を果たすことができる範囲で、最もシンプルなデザインを目指す

 17. プログラムを使用するために必要な労力、知識、思考を減らす

グーグルのユーザー・エクスペリエンス10カ条

 続いて、『グーグルのユーザー エクスペリエンス10カ条』(英語)から、筆者の好みで抜粋したものを紹介する。

ap-google.jpg

 2. ロードはミリセカンドでも速く

 3. シンプルであることが最も効果的だ

 4. 初心者に優しく上級者には魅力的に

 5. 技術革新にこだわる

 6. 世界で通用するか

 9. 人々の信頼を得る

アップルのヒューマン・インターフェース・ガイドライン

 最後に、『アップルのヒューマン インターフェース ガイドライン』(英語。第三者により和訳されたものはこちら)の、主に「デザイン工程にエンド・ユーザー(以下、単に「ユーザー」)をかかわらせよう(Involving Users in the Design Process)」という節にある、いくつかの項目の見出し部分を紹介する。気になったものは、ぜひ本文に目を通していただきたい。

ap-apple.jpg
  • あなたのアプリケーションのユーザー像を明確にし、早い段階でユーザーの精査を受け、正常動作、改良の有無を確認しましょう
  • ユーザーが行うであろう作業を明確にし、解析しましょう。コンピュータがない環境でのユーザーの一連の作業手順をそのまま模倣するのではなく、コンピュータの強みを生かして全作業工程をいかに簡略にできるかを分析しましょう
  • 試作品を作って検証しましょう。コードを書かずに検証することも可能です
  • 試作品に対するユーザーの反応を観察しましょう、ビデオ撮影も良い手です。この工程は、思った反応が得られるまで繰り返しましょう。観察中に、ユーザーに操作法を教えたり、介入したりしないようにしましょう
  • デザインの決定時にコストを測りましょう。機能追加のたびにアプリケーションは低速化、肥大化、複雑化などします
  • 80%のユーザーに応えるデザインをしましょう。20%の上級ユーザーに応えようとすると80%の人の要望に応えられなくなります

 ここまでに紹介した各社のUXガイドラインは抽象的ではあるが、これらを読んで気付くのは、きれいな素材を用意したり、動作が華麗なアプリケーションを作ったりすることをうたってはおらず、「ユーザー像を想定せよ」「主要な使い方の完成度を高める」「応答性がよい」「初心者に優しい」「信頼できる=不具合がない」といったアプリケーション作成の基本的な要素も、UXに含まれているということだ。つまり(デザイナーではなく)開発者の作業がUXに非常に関係している。


 以上、UXの定義やUXガイドラインを説明してきたが、開発者の皆さんにとってもUXは非常に関係のあるものだということが分かっていただけただろうか?

 良い機会なので、弊社でもUXガイドラインを作ってみることにした。皆さんも、例えば7つほど大切にしたい項目を、これまでに紹介した大手各社のUXガイドラインから選んでいただいて、独自のUXガイドラインを作ってみるのはどうだろうか?

  1. 【戦略】ビジネス・ゴールを目指して出発すべし
      =ビジネス・ゴールを知るまで仕様にかかわってはいけない。
  2. 【要件】現場で実際に業務を行うべし
      =体験を通じて業務を全体で理解し、全体を通してあるべき仕様を提案せよ。全体に対する理解なしでは、顧客の言い分(細部)のみ聞くことになる。
  3. 【構造】基礎を絶対に安定させるべし
      =基礎が不安定な限り、顧客が信頼・好感を持つことはない。
  4. 【骨格】基礎を安定させるために余計な機能を削るべし
      =上級者向けやレアケース系の業務は、不具合の温床になるだけでなく、初心者にとって分かりにくいUIをもたらす。
  5. 【表層】言い訳やユーザーの背後から説明が不要なUIを作るべし
      =業務やシステムのUIに熟練していないエンド・ユーザーに対しても、自信を持って勧められるような、親切設計にせよ。
  6. 【表層】見た目を快適にすべし。画質の荒れた素材や好感の持てない配色をしてはならない
      =良い見た目はエンド・ユーザーの不満を和らげる。
  7. 【全体】自分が立てた仮説を現場で確認すべし。思った結果が得られない場合は、再考せよ

 では、こういったUXガイドラインは、どのようにして実現できるのだろうか? 次回以降は、RIAアプリケーションやUXに対して真摯(しんし)に取り組んでいる企業をインタビューしていく。企業の取り組みに合わせて「プロジェクトの進め方」「設計手法」「テスト方法」などの課題をチョイスし、インタビューを行う。本連載を読み進めていくことで、皆さんにUXを高める武器が備わっていくことを、筆者は期待している。ご期待願いたい。

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