技術者なら知っておきたい「ソーシャルゲーム」とは安藤幸央のランダウン(54)

「Java News.jp(Javaに関する最新ニュース)」の安藤幸央氏が、CoolなプログラミングのためのノウハウやTIPS、筆者の経験などを「Rundown」(駆け足の要点説明)でお届けします(編集部)

» 2010年12月16日 10時00分 公開

「ソーシャル」の台頭

 最近、「ソーシャルメディア」「SNSソーシャルネットワークサービス)」「ソーシャルネットアプリ」「ソーシャルゲーム」と、「ソーシャル」と名が付いたものが数々台頭してきています。もともと「ソーシャル(social)」とは「社会の」とか「社会的な」といった意味を持ちます。

 @ITでも12月7日に「Smart&Social」フォーラムが新規開設しました。おめでとうございます。

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 各種のソーシャルなサービスやゲーム、アプリは、登録者/利用者としての人を集め、人と人のつながりをデータとして活用します。ゲームやアプリ、サービスごとの単一のソーシャル的なつながりではなく、人々が遊び、サービスを提供する土壌となるプラットフォームの中で、それらのゲームやアプリ、サービスが展開されています。

 ソーシャルプラットフォームを展開する企業の1つ、グリーの田中社長は、ゲーム開発者向けカンファレンスの講演の席で、ソーシャルゲームが目指すものは「パチンコのような単純さ」であるといっています。

 「ゲーム」と一口にいっても、ゲームセンターでのゲーム、家庭用テレビゲーム機でのゲーム、携帯ゲーム機でのゲーム、パソコン上でのゲーム、Webブラウザ上でのゲーム、携帯電話でのゲーム、人生ゲームのようなボードゲーム、ものを使わない身体を使ったゲーム(鬼ごっこのようなもの)まで、さまざまなゲームの形態があります。

 その中で、今回取り上げる「ソーシャルゲーム」は、ネットワーク環境やデジタル端末の進化と、時代の流れに沿った新しいタイプのゲームであるといえます。

ユーザーの“時間”の奪い合い

 人間の時間は有限であり、睡眠時間を削ったとしても、一日の時間は知れています。

 何十種類ものゲームを切り替えつつ楽しむ人がいないとはいいませんが、大抵は1〜3本程度の気に入ったゲームを集中して楽しむことでしょう。ソーシャルゲームの提供者からすると、いかに自体のゲームを長い時間楽しんでもらい、かつほかのゲームに浮気せず、集中してもらうかを考え、さまざまなアイデアが凝らされています。

 人気のあるソーシャルゲームが持つ共通の要素として、細切れの短い時間でも楽しめることがあります。

 テレビや読書、音楽視聴、映画鑑賞、スポーツ、どれをとっても、楽しむためにはある枠の時間を必要とします。読書や音楽視聴はモノさえ持っていれば、どこでも楽しめるかもしれませんが、特定の場所でしか楽しめない娯楽もあります。

 それらの時間や場所に制約のあるゲームに比べ、携帯電話で楽しむソーシャルゲームであれば、いつでもどこでも、細切れの時間を活用して、楽しむことができるのです。

入り口は「無料です」

 ソーシャルプラットフォームの価値の1つは、どの環境の中にどれだけユーザーが集うかに掛かってきます。

 TVのCMやさまざまな広告で人を呼び込み、手始めに「無料」で楽しめることをアピールしているソーシャルゲームを多く見掛けます。無料であることによって、気軽に始めることができ、ハードルを低くする効果があります。

 もちろん、ビジネス的に考えると長期間にわたりすべてのサービスを無料で提供し続けることは困難です。そのためには広告収入モデルや月額課金モデル、アイテム課金モデルなど、なんらかの収入源が考えられます。課金対象としては、すべてのユーザーから収入を得て運営するのではなく、一部のユーザーからの課金で運営するという形態もあります。

 ただ、それ以前にどれだけ多くのユーザーを引き付けるかによって、そのソーシャルゲームプラットフォーム自体の価値が変わってきます。多くのユーザーが集うプラットフォームには、多くのソーシャルゲーム開発者がゲームを提供します。そして多くのユーザーが集まり、お金を使うユーザーも増え、ゲーム開発側の収入も増えるという、プラス方向のループが巡ってゆくのでしょう。

ゲームと現実の時間をうまく扱う

 ソーシャルゲームの特徴は、人と人のつながりと、現実世界とのつながりをうまくゲームの中に取り入れたゲームデザインをしているところにあります。

 例えば、ソーシャルゲームは、ゲームの1つ1つが小さく、短時間で楽しめるため、細切れの時間をうまく使えること。また途中で止めてまた時間がある時に再開できます。

 また、いくつかのソーシャルゲームでは、次にゲームに進めるまでのタイムラグ(時間の空き)があるものがあります。一定時間経った後でないと、次の操作をして先に進めない要素があることです。これは一見もどかしく、長い時間遊んでもらえないデメリットを考えてしまいますが、実は逆に、長い期間にわたって、継続的に利用してもらえる効果を持ちます。

 例えば、次遊ぶためには何時間後に再びゲーム画面に訪れなければいけないとなると、その時間を待ち遠しく待ち構え、そのことを気にし、次の機会を楽しむようになるからです。

 これは、サーバシステムの負荷分散にもなります。

 もどかしく感じながらも、継続して使ってもらえる仕組みは、課金アイテムの販売促進に効果を奏します。時間はないがお金はある大人の場合、時間のなさを課金アイテムの購入で解決する場合もあるからです。

 これこそ「時は金なり」ですね。

 また、ソーシャルグラフでつながる、知人たちが同じゲームで楽しむ様子を知りながら自分もゲームを楽しむため、競争したり、ちょっかいを出しり出されたりと、継続して、よりたくさんゲームを楽しむためのモチベーションにつながるようです。

世界的なソーシャルゲームメーカー

 世界的なSNS「Facebook」上で活躍するソーシャルゲームメーカーとしては、Zynga社が圧倒的なシェアを誇っています。最近、日本のウノウを買収し、ジンガ・ジャパンを設立して話題になりました(参照:米ソーシャルゲーム大手Zynga、日本参入 ソフトバンクと合弁で)。

 また、モバゲータウンのディー・エヌ・エーも米国のiPhoneゲームメーカーngmoco社を買収するなど、ますますプラットフォーム戦争が激化してくる様相です(参考:DeNA、米iPhoneゲームメーカーを最大4億ドルで買収 ゲームプラットフォーム強化)。

 Zynga社はFacebookやMySpace、MSN Games、My Yahoo、iPhoneと多岐に渡るプラットフォームで事業を展開し、月間アクティブユーザー数が3億人をゆうに超え、2009年の収入が約170億円、2010年における予想収入が約382億円となっています。つまり1日に1億円を超える収入です。もちろん、ユーザーを集めるために多くの広告を出稿しており、年間9000万ドルの広告をFacebookに載せているそうです。

 仮想の農作物を植えて育てる「FarmVille」や、自分の犯罪組織を大きくしていく「Mafia Wars」、ポーカーゲームなどが広く楽しまれています。

 Zynga社の人気ソーシャルゲームと、よく似たゲームもいろいろとあり、後発の方がいろいろと研究し尽くしたうえでリリースされる場合もあります。いかに多くのユーザーを獲得し続けるか、それぞれのゲームメーカーはしのぎを削っているようです。

ソーシャルゲーム向け短期間開発に適した「クラウド活用」

 ソーシャルゲームは在庫や流通とは無縁の世界です。家庭用ゲーム機のパッケージゲームを発売日に買うために、行列に並ぶということもありません。欠点は、ソーシャルゲームの立ち上げの際、ユーザー数が正確に見込めないことでしょう。期待値を上回るアクセスがあるかもしれません。

 さらに、もしも雑誌やテレビで紹介されるなどしたら、ある瞬間に一気にユーザーが増えることも、まれではありません。システム側が急激なユーザー数増加に対処できず、ゲームが楽しめなかった場合、すぐにユーザーは去ってしまい、再来訪は期待できません。

 このような運用形態の場合、Amazon EC2Google App Engineなどクラウドコンピューティング環境をシステム基盤とするのが最適です。急なアクセス増加にも、資金さえあれば、どんどんハードウェア環境を追加していくことが可能です。もちろん、それには、大規模拡張可能なスケールするシステムアーキテクチャが必須でしょう。

 ゲーム開発者向けカンファレンスCEDECでは、モバゲータウンのディー・エヌ・エーやミクシィ、グリーの3社が「人材を取り合う」ということをテーマにしたソーシャルゲームを、カンファレンス開催3日間をかけて開発していました。

 テーマもさながら、そんな短期間にソーシャルゲームが1本開発できてしまうことも、会場の注目を浴びていた要素の1つでした。実際には、ゲームの中の世界だけでなく、現実世界でも、ソーシャルゲーム開発者獲得の熾烈な争いで、火花が散っているように思えます。

ゲームだけではなく、アプリへ

 ソーシャルゲーム開発における人材ニーズは現在のところ、昔ながらのゲーム開発者ではないようです。ネットワーク技術や大規模サービスに長けたスケール技術・負荷分散技術を持った技術者が活躍する場のようです。しかし今後は、家庭用ゲーム機やパソコン上のネットワークゲーム制作のノウハウなどがカジュアルなソーシャルゲームの世界にも応用されることが予想されます。

 現在のソーシャルプラットフォームの活用はゲームの世界が目立っています。もちろん日記やメッセージといったソーシャルネットワーキングサービス的なものは、脈々と続いていくことでしょう。

 これからはソーシャル的なつながり、つまりソーシャルグラフを生かしたショッピングや、レコメンデーション、ユーティリティツール的なものが広がることが予想されます。

 例えば、手作りグッズのWebサイト「Etsy」では、知人のFacebookプロファイルを参照し、最適なクリスマスプレゼントを選んでくれます。システムにうまく任せれば、知人とプレゼントがかぶる(重複する)こともないかもしれません。

海外展開、スマホ対応も

 そして今後もFacebookなどの海外勢が黒船のように日本にやってきたり、ソーシャルゲーム企業が買収されたり、日本のソーシャル企業が海外に討って出たり、熾烈なユーザー獲得の争いはまだまだ続きそうです。

 また、多くのソーシャルプラットフォームがiPhoneやAndroidなどのスマートフォンへの対応を表明しています。従来の携帯電話にない、デバイスの機能を生かすことによって、ゲームとはひと味違うアプリへの可能性が広がることでしょう。

 たとえIT技術やネットワークがなかったとしても、人と人のつながりはなくなりません。ソーシャルプラットフォームを活用して、今後ますます人と人とのつながりが広がり、豊かな情報や知識が得られる環境が出来上がってくるのではないでしょうか。


 次回記事は、2011年2月初めごろに公開の予定です。内容は未定ですが、読者の皆さんの興味を引き、役立つ記事にする予定です。何か取り上げてほしい内容などリクエストがありましたら、編集部@ITの掲示板までお知らせください。次回もどうぞよろしく。

プロフィール

安藤幸央(あんどう ゆきお)

安藤幸央

1970年北海道生まれ。現在、株式会社エクサ マルチメディアソリューションセンター所属。フォトリアリスティック3次元コンピュータグラフィックス、リアルタイムグラフィックスやネットワークを利用した各種開発業務に携わる。コンピュータ自動彩色システムや3次元イメージ検索システム大規模データ可視化システム、リアルタイムCG投影システム、建築業界、エンターテインメント向け3次元 CG ソフトの開発、インターネットベースのコンピュータグラフィックスシステムなどを手掛ける。また、Java、Web3D、OpenGL、3DCG の情報源となるWebページをまとめている。

ホームページ
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所属団体
OpenGL_Japan (Member)、SIGGRAPH TOKYO (Vice Chairman)

主な著書
「VRML 60分ガイド」(監訳、ソフトバンク)
これがJava だ! インターネットの新たな主役」(共著、日本経済新聞社)
The Java3D API仕様」(監修、アスキー)


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