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» 2011年04月15日 00時00分 公開

ITエンジニアのための経営戦略入門(9):売れない仏像の例え話から、“もうけ”とは何かを知る

ユーザー企業がシステムの設計・開発を依頼するとき、そこには経営的な判断が存在する。顧客の「経営戦略」をとらえたうえでシステムを設計・開発できるITエンジニアになろう。

[松浦剛志, 木山崇,@IT]

 本連載では経営戦略入門として、前回まで「全社戦略」を解説してきた。いよいよ個別の事業の戦略を扱う「事業戦略」に話は移るが、その前に「もうけ(=利益)」について話をしておこう。

シンプルだからこそ答えにくい問い

 もうけとは何か?

 このシンプルな問いに答えてみてほしい。シンプルであるが故に、答えにくいのではないだろうか。

 筆者はこれまで数多くの経営セミナーを実施してきたが、常々「経営戦略やマーケティングを好む人に、会計オンチ・財務オンチが多い」ことが気になっていた。もうけが何かは知らないが、もうけの出し方はよく知っている……これはいかがなものか。

 そんなわけで今回は、会計や財務の基本中の基本である「損益計算書」(PL)について話そう。先ほどの問いにすぐ答えられなかったエンジニア諸君は、これから紹介する「マッチ売りのアルバイト」「売れない仏像」「飲んだくれのバーテンダー」をはじめとした問題群を、しっかり、かつこっそり読んでしまってほしい。

問い直そう、もうけとは何か?

 まず、もうけの大切さについて――これについては今さら言う必要はないだろうが、念のため――説明しておこう。

 「たとえ天使が社長になっても、利益には関心を持たざるをえない」とドラッカーが言うように、利益は企業を営むうえで不可欠である。なぜか?

 事業を永続するためには、利益が不可欠だからだ。お客様に「ありがとう!」と喜んでもらい、お金をいただくのが事業である。事業を永続的に行うこと、拡大していくことが、事業を営む者の社会的責任だ。もうけは、永続や拡大の原資になる。

 では、本題。もうけとは何だろか? 分かっているようで実は曖昧だったりする。手始めに考えて欲しいことがある。

(1)@100円で1個仕入れたものが、@300円で1個売れた

(2)@100円で1個仕入れたものが、@400円で1個売れた

 どちらがもうかっているだろうか?

 もちろん(2)だ。この質問は大丈夫だろう。では、次。

(1)@100円で2個仕入れたものが、@220円で2個売れた

(2)@100円で2個仕入れたものが、@400円で1個売れた

 今度は、どちらがもうかっている?

 答えは(2)だ。

 「(1)は240円のもうけが出ているが(2)は200円のもうけだから、(1)がもうかっている」と考えてはいないだろうか。

 そう考えた人には、さらに質問しよう。(2)において、残りの1個が@400円で売れたら、2個目の取引のもうけはいくらになるのか。やっぱり200円か? とすると、累積のもうけは400円になるのか、それとも1個目と2個目ではもうかった額が異なるとでもいうのだろうか……。

 このように考えれば分かるだろう。上記から、もうけについてまず言えることは、「売れたものの費用だけを引いたものが、もうけである」という点だ。

マッチはいりませんか

 続いて、もう1問。

(1)100円/日のアルバイトが、@100円で仕入れたマッチを、1日かけて@150円で1個売った

(2)100円/日のアルバイトが、@100円で仕入れたマッチを、1日かけたが1個も売れなかった

 今度は、どっちがもうかっている?

 (1):△50円、(2):△100円なので、もうかっている(=損失が少ない)のは(1)だ。

 先ほど説明した「売れたものの費用だけを引いたものがもうけである」という説明と矛盾するように感じた人がいるだろう。ここでのアルバイト代は「売れたものの費用」ではなく、「売るための費用」である。これがポイントだ。売るための費用は、商品が売れようと売れまいと費用になる。

 従って、「売れたものの費用と、売るためにかかった費用を引いたものが、もうけである」と言える。

  • 売れたものの費用(商品代)=100円
  • 売るための費用(アルバイト)=100円

 違うタイプの2つの費用は「売上原価」と「一般販売管理費」と、それぞれ別の名前で呼ばれるので、覚えておこう。

売れない仏像

 では、もう1問。

(1)朝100円で仕入れた木材を、100円/日の仏師が1日かけて仏像にして、夕方150円で売った

(2)朝100円で仕入れた木材を、100円/日の仏師が1日かけて仏像にしたが、夜まで売れずに終わった

 今度は、どっちがもうかっている?

 (1)は△50円で迷いはないだろうが、(2)は0円か△100円かが悩みどころだ。つまり仏師の人件費は、売上原価なのか、それとも一般販売管理費なのだろうか?

 答えは、「売上原価になる」。すなわち、(2)においては、木材も仏師の人件費も売上原価なので、売上が立っていなければ費用は立たないことになる。つまり、売上(0円)、費用(0円)となり、もうけはなし。従って、もうかっている(=損が少ない)のは(2)になる。

 ここで分かることは、売上原価になるか一般販売管理費になるかは、売り物の価値に、その費用が上乗せされるかどうかで決まるということだ。人の役務がモノの価値に転化されるかどうかで決まるとも言える。売上原価というより「製造」原価という方がしっくりくるかもしれない(エンジニア諸君のプログラミング時間に対する給料は、会社にとってはソフトウェアの製造原価になっていることをご存知だろう)。

 「アルバイトが昨日一生懸命に売ったマッチなので、昨日よりも値段が高いのです!」は通用しないが、「仏師が一生懸命に加工した」費用は、商品の価値を高めるのである。

飲んだくれのバーテンダー

 それでは、売上原価と一般販売管理費に関する最後の問題だ。

(1)あるバーテンダーが、100円で仕入れた100ミリリットルのウイスキーを使って、80ミリリットルのショットグラスを1つ作り、120円で売った。残り20ミリリットルは飲んだ

(2)あるバーテンダーが、100円で仕入れた100ミリリットルのウイスキーを使って、80ミリリットルのショットグラスを1つ作り、120円で売った。残りは保存した

 今度は、どっちがもうかっている?

 (1)が20円なのは分かる。論点は(2)が40円か20円か。

 答えは40円で、(2)のほうがもうかっている。この違いは何か?

 売上原価になる可能性がなくなる(飲む)と、それは費用になるという点だ。逆を言えば、費用になるまで宙ぶらりんの状態で20円分はどこかに存在している。宙ぶらりんの20円分がどこに隠れているのかは、貸借対照表(=BS)の話になるので、ここでは触れない。

 さて、ここまで分かれば、損益計算書(PL)についての一歩は踏み出せた。

  • 売上計上基準
  • 損益計算と収支計算
  • 減価償却
  • 消費税

 上記の項目についても、この程度の質問に解答できる必要がある。

 特に、損益計算と収支計算の違いは、明確に理解しないとまずい。収支計算とはキャッシュフローと言われるお金の流れだ。もうけの算出要素である「売上」と「費用」とは、完全に別物である。

レッツ・チャレンジ

 以下の問題に自信を持って解答ができれば、「もうけの理解」は合格だ。チャレンジしてみよう!

問い:(1)〜(9)を読み、1カ月の損益と収支を計算せよ。

(1)商品の在庫がないので、月初に銀行から500円借り入れた

(2)2日に、@100円の商品を3個仕入れ、今月末に振り込み支払いをする

(3)3日に、@250円で商品が1個売れて現金回収した

(4)4日に、@400円で商品が1個売れた。うち200円を現金回収し、残額を月末に銀行振り込みで回収する予定

(5)5日に、商品を@100円で10個仕入れ、現金で支払った

(6)6日に、@400円で商品が2個売れて全額現金で回収した

(7)7日に、昨日のお客さんが来て「1個は不具合があった」と言われ、400円を現金で払った。不具合のものは破棄してもらうようお願いした

(8)月末に、銀行に500円を返して、金利の20円も支払った

(9)月末の振り込みと回収は予定通りであった

  • 回答フォーマット(参考)
  
損益
収支
在庫
売上
費用
入金
出金
数量
金額
1日            
2日            
3日            
4日            
5日            
6日            
7日            
月末            
月末            
合計        
差額    

 損益と収支を計算した過程を上記のフォーマット形式でまとめ、2011年4月末日までに info@willmitz.jp に送付した方には、もれなく解答例を返信する。

 もっと、もうけについて知りたかったり、期日以降に解答例が欲しい場合には、ウィルミッツ社が主催する公開セミナー もうけの心得 『ビジネスで役立つもうけの経済学』 の受講をお勧めしたい。

 次回は、もうけのコツについて話そう。事業戦略はその次を予定する。では、次回もお楽しみに。

セミナー情報

本連載の筆者が講師を務める「経営戦略 実戦型演習セミナー」の情報がWebサイトで閲覧できます。1日の集中トレーニングで戦略「眼」を身に付けたい人に最適なセミナーです。

経営戦略 実戦型演習セミナー


筆者紹介

松浦剛志(まつうらたけし)

京都大学経済学部卒。東京銀行(現 三菱東京UFJ銀行)審査部にて事業再生を担当。その後、グロービス(ビジネス教育、ベンチャー・キャピタル)、外資系ベンチャー・キャピタルを経て2002年、戦略・人事・会計を中心とするコンサルティングファーム、ウィルミッツを創業。2006年、業務改善に特化したコンサルティングファーム、プロセス・ラボを創業。現在は2社の代表を務める傍ら、公開セミナー、企業研修の講師を務める。セミナーテーマは「経営戦略」「会計と財務」「問題解決」「業務改善」。

木山崇(きやまたかし)

2000年、東京大学工学系研究科修了。シティバンクを経て、外資系証券会社に勤務。日本証券アナリスト協会検定会員。ウィルミッツ、プロセス・ラボのアドバイザーとしても活躍。



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