オープンソース・クラウドとシトリックスの関係クラウドHot Topics(4)(2/2 ページ)

» 2011年04月20日 00時00分 公開
[三木泉@IT]
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 かなりの技術力をもった事業者でないかぎり、クラウドが大規模化してくると、無償版では運用が追いつかなくなってくるはずというのがシトリックスの読みだ。有償版製品では一番安価な(米国では1サーバ1000ドル)XenServer Advanced以上のエディションでも、複数の物理サーバにまたがって単一の仮想スイッチを構成・運用できる分散仮想スイッチ機能を持つ(ただし、このコード自体はオープンソースのOpen vSwitchとして入手可能)。また、異なるアーキテクチャのCPUを共存させて単一の仮想化ホストプールを構築できる機能を備えるなど、事業者は有償版製品に移行することにより、大規模クラウドの運用を円滑化できるとする。さらにXenServerは、「CPU単位でなく、サーバ単位の価格体系であるため、ほとんどの場合コスト効率が高い」とシプレー氏は価格体系の優位性を主張する。

 XenServerの次期リリースであるXenServer 6.0では、Open vSwitchを完全に統合するとともに、VMLogixの買収で手に入れたセルフサービスポータル機能、そしてディザスタリカバリ支援機能を組み込む。こうした付加価値機能で、クラウドサービス事業者の有償版XenServerへの移行を促していきたいという。例えばRackspaceはすでに6000のWindowsサーバ(仮想マシン)を、有償XenServerに移行したという。

この図のOpenStackの部分は、シトリックスの儲けにはならない。しかし上と下の部分で付加価値を発揮し、ビジネスにつなげていくという この図のOpenStackの部分は、シトリックスの儲けにはならない。しかし上と下の部分で付加価値を発揮し、ビジネスにつなげていくという

OpenStackのAPIを使ったソリューションの提供へ

 シプレー氏の担当するDatacenter and Cloud Divisionは一方で、アプリケーション・デリバリ・コントローラのNetScalerやBranch Repeaterといったネットワーク製品を部門に取り込んでいる。ネットワーク製品の売り上げを生かしながら、これらの製品に対し、社内データセンターとクラウドサービスの連携を容易にする機能の組み込みを進めている。具体的にはOpen Cloud Bridge(社内とクラウド間のVPN/リダイレクト/WAN最適化機能)とOpen Cloud Access(社内とクラウド間の認証連携機能)だ。シトリックスはこれらを生かし、さらに今後、必要に応じてOpenStackのAPIを利用し、目的別のさまざまな「ソリューション」を提供していく。これも、シトリックスとして付加価値を提供できる部分だという。

 「ソリューション」といわれても具体的に何を意味するのか分かりにくい。シプレー氏はディザスタリカバリを例に、これを説明した。

 「XenServer 6.0にはディザスタリカバリを可能にする機能を搭載する。しかし、これを使って、クラウドに対してリカバリを実行したいなら、クラウドとの間のブリッジ機能などが必要になる。今年後半には、Open Cloud DRという機能も提供する予定だ。これはEssentails for Hyper-Vの次の段階ともいえるもので、XenServerとHyper-Vを統合的に扱い、エンタープライズからクラウドへの、クラウドベースのDRを実現する」

 シトリックスはほかのソリューションとして、テスト&開発、デモ環境、アプリケーション/デスクトップ仮想化、PCIコンプライアンスなどを挙げている。そのうち一番重要なのは、テスト&開発とディザスタリカバリだという。ユーザー企業は、これらのソリューションを、一部の対応クラウドサービス事業者のサービスとして利用することができる。一方、ユーザー企業側で完全にコントロールしたい場合は、自社が社内とクラウド事業者にまたがってシトリックス製品などを用い、専用の環境を構築することができる。現在のところ、これらのソリューション実現のためにクラウド運用ソフトウェアのAPIを活用したい場面で、OpenStackを使えるようにはなっていない、しかし、準備ができた段階で、OpenStackを推進していくという。

 「OpenStackでは今年中に複数のリリースを計画している(編集部注:例えば4月中旬には、VMware ESXにも対応した『Cactus』と呼ばれるリリースが登場した)。主要なクラウド事業者における大規模なパイロット運用も予定している。OpenStackによるオーケストレーション・レイヤが完成するまで、われわれはすでにこれ(クラウド運用ソフトウェア)を持っている企業と組んでいく。例えばCloud.comとは複数のプロジェクトをすでに行っている」

 シトリックスのいうソリューションとは、まずはクラウドサービス事業者に対する付加価値向上支援のビジネスであり、次にクラウドサービスを活用する企業への、利用高度化技術提供の取り組みになる。VMware vSphereを社内で全面採用しているユーザー企業であっても、クラウドサービスとの連携に際してはシトリックスの製品や技術を活用するシナリオが描けるという読みが、その裏にあると考えられる。

Amazon Web Servicesとの提携

 OpenStackプロジェクトは、Amazon Web Services(AWS)対抗の動きとしての側面が指摘されることもある。シトリックスは、そのAWSとも、1月に技術提携を発表した。プレスリリースでは、提携内容が下記のように表現されている。

・相互運用性の強化
XenServerのユーザーは、従量制で拡張性と柔軟性の高いAWSやクラウドコンピューティングのメリットをさらに受けられるようになります。また、Amazon Webサービスとオンプレミス型XenServer間の接続、仮想マシンの移行および管理がさらに容易になります。

・Windowsインスタンスの最適化
Windowsの仮想化と配信のエキスパートであるシトリックスは、AWSと連携して、エンタープライズ規模でWindowsアプリケーションを展開するためのWindowsインスタンスを最適化します。

・先進的なクラウドソリューション
シトリックスは、障害復旧、オンデマンド型アプリケーション、高度なセキュリティおよびコンプライアンスといった先進的なエンタープライズ向けクラウドソリューション分野において協力します。

 これは、分かるようでいまひとつ分かりにくい部分もある。シプレー氏は、今回の提携について、「技術協力と、アーキテクチャのレビューの段階」だと表現する。AWSがオープンソースXenからXenServerに移行することはない。AWSがシトリックスの技術協力を得て、具体的に何らかのサービスを開始するという発表でもない。シトリックスからAWSへの、何らかのテクノロジ移転やライセンスが行われるわけでもない。

 しかし、シプレー氏は、まずシトリックスが「WindowsのP to Vについて彼らにないノウハウを提供できる。企業データセンターからパブリッククラウドへのワークロード移行を安全にでき、1つのコンソールでプライベートクラウドとパブリッククラウドを管理できる環境を提供できる」と話す。

 また、デスクトップ仮想化/シンクライアント環境のXenAppについて、AWSと話し合っているという。

 「次第に、XenAppをパブリッククラウドでホストしてほしいという人が増えてくる。現在のところ、セキュリティやポータビリティ、容易さ、ネットワークの可視化といった点で不安があるが、多数のXenAppワークロードがパブリッククラウドに移行するようになるだろう。AWSはこうした可能性を喜んでいる」

 シプレー氏は、この提携の発表には含まれないが、OpenStack環境とAWSの連携についても、AWSと話し合っているという。「AWSはこれについて協力してくれることになっている。あらゆるハイパーバイザ間、あらゆるプライベート/パブリッククラウド間の連携を実現することが、われわれのビジョンでもある」。


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