「ファイト! ふくしま」、エフスタ!!勉強会に見るエンジニアの力いま、ITエンジニアにできることは?

» 2011年05月20日 00時00分 公開
[高橋睦美,@IT]

 「こんな時だからこそ集まりたい」――福島県を拠点に、ITエンジニアのスキルアップ支援を目的として活動しているコミュニティ「エフスタ!!」が、東北情報セキュリティ勉強会と共同で4月23日に第6回勉強会を開催した。テーマは「ファイト! ふくしま、立ち上がろう! 東北」。東日本大震災、そして原発事故の影響が色濃く残る中、県内外から、ベテラン会社員から新入社員、大学生、高校生まで幅広い層が参加し、ITにできることは何か、互いの思いをぶつけ合った。

 最初のセッションでは、グレープシティの八巻雄哉氏が「やっぱりプログラミングが好き!」と題して講演を行った。同氏は、SHARP X1D(CZ-802C)、MSXに始まる自らのコンピュータおよびプログラミング歴を振り返りながら、どこからその楽しさが生まれるのかを自分なりの言葉で語った。

 八巻氏がソフトウェアを作っていて面白いと感じるのは、「どうやって動いているのかを理解し、自分で試すことができるところ」だという。特に昔のコンピュータ環境では、雑誌などを参考に他人のプログラムをまね、試し、「神」に等しい振る舞いができた。だが、ソフトウェアが複雑化、巨大化したいまは、そうした試行錯誤が困難になっているという。

「やっぱりプログラミングが好き!」と題して講演を行ったグレープシティの八巻雄哉氏

 「昔といまとで何が違ったかというと、昔はコンピュータも単純で、比較的簡単にまねすることができた。しかしいまは複雑化しており、挫折する人が多いかもしれない。初めは単純で小さなプログラミング環境が必要ではないか」と八巻氏。昔の「最小プログラミングセット」がBASICやHTMLだとすれば、いまのそれはスマートフォンではないかと述べた。

 プログラミングを楽しむもう1つのポイントは、他人から得られる「いいね」というフィードバックだ。「自分で作ったものを誰かに喜んでもらう経験が一度でもあれば、面白くなるのではないか」と八巻氏は述べ、スマートフォンアプリ、特にiPhoneやAndroidに比べまだアプリケーションの少ないWindows Mobile 7向けの開発に挑戦してみてはどうだろうと呼び掛けた。

 八巻氏は生まれは福島だが、親の転勤の関係で仙台に転居。「これまで、あまり福島を意識したことはなかったけれど、エフスタ!!で初めて福島の友達ができて、福島出身でよかったなと感じた」という。そして「IT業界で何ができるかを特別に意識しなくても、日々の仕事を頑張っていくことがみんなのためになる」と、ITエンジニアにエールを送って、講演を締めくくった。

「情報」と「電気」の重要性を実感

 この勉強会は、合間におやつ(ハイパーおやつクリエイター、「わたけん」氏による自作おやつも含む)休憩を挟みながらの進行。司会を務めたエフスタ氏、まっちゃだいふく氏のパーソナリティも相まって、基本的に和気あいあい、時に真剣にという雰囲気で進んだ。

 第2部は、震災や原発問題、復興などをテーマとした(若干無茶振り交じりの)参加者によるパネルディスカッションやグループディスカッション、ライトニングトークという流れとなった。その発言の中から、印象に残ったことを記していきたい。

無茶振りを交えつつ始まったパネルディスカッション

 1つは、異口同音に「情報収集の重要性」を訴える声が挙がったことだ。震災直後の福島は、電話も携帯電話のメールもなかなかつながらなかった。その中で有用だったのがインターネット、特にTwitterを介した情報共有だったという。「このお店は何時までやっている」といった、地域に密着した情報を交換、共有できるという意味で、ソーシャルメディアの存在感が高まった。

 ただ一方で、こうしたメディアはデマの媒介にもなりうる。インターネットやソーシャルメディアというものに初めて触れる人々がどのような立ち位置で向かい合うかが課題になるという意見も挙がった。グループディスカッションのまとめでは、「1つの情報源からだけ情報を得ていると、情報にゆがみが生じる。いろんなところから情報を得て、自分に必要な情報は何かを見極める能力を普段から身に付け、情報を選んでいくことが必要だ」という声があった。

セッションの合間にはお菓子を囲んでフリートークタイム

 原発事故を抱える福島県の場合、正確な情報がいっそう求められている。放射線量に関する情報がなかなか公表されないので、自ら県に尋ねてみた、というテーマでのライトニングトークも行われた。

 エフスタ氏は司会の合間に、「朝起きたら、天気予報よりもまず原発情報をチェックしている。けれど、なかなか情報が出てこないのが地元住民としてはつらいところ」と述べた。「いままで起こったことのない事故が起こっているのに、いままでの基準で大丈夫といわれても不安。国にはきちんと情報を公開して、その上で安全基準を設けてほしい」――これは住民の切実な願いだろう。

 もう1つ、一連のディスカッションで目立った意見が、「電気というインフラあってのIT」「電気がなければ、ITエンジニアはただの人」というものだ。

グループディスカッションでは、「震災のときはサーバが倒れないよう必死に押さえた。帰宅はスリッパで」「常駐先にいる場合の指示系統が分からず、帰宅していいのかどうか判断に困った」といった生々しい声も

 仙台市泉区に本社を置くグレープシティの福地雅之氏は、ライトニングトークの中で、震災後の同社の動きを紹介した。被災し電源も回線も途絶え、PCなどの機器も被害を受けた同社。海外からは「本社が消えた?」、「404 Not Found」状態となったWebサイトを見た顧客からは「グレープシティって仙台にあるの?」と問い合わせがあったという。

 ファイルなどのデータを米国のサーバに移し、サービスを復旧するまでに10日ほどかかったというが、その過程で、電気、通信回線、そして人を運ぶ手段――ガソリンがなければ、IT企業にできることは限られていると痛感したそうだ。けれど逆に「電源や回線などのインフラが復旧してくれば、ITはすぐ復旧できる。ITにできることはあるはず」という。

 グループディスカッションでは、IIJなどの事業者が、負荷集中で落ちそうになったサーバを支援した裏に、Twitterなどを通じた迅速なコミュニケーションがあったことに触れ、「エンジニアどうしの横のつながりは大事だ」とする声もあった。「エンジニアとしては、電気が通じてからしか技術力を生かせない。それまでは、何かうまい仕組みができたらすぐに伝えられるよう、人とコミュニケーションを取ることが大事ではないか」という。

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