新しいイーサネット技術、Shortest Path Bridging次世代データセンターを支えるイーサネット(1)(1/3 ページ)

クラウド時代を迎え、ネットワーク環境には仮想サーバとの連携やネットワーク自体の仮想化、高い冗長性の実現といった一段高い要件が求められるようになった。こうした課題の解決を目指して標準化が進む新しいイーサネット技術、Shortest Path Bridging(SPB)について解説する(編集部)

» 2011年07月13日 00時00分 公開
[日野直之日本アバイア株式会社]

仮想化の観点から注目浴びるレイヤ2マルチパス技術

 クラウド時代を迎え、ネットワーク環境も仮想サーバとの連携、ネットワークの仮想化、そして高い冗長性の実現が求められている。その解を提供するネットワーク技術としてIEEEで標準化が進んでいるShortest Path Bridging(SPB)や、IETFで標準化が進んでいるTransparent Interconnect of Lots of Links(TRILL)がある。

 この連載ではSPB技術を中心に、ロスレスイーサネットや仮想サーバとの関係などについて、数回に分けて解説していく。同時にTRILLと比較しながら、それぞれの技術の特徴も整理していきたい。ただし、SPB技術を推進する立場からの説明になることはご了承いただきたい。

 いま述べたように、SPBは「仮想化に対応したイーサネット」として生まれ、注目されてきた。さらに、震災の影響からデータセンターの分散化という観点でも非常に注目を浴びるようになっている。

 今回は、なぜデータセンターの分散化という局面でSPBが注目されているのかについて説明する。そして次回は、本来SPBの適用が想定されている仮想サーバ技術との連携に話を進めたい。

WANを越えようとするイーサネット

 最近、震災の経験から、災害発生時の業務への影響を少なくするために、データセンターの分散化の検討をしているという顧客に会う機会が非常に増えてきた。データセンターを分散化し、それらにバックアップセンターの機能を持たせ、すぐに立ち上げて運用し電力不足に備えたい、という差し迫った要望も多い。

 しかもその際、新しいセンターのインフラは、最初から新たに検討するよりも、実績もあり運用方法も確立している既存の運用中のサーバやネットワークをそのままミラーし、新しいセンターでも稼働させたいというのである。

 そこでネットワーク管理者を悩ませるのは、これらの分散したデータセンター間を結ぶ、大容量かつレイヤ2の冗長性のあるWANをどのように構築するかということだ。

 いろいろな手法が思い浮かぶ。「リンクアグリゲーションでWANを結ぶ」「スタックをWANを超えて構成する」「VPLSで構築する」……。しかしいずれも、どこかしっくりこないと感じられている方も多いのではないだろうか?

 そこで登場するのが、レイヤ2マルチパスに対応したSPB技術なのである。

これまでの技術でデータセンター間接続は可能か?

 おさらいの意味を含めて、これまで提案されてきたデータセンター間の接続手法を整理し、技術的な問題点を洗い出していきたい。

図1 2つのデータセンターを二重化して接続する、その手法は……? 図1 2つのデータセンターを二重化して接続する、その手法は……?

スパニングツリー(Spanning Tree)とその問題点

 最初に、既存のイーサネットにおける問題点を洗い出すために、単純にスパニングツリー(Spanning Tree)を利用したネットワークでデータセンター間を二重化して接続する場合を考えてみよう。

図2 スパニングツリーで二重化すると、ブロックポートが生成される 図2 スパニングツリーで二重化すると、ブロックポートが生成される

 スパニングツリーで二重化した場合には、物理的なループを形成する。ループのどこかにブロックポートが生成されるため、帯域を有効活用できない。

 確かにスパニングツリーでも、MST(Multiple Spanning Tree)で構成すれば、ブロックポートが存在する位置をVLANごとに変えることも可能であり、WAN帯域の有効活用は実現できる。また、MSTでの高速な切り替えにより、障害時のネットワーク停止時間を数秒以下に抑えることもできる。

 ところが、スパニングツリーでデータセンター間ネットワークを構成する場合には、それ以外に大きな問題点がある。ルートブリッジの存在である。

図3 MST/RSTを利用しても、ルートブリッジの障害時には高速な切り替えは困難 図3 MST/RSTを利用しても、ルートブリッジの障害時には高速な切り替えは困難

 スパニングツリーの進化により、MST/RST(Rapid Spanning Tree)を利用すれば、パス障害に関しては高速な切り替えが実現可能となった。しかし、ルートブリッジ自体の障害は解決できない。ルートブリッジの選択からスパンニングツリーが再構成されるので、数十秒単位でのネットワーク断が発生してしまう。

 さらに、スパンニグツリーを透過可能なキャリアのイーサネット網では、そもそも網内のスイッチがSTPの切り替えを認識しているわけではない。このため、STPの切り替え発生時にキャリアの網内でブラックホールが発生する可能が高い。

リンクアグリゲーション(Link Aggregation)とその問題点

 このようなスパニングツリーの課題を踏まえると、次に検討される方法は、リンクアグリゲーション(Link Aggregation)であろう。

 リンクアグリゲーションでWANを結ぶ場合には、これを構成するスイッチの二重化が課題になる。機器も二重化しなければ、せっかくWANを二重化したにもかかわらず、冗長化していない点(SPoF)が残ってしまうからである。

図4 リンクアグリゲーションでWANを結ぶ場合は、スイッチの二重化が課題に 図4 リンクアグリゲーションでWANを結ぶ場合は、スイッチの二重化が課題に

 もちろん、きょう体をまたいでリンクアグリゲーションを構成できる機器も増えてきている。しかし、そうしたスイッチにはまだ比較的高価なものが多い。

図5 きょう体をまたいでリンクアグリゲーションを構成できるスイッチもあるが、比較的高価 図5 きょう体をまたいでリンクアグリゲーションを構成できるスイッチもあるが、比較的高価

 リンクアグリゲーションを確実に構成し、高速な切り替えを実現する技術としてLACP(Link Aggregation Control Protocol)があるが、LACPはフレームの特性上リンクを超えないため、キャリア網を透過しない。そのため、WANでの利用が難しい。

 そうなると、機器を二重化するためにスイッチをスタック構成にして、LACPは利用せず、スタティックなリンクアグリゲーション構成を検討したくなるだろう。その際には、対向のリンクが落ちた場合にブラックホールの発生を防ぐため、自身のリンクも落ちてくれるかどうかが鍵になる。

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