注文の多いデータセンターネットワークにどう応える?次世代データセンターを支えるイーサネット(2)(1/2 ページ)

クラウド時代を迎え、ネットワーク環境には仮想サーバとの連携やネットワーク自体の仮想化、高い冗長性の実現といった一段高い要件が求められるようになった。こうした課題の解決を目指して標準化が進む新しいイーサネット技術、Shortest Path Bridging(SPB)について解説する(編集部)

» 2011年09月01日 00時00分 公開
[日野直之日本アバイア株式会社]

データセンターネットワークが求める5つの条件

 データセンターのネットワークに対する要求として、常に挙がる項目がある。いわく、

  • 広帯域なネットワークが欲しい
  • 冗長性の高いネットワークが欲しい
  • 運用管理性の高いネットワークが欲しい
  • 仮想サーバ技術と親和性の高いネットワークが欲しい
  • FCoEに代表されるイーサネットストレージに対応可能なネットワークが欲しい

の5つだ。

 今回は、SPBがこれらの要求のうち、広帯域高い冗長性運用管理性仮想サーバ技術との高い親和性という4つの要求を、マルチパス技術およびトンネル技術を用いて、どのように満たしているかを見てみよう。なお、イーサネットストレージへの対応については次回検討したい。

マルチパスの利点――帯域拡大と冗長性

 SPBがデータセンターのネットワーク基盤技術として注目されている理由の1つに、マルチパス対応がある。

 まず、ネットワークがマルチパス対応することにより、どのような利点が生まれるのか考えてみたい。マルチパスの利点の1つは、利用可能な帯域が増大することだ。つまり、データセンターのネットワーク要求の1つを満たすことができる。

 複数の物理的回線を仮想的に束ねる技術であるリンクアグリゲーション(Link Aggregation)を考えると、そのメリットは明らかだ。イーサネットの速度は、10GbEから40GbE、100GbEへと高速化している。だが現実的には、コストとの兼ね合いが生じる。例えば、40GbEのポート単価が10GbE×4と同等になるまでは、なかなかその導入は進まない。この点、10GbEを4本束ねたLink Aggregationを導入してしまえば、40Gの帯域をコストパフォーマンスに優れた形で確保できる。

 マルチパスのもう1つの利点は、冗長性の向上だ。

 これは航空機を例に挙げて考えてみたい。皆さんが利用する航空機には、たいてい複数のエンジンが付いている。その理由の1つは冗長化のためだ。これは、ネットワークが複数の経路を用意し、冗長化を図ることと似ている。

スパニングツリー(Spanning Tree)とその問題点

 しかし、航空機のエンジンとネットワークの経路とでは、冗長化の考え方に大きな違いがある。

 双発エンジンの航空機は、飛行中両方のエンジンを使用する。それに対してネットワークの冗長化では、多くの場合はスパニングツリーを利用しているため、複数の経路があっても通常時には片方の経路しか利用しない。障害が発生してようやく、冗長経路として設定してあったもう片方の経路が利用される。

 「障害時でも、もう1つエンジンがあるから大丈夫」といわれても、片発の航空機は敬遠しておきたいという思うのが人情であろう。しかし、スパニングツリーを利用している現状の多くのネットワークでは、片発の航空機と同じ考え方の冗長化しかできていなかった。

図1 スパニングツリーを航空機に例えると、片発のようなもの 図1 スパニングツリーを航空機に例えると、片発のようなもの

 その点、リンクアグリゲーションを利用すれば、帯域を増やすだけでなく、アクティブ-アクティブの冗長性の高いネットワークを構成できる。しかし、リンクアグリゲーションにも問題点がある。前回もお話ししたとおり、Single Point of Failure(SPOF)が生じてしまうことだ。

 この問題点を解決するため、きょう体をまたいだリンクアグリゲーション技術がネットワークベンダ各社から出てきている。ただ、各社とも独自技術によるもので、相互接続が保証されている状況にはないため、マルチベンダ環境での構築には向かない。公開されている情報も限られている。

 そこで、マルチパス技術の標準として検討されてきた仕様がSPBだ(実は歴史からいうと、こう単純な話ではないのだかが、それは後ほど)。

SPBで構成するマルチパスネットワーク

 SPBのマルチパス技術は、リンクアグリゲーションとは違い、複数のノードを含む多段構成のマルチパスを構成できる。また、回線速度が同一である必要性はまったくない。

 しかし、Shortest Path Treeに基づいて経路選択を行うので、経路の回線に速度差があるような場合には注意が必要だ。トポロジ的にマルチパスのネットワークになっていても、利用される経路は高速な回線だけで、シングルパスになってしまう。

図2 Shortest Path Treeに基づく経路選択のため、速度差があるとシングルパスに 図2 Shortest Path Treeに基づく経路選択のため、速度差があるとシングルパスに

 つまり、SPBで帯域も大きく冗長性も高いマルチパスネットワークを構成する場合には、Equal Cost(同一コスト)であることが前提になる。

図3 マルチパスネットワークを構成するには、Equal Cost(同一コスト)であることが前提に 図3 マルチパスネットワークを構成するには、Equal Cost(同一コスト)であることが前提に

 では、同一コストの経路が複数ある場合、SPBは、どのような経路をマルチパスとして利用するのだろうか。

 SPBの特徴は、前回記したように、あるノード間のパスが常に対称的になることだ。そのために、あるノード間に同一コストの経路が複数あるときでも、パス選択は常に、双方から対称的に同じ順序で行う必要がある。それが、前回述べたタイブレイクアルゴリズムである。

 この経路選択のために、SPBは以下の方法で最短経路を決定している。

 もし、上りと下りとで同じ経路を選択させるパラメータとして、インターフェイスの属性など(例えばインターフェイスのMACアドレスの大小やインターフェイスのID)を利用すると、上りと下りで経路が異なる可能性があるため、これは採用できない。そこで、機器そのものの属性であるIS-ISのBridgeID、すなわちブリッジプライオリティと装置のMACアドレスを利用して決定することになる。

 具体的には、第1の経路としては、Equal Cost Tree(ECT)上の経路上に存在する、SYSIDが最小のものを含む経路を利用することになっている。第2、第3……とマルチパスで選択する経路の順序の決定も、SYSIDからある演算をして導き出す(現状では、この演算が16通りしか利用できない。これが、SPBにおいて特定のノード間では16種類のマルチパスしか利用できないという制限につながっている)。

 また、この選択のアルゴリズムはSPBの網内で同一でなければならないため、IS-ISによって広告し、共有されている。この選択された経路に対して、SPB上の仮想ネットワークのIDである「ISID」を自動的に分散させ、経路に割り当てる。これによって、特定のノード間で複数の経路が利用可能になり、大きな帯域を利用できるようになるわけだ。

図4 Equal Cost Tree(ECT)での経路選択のアルゴリズム 図4 Equal Cost Tree(ECT)での経路選択のアルゴリズム

 ここで注意しておかなければならないことがある。中間のノードはISIDで経路選択をしているわけではないということだ。中間のノードでは、カプセル化しているフレームのVLAN IDによって、何番目の最短経路を選択するかが決まっている(このVLAN IDの情報も、IS-ISによってすべてのノードで共有されている)。つまり、ISIDが複数のVLANに分散されることによって、複数の経路を通るのである。

 SPBはTRILLと違い、複数の経路がある場合でも、SPB網に入った時点でどの経路を通るか決定されている。各ノードごとに経路選択されるわけではないので、トラフィックエンジニアリングの利用も比較的容易だ。つまり、データセンターでSPBを利用していれば、各パスの利用状況を見ながら、輻輳(ふくそう)を回避するパスを選択させるなどの運用も比較的容易になる。

 また現状では、ISIDはVLANと対応させる形で標準になっている。だがISIDには、1600万という広大な空間がある。そこで、いろいろなフローをISIDに対応させることで、よりきめ細かなトラフィック分けを行い、経路選択をさせようという動きもある。

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