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» 2011年10月27日 10時00分 UPDATE

中村伊知哉のもういっぺんイってみな!(2):融合オワタ

もう融合は終わったのだ。場面は転換したのだ。PC、スマホ、タブレット、サイネージ。テレビ以外のマルチ・デバイスが定着する。地デジが整備され、メディア融合ネットワークが完成した。新しいステージでのサービス展開が必要だ。

[中村伊知哉,@IT]

融合は終わったが、海外と比べたらヘッピリ腰

 融合は、終わった。ポスト融合が本番を迎えている。

 通信・放送の融合は20年も前から議論されてきた。放送にITが侵入してくることに否定的だった放送業界も、近ごろはテレビ番組のネット配信や、ケータイ向け放送や、見逃しIP視聴などに力を入れている。いずれ融合なんて死語になるぞ。

 ただ、海外と比べたら、いまだヘッピリ腰だ。

 号砲は2006年1月、米国でグーグル、ヤフー、マイクロソフトがアップルに続き映像配信ビジネスを発表。ネット企業がハリウッドのコンテンツを引っさげ、世界市場を牛耳ると宣言したことだ。これに対し、CBS、NBCなど米放送界は電光石火、これらネット企業、IT企業群と提携し、人気番組を配信し始めた。放送局主導の配信サイトhuluはYouTubeと張り合い、日本上陸も果たしている。

 米国以上に放送局が前面に出ているのが欧州。BBCは2007年にYouTubeにチャンネルを設置、見逃しサービスiPlayerもスタートさせた。フランステレビジョンはフランステレコムと提携し、ドイツZDFやARDはドイツテレコムと提携。国営・公共放送局が融合を主導した。

 さらにニューズ・コーポレーションによるダウ・ジョーンズの買収、通信社のロイターとトムソンの統合、マイクロソフトとヤフー、グーグルを巡る攻防、最近ではグーグルによるモトローラ・モビリティの買収など、メディア業界は再編が進んだ。通信・放送の融合という狭い枠組は色あせて、新聞、出版、コンピュータ、ハードウェアなどメディア全体を巻き込む世界的な再編劇が繰り広げられている。ここに日本企業の出番はない。

 NHKがNHKオンデマンドをスタートさせたのが2008年末。号砲から3年遅れだった。何せ2005年にはライブドアvsフジサンケイ、楽天vsTBSという冬の陣・秋の陣があり、放送業界はITへのファイティングポーズをとり続けていたから、展開に遅れた面はあろう。

 その後、民放各局が徐々に番組を配信し、吉本興業やエイベックスなど番組制作側も積極的に攻め始めた。2009年にはTBSオンデマンドが通期黒字をみせ、日本テレビやフジテレビもネット事業が黒字を示すようになっている。ラジオのネット配信では、私も理事として関わったradikoが2010年、大阪での実験を皮切りにサービスを拡大している。

 2011年3月の震災では、この針がグッと動いた。広島の中学生がNHKの画面をiPhone経由でUstreamしたことを契機に、NHKも民放数社もテレビをネット配信。世界中が日本のテレビ番組をネットで見る状況が出現した。その後2週間で世界のUstreamユーザーが倍増したという。radikoも放送エリア外に配信し始めた。あの広島の中学生はいま、どうしているのだろう、表彰状を与えたい。

 だが、それから1〜2カ月を経て、番組内容が平常化するに伴い、ネット配信も中止、radikoのエリアも元通りになっている。簡単には進まない。9月には、NHKがネット同時配信する構想を打ち出したことに対し民放連が反対を表明するなど、まだ全体にヘッピリ感がぬぐえず推進力がみなぎらない。

 そりゃテレビのビジネスモデルは最高だったからね。ネットに進出したところで儲かるわけでもなく、非合法コンテンツの巣窟に手をさしのべることは信念が許さないさ。しかし、テレビが囲い込んで守る戦略は、もはや延命措置でさえなくなった。業界同士が内輪でにらみ合っているうちに、世界のメディア業界は再編を続け、スポンサーはCM出稿を抑えてネットや海外のサイトに広告費を振り向ける。

 もう融合は終わったのだ。場面は転換したのだ。PC、スマホ、タブレット、サイネージ。テレビ以外のマルチ・デバイスが定着する。地デジが整備され、メディア融合ネットワークが完成する。コンテンツからソーシャルへとネットサービスの主軸が移動する。デバイス、ネットワーク、サービスの3点全てで地殻変動が発生した。新しいステージでのサービス展開が必要だ。

 すると今度はスマートTV、ネットTVがにぎやかになっている。PC、スマホ、タブレット、サイネージを経て、あらためてテレビ。

 グーグル、アップル、ヤフー、マイクロソフトら5年前に号砲を鳴らした陣営がテレビ画面を奪いに来ているのに対し、タイムワーナー、コムキャスト、ディレクTVら放送陣営もチャンス拡大とばかりに動く。AT&TやVerizonなど通信会社も本気だ。欧州でもBBCがBTと組むなど、5年前の融合バトルと同じ様相を呈している。どうする、ニッポン。

 ただ、スマートTVは、単純にテレビ画面を奪い合う構図にはならない。マルチデバイスとソーシャルが定着した融合ネットワーク環境に新しいテレビをどう据え付けるのか、その総合設計になるからだ。

 テレビ画面を見るには見ているが、HDDに録画したものをCM飛ばして見るか、ネットにつないでYouTubeを見る。CMに立脚したテレビのビジネスは底抜けだ。と同時にノートPCを開き、ググったりmixiに書き込んだりしている。と同時にケータイを開き、友だちとチャットしたりしている。そんな3スクリーン同時世代が着実に増えている。さらにそこにスマホやタブレットが乱入している。そんな中でのスマートTVなのだ。

 とすれば、これまでのサービスを根本的に見直さざるを得ない。テレビ屋はテレビ向けに、ネット屋はPC向けに、ケータイ屋はケータイコンテンツを作ってきた。すばらしいコンテンツを作ってきた。だけど、それじゃマルチデバイス同時ユーザーをつかまえることができない。ソーシャルサービスで連結したデバイスと人々とのつながりを紡ぎ直せ。

 2年ほど前、私はテレビ番組の二次利用を13%から50%に、コンテンツの通信・放送流通を39%から75%に高めることを政府の委員会で提案した。実行可能なターゲットだと考えたが、急進的すぎるとボコられもした。だが、それも放送の通信利用という枠でのアイデア。もはや全然違うターゲットの置き方を考える時期なのだろう。

 それは何なのかな。ポスト融合の新戦略。手元に答えがあるわけではないが、民放連で私が座長となって「ネット・ビジネス研究会」が始まり、私が代表を務める融合研究所でも「スマートテレビ研究会」を発足させた。

 とはいえ、研究しているヒマはない。仕掛けて、走る。あらためてその時期が来た。

Profile

中村伊知哉

中村伊知哉
(なかむら・いちや)

慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。
京都大学経済学部卒業。慶應義塾大学博士(政策・メディア)。

デジタル教科書教材協議会副会長、 デジタルサイネージコンソーシアム理事長、NPO法人CANVAS副理事長、融合研究所代表理事などを兼務。内閣官房知的財産戦略本部、総務省、文部科学省、経済産業省などの委員を務める。1984年、ロックバンド「少年ナイフ」のディレクターを経て郵政省入省。通信・放送融合政策、インターネット政策などを担当。1988年MITメディアラボ客員教授。2002年スタンフォード日本センター研究所長を経て現職。

著書に『デジタル教科書革命』(ソフトバンククリエイティブ、共著)、『デジタルサイネージ戦略』(アスキー・メディアワークス、共著)、『デジタルサイネージ革命』(朝日新聞出版、共著)、『通信と放送の融合のこれから』(翔泳社)、『デジタルのおもちゃ箱』(NTT出版)など。

twitter @ichiyanakamura http://www.ichiya.org/jpn/


イラスト:土井ラブ平


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