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» 2012年05月11日 00時00分 公開

お茶でも飲みながら会計入門・番外編(68):エンジニアのスタートアップで、会計知識はどれだけ必要か? (1/2)

意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。

[文:金武明日香,@IT]

本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。


会計知識はどれぐらい必要? クラウドビジネスの起業家に聞く

 ITエンジニアが独立・起業する時、技術知識“以外”で必須といえる「会計知識」。2011年は「アプリ開発で独立するなら、知っておきたい所得税」「アプリ開発で独立したら、消費税をどう納めるのか?」などがよく読まれたことから、興味を持っているエンジニアも多いことだろう。

 起業したら、サラリーマン時代には会社がやっていた会計関連の仕事を、自分でこなさなくてはならない。専門家に頼むにしても、企業勤め時代のように「全部お任せ」というわけにはいかない。

 では、具体的にどんな知識が必要で、どうやって勉強すればいいのか?

 今回は特別編として、2011年にクラウドビジネスで独立した、ソラウド代表取締役社長 山口雅太郎さんと、お馴染み“お茶会計の中の人”吉田さんの対談をお送りする。対談テーマはずばり「ITで起業した場合に、どこまで会計知識が必要か?」

 ソラウドは、モバイル機器アプリ向けソーシャル機能をAPIの形で提供する企業だ。アメリカ在住のエンジニアの知り合いが開発したBuddy PlatformというAPI型クラウドサービスを提供している。会社に籍を置いているのは山口さん1人で、他サポートの技術者4〜5名とともに運営している。

 「1人で経営するなら、会計知識は必須」と語る山口さん。会社勤め時代にどれぐらい会計知識があったのか、起業してからどんな会計知識が必要になったかを、ざっくばらんに語ってもらった。

●登場人物

吉田さん:ご存じ、「お茶会計」の筆者。ネットワークエンジニアとして働き、2005年に公認会計士の資格取得を志す。2007年に退職して同年に公認会計士試験に合格。取得した資格は簿記2級と1級、公認会計士。

山口雅太郎さん:ソラウド代表取締役社長。NTTデータ、ソニー、マイクロソフトで企画を担当。マイクロソフト時代の同僚がクラウドサービスを始めたということで、それを利用したサービスを開始。2011年6月に開業。

会計知識とは縁遠かったサラリーマン時代

吉田 山口さんは、独立する前はNTTデータやマイクロソフトといった大手企業に勤めていたとうかがっています。企業勤めをしていたころの会計知識はどれぐらいでしたか?

山口 正直、ほとんどなかったといっていいです。私は簿記なども持っていませんでしたし。あえて言えば、昇級試験で会計知識を問われましたが、本当に基礎的なことばかりでした。

吉田 基礎的なこと、というと、「経常利益」や「粗利と実利の違い」などですか?

山口 そうです。もともとNTTデータやソニーのころに私が担当していたシステムは、博物館や官公庁の観光端末、図書館のマルチ情報探索システムといったものがメインで、企業の会計業務には直接結びつかないものでした。そのため、業務系のソフトウェアを開発しているエンジニアよりも会計知識は少なかったと思います。

吉田 なるほど、会計とは結びつきが弱いシステムに関わっていたのですね。そうすると、実際に起業した段階で、会計知識を学んだということでしょうか。

山口 そうです。

独立してみて、いかにお金のことを知らないか、痛感した

吉田 少しお話は戻るのですが、なぜ起業を考えたのでしょうか?

山口 もともと、一度は起業してみたかったんです。マイクロソフト時代に同僚と「こんなサービスで起業したら面白い」と話していて、そのまま一緒にソラウドを立ち上げました。現在は、同僚が作ったクラウドサービスを基に、サービスを運営しています。

吉田 なるほど。起業してみて、最初の感想はいかがでしたか?

山口 いや本当、今までいかにお金の回り方を意識していなかったか、痛感しました。サラリーマンは、税金や年金などのことをほとんど知らなくても、紙1枚を会社に提出してしまえばいいので、ほとんど意識しないじゃないですか。せいぜい年末調整の時に、「なんか難しいことをやっているな」というぐらいです。ところが、起業すると自分で確定申告しなければならない。その時に初めて、「NTTデータ時代は共済年金だったのか!」と気が付いたぐらいです。

共済年金

 公務員が加入する年金制度。サラリーマンの厚生年金保険に相当するもの。現在のNTTは株式会社だが、昔は国営企業だったため、共済年金制度が残っている。


吉田 これまで知らなかったということが分かった、ということですね。でも、その発見は大きいと思いますよ。会社にいる間は、それすらなかなか気が付けないですから。

山口 そうですね。特に会社法や税法については、「皆、知っていて当たり前」というレベルまで、教育段階のどこかで教えた方がいいんじゃないかと思ったぐらいです。

吉田 というと?

山口 例えば、消費税は普段から支払っていますから「知っていて当たり前」です。少なくとも、正体不明のものを支払っているという認識ではない。でも、年金や税金になると、途端に「よく分からないけれど一応、払っている」ことが普通になっています。

 でも、社会保険の仕組みや会社法、税金の支払い方などは、消費税と同じぐらい、知っておいた方がいいと思うんです。「年末になぜ年末調整が必要なのか」と聞かれたら、ちゃんと答えられる人は、あまりいないと思います。私自身、まったく意識していませんでした。ですが、起業をしてみて「自分は何にお金を支払い、どういう仕組みで納税され、なぜ年末調整で返金されるのか」というお金の流れ方を知っておいた方がいいと感じました。社会の仕組みの基礎となる部分ですし、その仕組みの上で自分はお金を稼いでいるのに、それをほとんど知らないのは損だと思います。

吉田 自分でお金を稼ぐ時点で、すでにある程度「お金の回り方」を知っておいた方が良かった、ということですね。

山口 おっしゃるとおりです。高校でも大学でも、新入社員教育でもいいですが、社会で働く段階で、すでにきちんと知識があることが大事だと思います。もし私が企業勤め前にこうした基礎知識を知っていたら、いろいろ変わったと思いますね。

吉田 「変わった」というのは、先ほど「知らないのは損」とおっしゃっていた部分ですか。

山口 会社の仕組みを分かっていたら、さまざまな福利厚生などを、もっときちんと使っていたと思います。私は起業しましたが、もし転職を考えていたとしたら、社会保険や福利厚生などを比較できただろうし、転職の選択肢を増やせたと思います。

吉田 会社に所属しているうちに、勉強しておけば良かった、と思いますか?

山口 それはもう、心の底から(笑)。独立すると、本当にいろいろなことを1人でやらなければならなくて、大変ですからね。ちょっとでも時間があるなら、集中して基本的なことだけでも学んだ方がいいと、エンジニアの読者たちに強くお勧めしておきます!

起業してから勉強したこと、勉強していること

吉田 起業すると、会社を運営するために必要な知識を勉強しなければならないと思います。その中でも特に「会計」について、これまで勉強したこと、そして今勉強していることを教えてください。

山口 そうですね。1人で会社を運営していると、技術も経理も法務も私がやらなければならないので……。最初に必要なのは、やはり実務レベルでの処理のやり方ですね。具体的にいうと、弥生会計なのか勘定奉行なのか、というそんなレベルからのスタートでした。

弥生会計・勘定奉行

 代表的な会計ソフト、弥生会計は弥生から、勘定奉行はオービックビジネスコンサルタントから販売されている。会計システムについては、 「すべての道は会計システムに通ず――会計システム入門」を参照


 私は毎日、会計処理をしているのですが、外出費用などを個人の財布から出すか、企業の財布から出すかでも、ずいぶん違います。

吉田 実務レベルの悩みですね。しかし、ここはしっかり考えた方がいい。完全に分けないと、ごちゃ混ぜになりますからね……。

山口 青色申告のことも、初めはわけが分からなかったですね。青色申告会には“相談”するけど、税務署だと“指導”になるなど、同じことをしているつもりでも違うということにびっくりです。

青色申告会

 日々の帳簿付けから決算まで行う個人事業者をサポートする団体。


正直、教科書と実務のギャップが悩ましい

吉田 世の中にはたくさん会計関連の書籍が出ていますよね。こうした書籍は参考にしますか?

山口 一応、起業する前にアメリカに社会人留学し、MBAを学んだのですが、実際のスタートアップにはあまり参考にならなかったですね。

吉田 アメリカと日本という、国のギャップですか?

山口 それよりは、教科書と実務のギャップですね。アメリカで学んだことは、会計と経営の基本的な話なので、それなりに役立っているんです。ただ、管理会計の分野は、実務とすさまじいかい離がある。

 私は、サーバのクラウドサービスを売っています。初期投資がほとんど掛からないし、小さい資本金で運営しています。しかし、大学で学んだものは、工場だの土地だの、かなり大掛かりな話が多いんです。私としては自転車のペダルをどう踏むかを習わなければならないレベルなのに、F1カーの動く仕組みを習っているようなものです。

吉田 なるほど。それはかなり違いますね。スタートアップでIT企業が多いのは、そもそも初期投資や資本金が少ないからというのが大きいですが、そもそもの前提が異なっているということでしょうか。アメリカはベンチャーやスタートアップの文化が根づいていますが、日本はまだ不十分なところがあるので、余計に差を感じると思います。

山口 アメリカの場合は、資本を出すエンジェルやキャピタルが充実していますから、日本で起業するのとはかなり環境が違いますね。

吉田 とすると、日本でスモールスタートする際の情報が少ない、ということですか。

山口 圧倒的に少ないですね。基本的に、収入/支出がある時に必要な情報は、かなりあるんです。でも、起業したばかりの時は、お金が入ってこなくて、出ていくばかりじゃないですか。そういう結構シビアな時にこそ使いたい情報が、日本にはほとんどない。

 経営者にとって、負債なく資金を集めることはかなり重要です。借金などの負債を持たず、資本のカーブをへこませたくない人にとって必要な情報が少ない。本当の意味で、ベンチャーを育てるための有益な情報はない気がします。

吉田 確かに、書籍でもあまり見ませんね。

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